著者
辻野 綾子 米田 稔彦 田中 則子 樋口 由美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.96, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】脳卒中片麻痺患者の治療として、端坐位での側方リーチ動作を用いることがあるが、足底接地の条件の違いが運動特性にどのような影響を及ぼすかは明らかでない。本研究の目的は、足底接地の条件の違いによる端坐位における体幹のバランス機能について運動学的・筋電図学的に検討することである。【方法】対象は、健常女性12名(平均年齢20.6±1.9歳、身長158.8±2.4cm、体重51.8±5.0kgであり、全員右利きであった。運動課題は、大腿長55%が支持面となるように腰掛け、膝関節95度屈曲位に設定した背もたれなしの端坐位での肩関節外転90°位で上肢長130%の位置への右側方リーチ動作とした。条件は、(1)足底接地・閉脚位、(2)足底接地・開脚位、(3)足底非接地の3つにした。圧中心(以下COP)の位置を重心動揺計を用いて計測した。頭頂、第7頚椎、第12胸椎、第4腰椎、そして両側の耳介、腸骨稜、後上腸骨棘にランドマークを取りつけ、後方からのデジタルカメラによる画像から骨盤傾斜角度、体幹傾斜角度、立ち直り角度(左屈)を計測した。両側の脊柱起立筋(腰部L4、以下ES)、外腹斜筋 (以下OE)、中殿筋(以下GM)を被験筋とし、安静坐位と側方へのリーチ保持時の積分筋活動量を測定し、最大等尺性収縮時の値で標準化した。3条件間での測定値の比較には、対応のある一元配置分散分析を用い、有意水準を5%未満とした。【結果】1) COP移動距離:条件(1)や(3)より(2)が有意に大きく、(1)が(3)より大きかった。2)Kinematics:骨盤傾斜角度は、条件(1)、(2)、(3)の順に有意に増大した。体幹傾斜角度は、条件(1)や(2)より(3)が有意に大きかった。立ち直り角度は、条件(3)より(2)が有意に大きかった。3)各筋の%IEMG:右GMは、条件(2)が(3)より有意に大きかった。左GMは、条件(3)が(1)より有意に大きかった。左OEは、条件(3)が(1)や(2)より有意に大きかった。右ES、右OE、左ESにおいては、3条件間に有意差はみられず、右側の筋活動は左側に比べ小さなものであった。【考察・まとめ】条件(2)はCOP移動距離が最も大きく、条件(3)はCOP移動距離が最も小さいが左のGM、OEの大きな筋活動を要求した。それにより、開脚位で足底接地した端坐位でのリーチ動作はCOPの移動を行いやすい傾向にあり、足底非接地の端坐位でのリーチ動作はリーチ側とは対側の大きな体幹筋活動を要求するといった特徴があることが示唆された。
著者
辻野 綾子 田中 則子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.245-248, 2007 (Released:2007-07-11)
参考文献数
12
被引用文献数
14 8

立位での前方リーチ動作の際には,前足部への荷重が増大し,足趾の支持が重要になると考えられる。本研究では健常女性19名を対象とし,立位での足趾圧迫力の大きさと前方リーチ時の足圧中心(Center Of Pressure:COP)位置との関係を検討した。その結果,10°前方傾斜リーチ(股・膝関節,足部規定あり)条件と最大前方リーチ(規定なし)条件において,母趾圧迫力と最終肢位保持時のCOP位置には有意な正の相関が認められ,最大前方リーチ条件では母趾圧迫力のみならず,第2~5趾圧迫力と最終肢位保持時のCOP位置においても有意な正の相関が認められた。これらの結果より,前方リーチ保持時には足関節底屈力だけでなく,前足部や足指の底屈方向への力発揮も重要であることが示唆された。
著者
辻野 綾子 平山 哲 佐川 史郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3217-E4P3217, 2010

【目的】<BR> 当院は施設に入所されている知的障害児者を対象にリハビリを提供している。対象者がリハビリを理解し意欲的に進めていくためには知的能力の十分な発達が必要であり、知的能力の発達状況によりリハビリの内容や方法、到達点を特段考慮せざるを得ないことが多い。また知的障害以外に様々な問題を抱えているためにリハビリそのものを実施できないことも多く、特に生育過程で不適切な養育を受けた場合には、リハビリを実施する以前の段階で考慮しなければならない点が非常に多い。そのような経験を持った対象者に接する際には十分な準備と注意を要する。乳幼児期に虐待を受けた経験のある知的障害を伴った多発骨折患者の症例を経験したので、それらの特性を踏まえて報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象者は児童施設に入所中の17歳男性で、基礎診断は知的障害と反応性愛着障害。学校校舎より転落、両足部を含む多部位骨折を受傷し外科的治療後当院へ転院。両足部を外科的固定された段階でリハビリ開始される。基礎診断に特異な問題のある対象者に対するリハビリの実施方法を事前検討し、実施内容や経過を後方視的に検証した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には今回の発表内容や形式について説明し同意を得た。また本児の処遇担当職員(児童施設の職員、ワーカー)を通じて家族の承諾を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 受傷後5週目より両足部ギプス固定のため患部外トレーニングを中心に実施した。対象者の知的能力にあわせたセラバンドを用いた自主トレーニング(自主トレ)を作成し開始。シャーレ固定になり次第、患部のROMexや筋力トレーニング開始し、タオルギャザー(自主トレにも追加)も開始する。受傷後8週目には左足は足底板装着による全荷重許可され、右足は1/3荷重より開始となり立位訓練に移行。体重計を用いての荷重量の学習ができてから歩行訓練を平行棒内より開始し松葉杖歩行へ移行。受傷後9週目に全荷重松葉杖歩行が可能となり当院を退院し週3日の通院リハビリを開始。同時に施設職員との連携も行い施設内での自主トレも同じように進めていった。徐々に松葉杖歩行は安定してきたものの跛行があった時期には片松葉杖歩行の訓練を行い、跛行消失後の受傷後6カ月目より独歩での日常生活開始。受傷後9カ月目には通院リハビリ終了し部活動も再開した。<BR><BR>【考察】<BR> 受傷前の生活レベルの獲得までに9ケ月を要したが、知的障害児であったことを考慮すれば順調にリハビリが進んだものと考えられた。知的障害児は同年代の子どもに比べ知識や技能を有用に活用できるだけの能力や経験に乏しいことが多く、また主体的に活動に取り組む意欲が十分に育っていないことも多い。そのため抽象的・思考的な内容より、実際的・具体的な内容や短期目標設定などの指導が効果的となりやすい。当症例は中度の知的障害があり情報整理が困難であった為、運動指導の際には明確で分かりやすい表現や方法が必要だった。プログラムの内容は同一肢位で行えるよう配慮し、指導用具には簡単で分かりやすいようにイラスト表記を用いた。また、当症例は虐待経験から自己肯定感が希薄で失敗すると過度に落ち込んでしまい意欲の低下をきたすことがあった。リハプログラムを進める際には容易な課題から行っていき成功経験を増やすよう工夫した。跛行が生じている間は安定して実施できている片松葉杖歩行を継続させ成功体験を増やし意欲的に自主トレを継続させるように努めた。また「もう一生治らないって思ってきた」などの負の感情が芽生えることがあったが、受傷後と比較し出来るようになったことを強調し努力を誉めるなどしてモチベーションの維持に努めた。本児の主張が時と場面で変化し、大人の対応や返答が都度異なることにより情緒的に不安定になることがあった。そのため、他施設の職員との連絡を密にし本児に対する対応が異ならないように努めることも必要であった。知的障害があり虐待による経験からの問題行動が見られる児童であっても障害特性を理解して対応し、周りの環境や人的要因にもアプローチすることにより、必要なリハビリを進めることが出来たと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 被虐待児の多くは情緒行動上の問題が多く、さらに知的障害を伴うと一般病院での医療ケアを十分に受けることが困難で、当症例のようにリハビリが進まない段階で退院となることがある。当院でも児童期の骨折後のリハビリが不十分であったため、中高年期にその後遺症が顕著となる症例が多くみられ、知的障害者が高齢になった際に健康で豊かな生活を送るためにも児童期のリハビリは大切であると考えられる。今回の発表により、知的障害児や被虐待児の障害特性を知ってもらい、当症例のようなケースへの対応に生かせて頂きたい。