著者
出 佳奈子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.118, pp.85-97, 2017-10

第二次世界大戦終結後の1940年代後半期、GHQ 統制下における日本の女性誌(少女雑誌を含む)においては、女性が「知的教養」を身につけることの必要性が声高に主張された。それに伴い、各種の少女雑誌は少女読者たちに向けて、学校教育における教科を鑑みつつ、女性としてもつべき教養をさまざまな記事を介して説くようになる。本稿は、当時、10代前半の多くの少女たちに支持された『少女倶楽部』(講談社)における美術観賞記事に注目し、そこで展開された西洋美術の紹介が、「教養」を求める戦後の風潮をもとに構成されていること、しかしながらそこには同時に、明治以来の良妻賢母の育成を旨とする女子教育観が依然として受け継がれていることを指摘していく。
著者
中山 忠政
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.120, pp.121-125, 2018-10

2016年5月に改正された発達障害者支援法を対象に、改正の経緯ならびに改正法にみられた特徴を検討した。改正法案は、日本自閉症協会の要望をきっかけとして、発達障害の支援を考える議員連盟を中心に検討されたものであった。改正法にみられた特徴としては、新設・追加された条項が多数にのぼったこと、障害者基本法や障害者総合支援法との「整合」が強く意識されたものであったこと、発達障害の「特性」など、障害の固有性やその支援における独自性がより強調されるようになったこと、などがみられた。今後の課題としては、国際疾病分類の改定に対応した、発達障害の範囲や定義についての検討が必要なことであった。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.123, pp.1-8, 2020-03

石川県立図書館の川口文庫に所蔵されている近世期版本の往来物資料について、書誌的な調査結果を含め、紹介する。石川県立図書館には、〈森田文庫〉〈饒石(にぎし)文庫〉〈李花亭文庫〉〈川口文庫〉といった特殊文庫があり、所蔵往来物資料の調査結果については、すでに公表1)している。本稿では、〈川口文庫〉所蔵の23本に焦点をあてて、画像を含め報告する。目的別に分類すると、教訓科往来0本、社会科往来2本、語彙科往来1本、消息科往来16本、地理科往来1本、歴史科往来3本、産業科往来、理数科往来、女子用往来は0本という結果であり、消息科往来の割合が大きかった。出版地域別では、京都が8本、江戸が7本、大坂が1本、不明が7本という結果であり、京都大坂を合わせた関西圏での出版が、江戸より若干上回るという傾向がみられた。 特殊文庫においては、本稿で紹介する〈川口文庫〉を含めて、総計34本の近世期版本往来物資料が確認できた。北陸地域という枠組みでみれば、新潟県立図書館所蔵の往来物資料は、江戸文化圏からの流入が多いという傾向がみられたが、石川県立図書館では、関西圏と江戸での差異がそれほど顕著でないことが明らかとなった。 往来物の分布を通して、地域の教育的背景の格差や文化伝播状況などを解明することを目的としているが、本稿は、他地域の状況と比較する上での基盤となる調査の一報であるといえよう。
著者
大谷 伸治
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.120, pp.31-41, 2018-10

"「終戦」の日はいつか?"―この問いに、多くの日本人は8月15日と答えるだろう。昭和天皇がラジオ放送(玉音放送)でポツダム宣言受諾の旨を国民に伝えた日であり、現在「終戦記念日」とされているからだ。しかし、玉音放送をもって終戦と捉える見方(「8・15 終戦」史観)は正確ではない。第一に、ソ連参戦により、8月15 日後にも戦闘があった地域の存在を忘却している。第二に、8月15 日は国際法的に終戦といえない。ポツダム宣言受諾の旨を連合国に通告したのは8月14 日。正式に降伏文書に調印したのは9月2 日である。高校日本史教科書はおおむねその点を正確に記述しているものの、小中学校教科書は学び舎を除き「8・15 終戦」を採用しており、小中学校の段階で「8・15 終戦」史観を再生産してしまう現状がある。そのため、小学校から「8・15 終戦」史観を相対化する授業が必要だと考え、樺太・千島戦など北海道の事例を教材化し実践を試みた。
著者
冨田 晃
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.123, pp.121-132, 2020-03

This is a monograph on steelpan history in Japan. In Japan, fast half of 1990s became a boom of World Music. Before World Music Boom, some occasions such as Expo 1970 in Osaka and Expo 1975 in Okinawa, steelbands from Trinidad landed to Japan. It was that Japanese government tried to establish international prestige by "Display the World". "Discover America"(1972) of Van Dyke Parks, a U.S. artist, influenced to some Japanese Pro. musicians, such as Haruomi OSONO.They took steelpan for their artistic creation and self-orientalism / self-exotisism. In 1970s-80s also the timbre of steelpan was diffused by electric organs with the name of steeldrum". In this time the use of steelpan as a timbre material. Regardless of its cultural and historical background of the birthplace. Under the World Music Boom of 1990s, several teelbands from Trinidad, such as Renegades and Panberi realized Japan Tours. Music shops sold imported steelpan CDs. The steelpan became to be recognised as "music" of the birthplace, Trinidad. Several Japanese young visited to Trinidad to meet the steelpan, some of them for playing, some of them for making. They started Japanese Steelband Movement. At present, more than twenty steelbands, around one thousand pan-persons and about five steelpan builders exist in Japan. In Japan, from fast age of arriving until now, the steelpan has been connected with the image of "Tropical Paradaise".
著者
近藤 有紀 葛西 敦子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.123, pp.165-173, 2020-03

本研究は,大学生の中でも今までに一回もたばこを吸ったことがないと自己申告した非喫煙者(以下;非喫煙大学生)を対象に質問紙調査を実施し,非喫煙大学生が喫煙者やたばこに対し抱く嫌悪意識に関する要因を明らかにすることを目的とした。370名(男性112名,女性258名)から回答を得た。①370名のうち38名(10.3%)がたばこの『煙』,87名(23.5%)がたばこの『におい』が気になると回答していた。②たばこの『煙』を嫌だと「感じる」者は311名(84.1%),たばこの『におい』を嫌だと「感じる」者は301名(81.4%)であった。③非喫煙大学生が喫煙者やたばこに対し嫌悪意識を抱く要因に関する因子として,第1因子「喫煙者への負のイメージ」,第2因子「人的背景」,第3因子「周囲への影響」,第4因子「においの影響」,第5因子「マナー違反」の5因子が抽出された。本研究で,非喫煙大学生は,たばこの『煙』や『におい』に嫌悪意識を抱いている者が9割以上おり,特にたばこの『におい』に嫌悪意識を抱いていることが明らかとなった。
著者
朝山 奈津子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.122, pp.67-75, 2019-10

1815年のネーデルラント連合王国の成立から1830年のベルギー独立、1914年の第一次大戦勃発に至る100年間は、ドイツ語圏で音楽雑誌が相次いで刊行されて情報の流通が活発化し、またキーゼウェッターG. R. Kiesewetter(1834)、ブレンデルF. Brendel(1852)らの通史によって、ドイツ語による音楽史が形成された時期に当たる。また、1826年のオランダ政府による論文公募は、「ネーデルラント楽派」という言葉と概念が定着する契機となった。 本稿では、ルネサンス時代に「ネーデルラント楽派」を輩出し、オランダ語とフランス語の2つの言語領域に分かれているベルギーの音楽状況が、隣国ドイツの19世紀の音楽ジャーナリズムの中でどのように伝えられたのかを調査し、「ベルギー」と「ネーデルラント」、また「フランドル」といった地域名を通じて何が語られたかを考察した。
著者
三上 由希野 篠塚 明彦
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Hirosaki University (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.117, pp.21-29, 2017-03

明治政府は、日本を近代国家とするために、様々な政策に着手し、弘前でもまたこの流れに遅れをとるまいと、近代社会実現にむけた活動が活発に行われていた。しかし、それは明治政府の近代化とは一線を画すところもあった。こうした弘前の近代化の過程にあっては、旧弘前藩出身の士族層が地域リーダーとして活躍していた。弘前周辺でも、江戸時代の後半以降、豪農や豪商の成長もみられていた。だが、明治に入っても士族層が大きく没落することのなかった弘前においては、そうした豪農層や豪商層の成長にも関わらず、相変わらず士族層がリーダーとして地域を支える役割を担っていたのである。これは、全国的な状況、例えば自由民権運動において「士族民権から豪農民権へ」という地域リーダー層が交替する姿とは些か異なる状況にあった。本稿では弘前における地域リーダーとして活躍し続けた士族の姿を明らかにし、日本における近代化の様相の個別性を再考する。