著者
遠藤 知子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.126-138, 2020-03-20 (Released:2022-04-04)
参考文献数
55

政策事業の効果を機能主義的に検討する先行研究に対し,本稿では社会福祉政策を支配的な社会規範の「象徴」として捉える視点から,これまで就労支援の対象として考えられてこなかった高齢者の位置付けの変化に着目し,生活困窮者自立支援制度の導入と展開が象徴する労働と福祉に対する規範を浮かび上がらせることを目的とする。社会的なつながりを通じて自立への意欲を育成することを目指す生活困窮者支援は,「雇用を通じた福祉」と「家族を通じた福祉」が縮小した中,社会一般の新しい規範として,社会関係の中で主体性を身につけ,生涯を通じて職場や地域で活躍し続ける個人を支持していることを明らかにする。本稿では,社会福祉政策が表向きの目標を達成することを目指すだけでなく,その背後にある価値が社会を方向付けることを示し,現在の生活困窮者自立支援制度が反映する価値選択の帰結として二つの方向性を提示する。
著者
遠藤 知子
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2_125-2_144, 2020 (Released:2021-12-15)
参考文献数
35

近年、福祉資本主義の機能不全を背景に資本主義経済を民主的にコントロールする手段として産業民主主義や職場民主主義の議論が復活している。こうした流れの中で、20世紀を代表する政治哲学者のジョン・ロールズが正義にかなう体制として生産用資産と人的資本を広く分散させる財産所有制民主主義を提唱し、その主要制度の一つとして労働者管理型企業の可能性について言及していることは注目に値する。ロールズの正義論に内在的な理由から労働者管理型企業を擁護する論者は、格差原理が目指す影響力や自尊心の互恵的な分配には何らかの職場民主主義が要請されると主張する。本稿では、これまであまり注目されてこなかった財産所有制民主主義の 「単位」 の問題に焦点を当て、個別の企業や職場内部の民主主義がミクロな単位で最不遇者の境遇改善に寄与したとしても、ロールズの正義論が目指すマクロな制度的正義が実現されるとは限らないことを明らかにする。その上で企業や職場内部の民主主義を基本構造の正義とつなげる三つの可能性について検討する。
著者
遠藤 知子
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_204-2_225, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
32

これまで就労と福祉を分離することの最大の規範的課題としてフリーライダーの問題に焦点が当てられてきた。スチュワート・ホワイトによれば, 他の条件が公正な場合, 社会的協働の成果を享受しつつその創造に参加しないことは貢献した人々から搾取することであり, 彼ら彼女らに対する互恵的な尊重を怠ることである。本稿では, 搾取とは当事者の間で協働のルールを決める手続きが不公正であることに起因する点を明らかにする。その上で公正な手続きにもとづいて導出されるロールズの自由原理を参照点とし, 働かずに福祉給付に依存することが労働者・納税者の平等な地位を侵害する搾取に当たるのかどうかを検証する。その結果, それぞれの自由の間で均衡を保つ閾値にまで働く人から働かない人に財を移転することは正当化しうることを明らかにする。互いの最大限広範な自由を平等に尊重することは公正な条件の下で両者にとって合意可能であるため, その限りで働く納税者が脱生産主義的な善の構想を抱く人々を支えることは, 両者の市民としての平等な地位を互恵的に尊重することと矛盾しない。