- 著者
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酒井 弘憲
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.2, pp.151-153, 2014
世の中,統計ブームである.2012年10月,トーマス・ダベンポートがハーバード・ビジネス・レビュー誌で「データサイエンティストは21世紀で最もセクシーな職業である(Data Scientist:The Sexiest Job of the 21st Century)」というセンセーショナルな記事を書いて以来,新聞やニュースを見てもビッグデータ,データサイエンティスト,統計(なかには,データねつ造,改ざんといった好ましくない報道もあるが)といった言葉を目にし,耳にしない日はないと言えるだろう.書店を覗いても,ビジネス誌で「統計」の特集が幾つも組まれているし,それまで一部の専門家だけのものであった「統計」の本がベストセラーになったりしている.ややブームが行き過ぎの感もあるが,データを扱う業務に携わっている立場からすると,脚光が当たるのは有難いことには違いない.こうやって見てみると,我々の身の回りには「統計」「データ」に関する情報が満ち溢れている.しかし,多くの人がそれらの言葉や情報を正しく理解できているとは言い難い.ビッグデータは無限の可能性を持った宝の山であるかのようにもてはやされ,データサイエンティストはハリー・ポッターのように玉石混交の巨大データから,いとも簡単にダイヤモンドのように有用な情報を掘り出すことができるかのような漠然とした幻想が世の中に充満している.もちろん,マスコミの情報操作も(意図するか否かは別として)多分にあるし,不親切な公的統計の提供方法などにも問題があることは確かである.なお,府・行政の名誉のため一言申し添えるならば,安倍内閣の日本再興計画(2013年6月14日公表)の1項目であるIT戦略で,一般国民が公的統計データをより使いやすくするための取り組み(どんな情報がどこにあるかというインデックス作りと検索窓口の一本化)を始めており,2014年度からはそれが実現化しはじめるはずである.常に物事を悲観的に見る必要はないが,楽観的に見すぎることも危険なことである.正しい統計リテラシーを身に付け,マスメディアに流れるデータや情報を冷静に客観的に見つめ分析することは,現代に生きる我々には必要不可欠な常識といってもよいのかもしれない.このたび縁あって,ファルマシア誌から「6 回の予定で,気楽に読める統計に関する話題提供を」ということで依頼を受けた.本誌を目にされる大方の読者は統計にはあまり馴染みがなく,数式アレルギーの方も少なくないと拝察する.著者自身も正直なところ,好きか嫌いかと問われれば,数式は苦手な方である.そのため,タイトルも「数式なしの統計のお話」とし,データを見る目を養うヒントや,統計にかかわりを持った人物のお話などを中心に紹介することにした.本誌の専門記事に目を通したあとで気分転換の気軽な気持ちで読んでいただき,多少でも統計に興味を抱いていただければ望外の喜びである.