- 著者
-
遠藤 知弘
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
本研究では、未臨界状態において直接測定しやすい量を有効活用することで、数値計算による核燃料の臨界安全性(実効中性子増倍率keff)の予測精度を向上することを目的とし、研究期間全体を通じて以下で述べる研究に取り組んだ。まず、遅発中性子先行核の効果を陽に取り扱ったω固有値方程式に対して一次摂動論を適用することで、任意の核データに対する即発中性子減衰定数αの感度係数について効率的な評価手法を新たに考案した。自作のエネルギー多群拡散計算およびSn法に基づく中性子輸送計算により、直接摂動法による感度係数の参照値と比較することで提案手法の妥当性を確認した。次に、運転停止中の京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)で測定された原子炉雑音(中性子計数の時間的揺らぎ)に対して、ブートストラップ法を活用したFeynman-α法によりα測定値を求めた。こうして得られたα測定結果を活用したデータ同化(バイアス因子法、炉定数調整法)により、核データに起因したkeff予測結果の不確かさが低減でき、数値計算における入力パラメータの一つであるウラン235核データ(核分裂スペクトル、ν値)の不確かさも低減できることを確認した。また、中性子計数率の時系列データを活用したデータ同化として、粒子フィルタ法による未臨界度の逆推定について検討した。粒子フィルタ法では、逆推定したい状態パラメータ(未臨界度など)にシステムノイズを与えた上で、一点炉動特性方程式に基づいた数値計算による予測を多数回実施し、実際に測定された中性子計数率との尤度が高くなるように、ベイズ推定により状態パラメータを逐次更新する。近畿大学原子炉およびKUCAで測定された中性子計数率の時間変化に対して本手法を適用することで、制御棒操作などに起因した未臨界度の変化を逆推定できることを確認した。以上の研究成果より、本研究の目的を達成することができた。