著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.1-7, 2017-03-28

現代語の形容詞「おいしい」は、「味が良い」ことを表現した古語「うまし(うまい)」を女性たちが「おいしい(いしい)」と言い換えて使用し始めたことに由来1)するものである。江戸時代の往来物資料には、同義語でありつつ使用者の性別を分化する「うまい」と「おいしい」の両語形が確認できるが、意味としては「おいしい」は、「味が良い」ことに限定されていた。「おいしい」の使用者は、当初は女性だけであったが、その後、男性にも波及し、現在では「味が良い」意として一般的に使用されている。ビールの広告用語では、「おいしい」より「うまい」が多用されており、「うまい」は、「おいしい」の誕生によって敬意が低減した一方で、味覚表現の「おいしい」に比して、より強調的で断定的な意味を有する語として機能していると考えられた。他方、近年、「おいしい生活」「ヱビスは時間をおいしくします」といった「味が良い」意味でない、新しい用法が生まれ、定着しつつある。その背景には、「おいしい」が、古い語形「うまい」がもつ多様な意味に影響されて、意味を拡大派生させた一面があると考えられるであろう。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.106, pp.1-7, 2011-10

弘前市立図書館に所蔵されている、寛政五年( 9 )刊の『都花月名所』の資料性について検証したものである。京都府立総合資料館にも同様の文献が所蔵されているが、従来、地誌資料として扱われて地理学的分野での研究対象とされてきた。本稿では、それぞれの文献を比較検討した結果、京都府立総合資料館所蔵本が不完全本であること、弘前市立図書館所蔵本が刊行時の様相をとどめた善本資料であることを明らかにした。その上で、国語資料としての『都花月名所』の可能性を探るために漢字表記に付された振り仮名に注目し、四つ仮名や連声、カ行合拗音といった言語事象について考察検討し報告した。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.123, pp.1-8, 2020-03

石川県立図書館の川口文庫に所蔵されている近世期版本の往来物資料について、書誌的な調査結果を含め、紹介する。石川県立図書館には、〈森田文庫〉〈饒石(にぎし)文庫〉〈李花亭文庫〉〈川口文庫〉といった特殊文庫があり、所蔵往来物資料の調査結果については、すでに公表1)している。本稿では、〈川口文庫〉所蔵の23本に焦点をあてて、画像を含め報告する。目的別に分類すると、教訓科往来0本、社会科往来2本、語彙科往来1本、消息科往来16本、地理科往来1本、歴史科往来3本、産業科往来、理数科往来、女子用往来は0本という結果であり、消息科往来の割合が大きかった。出版地域別では、京都が8本、江戸が7本、大坂が1本、不明が7本という結果であり、京都大坂を合わせた関西圏での出版が、江戸より若干上回るという傾向がみられた。 特殊文庫においては、本稿で紹介する〈川口文庫〉を含めて、総計34本の近世期版本往来物資料が確認できた。北陸地域という枠組みでみれば、新潟県立図書館所蔵の往来物資料は、江戸文化圏からの流入が多いという傾向がみられたが、石川県立図書館では、関西圏と江戸での差異がそれほど顕著でないことが明らかとなった。 往来物の分布を通して、地域の教育的背景の格差や文化伝播状況などを解明することを目的としているが、本稿は、他地域の状況と比較する上での基盤となる調査の一報であるといえよう。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.99, pp.1-7, 2008-03
被引用文献数
1

2007年2月に文化庁文化審議会国語分科会が「敬語の指針」(答申)を発表した。その内容を手がかりにしながら、従来の敬語教育について再検討し、今後の敬語教育についての留意点や方向性について、考察検討を加えたものである。現時点での教育現場、特に教科書における敬語教育の内容を比較検討し、現状での課題を提示した。また、日本語学分野における敬語論をふまえて考察してみた結果、今後の敬語教育の方向性として、従来の絶対敬語としての敬語教育から、相対敬語、つまり他者への配慮としてのコミュニケーション重視の敬語教育への転換期にあることを論じた。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.90, pp.1-8, 2003-10

青森県弘前市においては,「わ」という-人称代名詞が「私」に代替する表現形として使用されている現状がある。日本語の場合、-人称代名詞は、使用場面や相手によって意識的にせよ無意識的にせよ選択されて使用されている。言語習得時期を過ぎ、言語使用を自己判断によっているといえる成人男女において、とくに方言形である「わ」という一人称代名詞が,どのように弘前において使用されているのかについて,その実態調査をもとに考察検討したものである。近年,方言は言語の文化的側面を示したものとして,重要視され注目されているが,実際の使用者の意識はどのようなものであろうか。方言主流社会1・といわれている弘前で,年代による,また男女による,使用実態の差や使用意識の差がどのように分布しているのかを検討し,今後の言語使用の在り方について,その方向性を探ってみたい。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.106, pp.1-7, 2011-10-20

弘前市立図書館に所蔵されている、寛政五年( 9 )刊の『都花月名所』の資料性について検証したものである。京都府立総合資料館にも同様の文献が所蔵されているが、従来、地誌資料として扱われて地理学的分野での研究対象とされてきた。本稿では、それぞれの文献を比較検討した結果、京都府立総合資料館所蔵本が不完全本であること、弘前市立図書館所蔵本が刊行時の様相をとどめた善本資料であることを明らかにした。その上で、国語資料としての『都花月名所』の可能性を探るために漢字表記に付された振り仮名に注目し、四つ仮名や連声、カ行合拗音といった言語事象について考察検討し報告した。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.121, pp.1-6, 2019-03-28

新潟県立図書館に所蔵されている近世期版本の往来物資料について、出版地域別に分類整理した調査結果を報告する。総数では、72本の近世期版本の往来物資料が確認され、目的別分類では、教訓科往来9本、社会科往来は所蔵なく、語彙科往来5本、消息科往来16本、地理科往来1本、歴史科往来5本、産業科往来11本、理数科往来18本、女子用往来7本という結果であった。出版地域別の分類では、江戸が37本で最も多く、京都7本、大坂14本、名古屋1本、不明が13本という結果であった。 北前船の寄港地である秋田や酒田の往来物資料の調査結果1)では、京都と大坂の出版が多く、関西圏から海路で運ばれたと思われる資料が多数を占めた。一方、今回の調査で、同様の寄港地である新潟においては、江戸出版の資料が多数であったという結果を得た。新潟では、資料が海路よりも陸路で江戸から流入した可能性が高いと考えられた。文化交流の経路という視点から、興味深い示唆を与えてくれる結果であるといえよう。 往来物の分布を通して、地域の教育的背景の格差や文化伝播状況などを解明することを目的としているが、目的別分類の調査結果に加えて、本稿で紹介する出版地域別分類の調査結果は、他地域の状況と比較する上で基盤となる研究成果である。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.110, pp.1-8, 2013-10

山形県立博物館の分館である教育資料館には、近世江戸時代の文献資料が多数保存されている。継続的に行ってきた北東北地域の文献資料の研究調査を背景にして、本稿では『改正絵入南都名所記』について紹介する。現在の奈良、古くは大和や南都とも呼ばれた地域を紹介した地誌資料には、この『改正絵入南都名所記』のほかにも多種多様の資料が存在しているが、それらにも触れつつ、当該資料の価値について検討考察を行った。山形県立博物館教育資料館所蔵の『改正絵入南都名所記』については、『国書総目録』『古典籍文献目録』にも記載がなく、従来まで未見未詳のものであり、紹介することに意義があるだけでなく、東北文化圏における関西文化受容という意味においても、注目すべきものであることを指摘した。加えて、東京都立中央図書館特別文庫所蔵(加賀文庫)の『南都名所記』との比較検討を行い、それぞれの資料の特質について提示した。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.107, pp.1-6, 2012-03

山形県酒田市立の光丘文庫に所蔵されている文献資料について調査を行い、特に近世期江戸時代に作成された往来物資料の所蔵状況について検討考察した。その結果、かなりの所蔵―総数 本―が確認でき、全容解明には時間を要することが判明した。本稿では、その所蔵状況について目的別の9種類に分類整理の上、報告し、加えて版本の出版地域に着目した調査結果を提示した。継続的に行ってきた、北東北地域-弘前市立図書館所蔵・八戸市立図書館・岩手県立図書館・秋田県立図書館-所蔵の往来物資料と比較すると、多数多種の資料を有することや特に関西文化圏―京都・大坂―からの文献資料の流入が明らかとなった。地域における資料の偏在状況と、資料の分類整理を通してみえてきた諸特徴についての一面を提示し、それぞれの地域における教育環境や文化的背景の共通点や相違性など、新たな視点からの研究の可能性を示唆したものである。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

従来、発掘整理や資料価値など、研究が十分にすすんでいなかった、往来物資料について、調査を実施し、その分類整理を行った。特に北東北地域所蔵の往来物資料について、書誌的文献学的な紹介とともに、その分布や偏在状況を提示した。近世期における秋田、岩手、青森の諸地域の教育環境や文化的背景を考察検討するうえで、それらの資料群が重要な示唆を与えてくれるものであることが判明した。今後、近世庶民生活や教育の実態について、発展的応用的な研究基盤となることが期待される。