著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.566-567, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

あっという間に1年が過ぎ,昨年12月でこの連載も終わったと,ホッとしていたのもつかの間,編集部からあと1年連載を続けて欲しいとのご依頼があった.有難いお話ではあるが,さてどうしたものかと思ったものの何とかネタを絞りだして,あと6回書き続けてみることにした.読者の皆さんももう少しお付き合い願えれば幸甚である.先日,非常勤講師を務めている九州大学に講義に行き,講義終了後に仲良しの統計の准教授と一緒に透き通ってコリコリとした食感が堪らない“呼子の烏賊の活き造り”を肴に一杯やっていたところ,その准教授の講座の教授,助教として最近2名の英国人が赴任してこられたということを伺った.英国人というので,准教授は,気を利かせて,某有名メーカーの紅茶に,ティーポットとカップのセットを買い込み勇んで待ち受けていたところ,何と2人とも紅茶よりもコーヒー党であったというオチであった.ひとしきり笑ったのだが,考えてみれば,英国では,紅茶よりもコーヒーの歴史の方が古いのである.英国に初めてコーヒーハウスなる店が開店し,コーヒーを提供し始めたのが1650年とされている.オックスフォードでは,1654年に開業したクィーンズ・レイン・コーヒーハウスが現在でも営業を続けているらしい.ロンドンでも1652年からコーヒーハウスが開店し,情報収集の重要な役割を果たすようになる.当時から金融センターであったロンドン・シティの取引所近くのコーヒーハウスには,多くの商人が情報を求めて集まった.その中でも特に,ロイズ・コーヒーハウスには,船主たちが多く集まり,店では船舶情報を載せる「ロイズ・ニュース」を発行していた.店で船舶保険業務を取り扱うようになり,これがロイズ保険会社の起源となった.一方,紅茶は1717年に,イギリスで最初のティー・ハウスであるゴールデン・ライアンズが開店した.インドでアッサム茶の原木が発見されたのが1823年なので,この頃は中国茶が原料であったはずである.その後,大英帝国がインドを支配し,徐々にコーヒーに代わる非アルコール飲料として,紅茶が市民生活に定着していくことになった.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.790-791, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

昨年は年末に任期の半分というタイミングで衆院選挙が行われ,つい先日も統一地方選挙が行われたが,開票があまり進んでいないにもかかわらず,選挙速報で「当選確実」のクレジットが出るのを不思議に思われている方もいるのではないだろうか? 選挙では,よく出口調査をやっているのにお気付きだろう.結論を先に言えば,選挙速報での当確情報は,実際の開票状況と出口調査の結果に基づいている.そもそも,調べたい対象の全てのデータを得ることは,多くの場合,不可能である.そのため一部のデータ,つまり抽出サンプルから,全体の母集団を推定することが必要になる.一部から全体を予測する統計的方法として,「推定」という考えがある.推定の良さは,一致性や不偏性などによって決まってくる.一致性とは,データの数が多くなればなるほど,1つの値に収れんしていく性質のことである.つまり,少ないサンプルよりは多数のサンプルを集めた方が,良い推定が可能になるということである.不偏性とは,偏りのないことであり,推定値の期待値が真の値に限りなく一致してくるということである.説明を簡単にするために,出口調査で,ある候補者Aの得票率を推定することを考えてみよう.例えば,投票を済ませた任意の100人の有権者に投票した候補者を聞いたところ,そのうち45人がAに投票したと答えたとしよう.この場合,注目するAの得票率は45/100=0.45である.この値は一点決め打ちの推定値なので点推定値と呼ぶ.この値に基づいて,Aの真の得票率(これは全部の票を開票してみないと分からない)に対する区間推定,つまり,上で調査した0.45という得票率がどのくらいの信頼性を持っているのかということを調べてみる.ここでは,Aが立候補した選挙区で投票した有権者全体が母集団ということになり,出口調査の対象となった100人が標本ということになる.標本が100人で,調査結果としてAに投票した人数が45であるとすると,得票率45%の信頼度95%の信頼区間は,0.3525~0.5475となる(簡単な式なので提示しておくと,p±1.96√(p(1-p)/n)で計算できる).いま,Aに対立するB候補がいるとしよう.Bに投票したと答えた人数が100人中35人であったとする.そうすると,Aに投票したとする人よりも10%少ない.したがって,かなりの確率でAの方がBよりも得票率が高いと言えそうであるが,本当にそうだろうか? 実際にBの得票率について同じく95%信頼区間を計算してみると,0.2565~0.4435となる.これは,Aの信頼区間とかなり重なっている.つまり,Aの得票率は低ければ40%を切る可能性もあり,Bの得票率は高ければ40%を超えることも考えられる.したがって,この出口調査からだけでは,AがBを抑えて当選するとは言い切れない.これは出口調査の対象人数が少ないためである.もし,全投票者を出口調査対象とすれば答えは簡単であるが,そのような調査は不可能である.そうすると,どのくらいの人数が標本として適当なのかということになるが,出口調査の対象者を増やしてn人にしたとしよう.その場合でもAとBの得票率はそれぞれ45%,35%としておく.このとき,95%の確率で両候補の真の得票率に差があると言うためには,2つの信頼区間が重なり合わなければよいことになる.つまり,「Aの信頼区間の下端」>「Bの信頼区間の上端」であればよい訳である.信頼区間の公式に当てはめて計算すると,この場合,n>364.8となる.したがって,出口調査でAとBの得票率の差45-35=10%が信頼度95%で有意な差であると言うためには,365人以上の人に回答してもらう必要があるということになる.このように標本抽出して得られた結果を用いて,選挙速報で当選確実が出ている訳である(当然,本連載の去年の第1回に紹介したギャロップ調査のように,地域差,性別,年齢構成なども考慮して出口調査する投票所も選ばれているはずである).もし,接戦でB候補者の得票率が43%であったとすると,僅か2%の得票率の差を見いだすためには調査対象として9,462人が必要になってくる.読者の皆さんは論文などで,この「95%信頼区間」という記述を目にされたことがあるだろう.95%信頼区間であれば,その区間内にその推定値が存在する確率が95%であることを示していることになる.さらに,その区間幅はサンプルサイズ,臨床研究や治験で言えば症例数が増えれば,狭くなる.つまり推定精度が高まる訳である.医薬の世界では,5%有意であるか否かという二者択一の「検定」偏重のきらいがあるが,検定の弱点は,具体的にどのくらいの差があるのかとか,その試験がどのくらいの精度で実施されたのかというようなことが分からないことである.「推定」は,「検定」の弱点を補強する情報を提示してくれる方法なのである.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.558-559, 2014 (Released:2016-07-02)
参考文献数
1

爽やかな春も終わり,梅雨が近づいてきた.6月と言えば,ジューンブライドで結婚式の季節というイメージがあるのではないだろうか? 2012年のぐるなびウエディングのアンケート調査結果を見てみよう.まず既婚者(男性700名,女性432名)に「どの時期に結婚したか」という質問に対して,春~初夏(4~6月)が1番多く28.7%,続いて秋(10~11月)が23.9%と続く.結婚の意思のある未婚者(男性161名,女性178名)に「どの時期に結婚したいか」を尋ねると,秋が1番多く,53.1%,続いて春~初夏の41.0%となる.親族や友人など式への出席者側(男性1029名,女性703名)の意識では,「いつ出席したいか」という質問に対して,こちらも秋が41.0%で,続いて春~初夏の27.0%という回答であった.つまり,6月に結婚式が1番多いというわけではないのである.もっと詳細に示せば,未婚者の結婚希望時期は10月が1位で6月は4位なのである.既婚者の結婚時期でも1位は11月で,6月は6~7位なのである.例外的に6月に挙式が増えた年があったが,それは,1990年と1993年である.それぞれ6月に秋篠宮,皇太子のご成婚があり,それにあやかっての挙式増加であった.現実的な話をすれば,梅雨時期で稼働率の下がるホテルや式場が欧米のロマンチックな言い伝えを利用し,ジューンブライドとぶち上げて6月の集客を回復しようと画策したのが始まりらしい.ヴァレンタイン・デーを利用してチョコレートの売り上げを伸ばそうとした製菓業界とまったく同じ構図なのである.こういうキャンペーンはそのまま鵜呑みにせず,数字の裏付けを確認することが大事である.ところで,この時期になると決まって懐かしくなるのがロンドンの清々しさである.この時期のロンドンは夜も21時過ぎまで明るく,空気もカラッとしていて実に過ごしやすい.著者がロンドンを訪問する際に必ず立ち寄る場所がある.根っからのシャーロキアン(英国ではホーメジアンと呼ばれるらしい)としては,チャリングクロスのパブ・シャーロック・ホームズと言いたいところだが,同じパブでもそれはジョン・スノウ・パブなのである.と言っても読者のなかでそれを知っている人がいれば奇跡に近い話であろう.有名なエロス像のあるピカデリーサーカスからリージェント・ストリートを北に進み,ブルックス・ブラザーズの店舗の角を右手に曲がって5分ほど進み,さらに左に折れて進んだ先のブロードウィック・ストリートの左角に目指すパブは佇んでいる.別に危険な場所ではないが,普通の観光客は絶対にこんな路地裏までには入ってこないだろう.ここが生物統計学の源流の一つである疫学の“聖地”なのである.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.164-165, 2016 (Released:2016-02-23)
参考文献数
1

生物学や遺伝学の世界に統計学を持ち込んだのは,進化論で著名なチャールズ・ダーウィンの従弟,フランシス・ゴルトンである.ゴルトンは,気象図の等圧線を考案し,気圧という概念を発見したり,指紋による個人の識別をスコットランドヤードに提唱したりするなど,幅広い知識人でもあった.コナン・ドイルも,いち早くその意義を認め,「ノーウッドの建築業者」(作品集:ホームズの帰還)で,ホームズにも指紋による個人鑑別について語らせていることはよくご承知のことであろう.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1168-1169, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
1

早くも師走である.昨年の連載では,仲良しの某旧帝大教授の忘年会での散財の話を書いたが,今年もその季節がやってきた.基本的にビールが苦手な筆者であるが,気候のせいか,雰囲気のせいか,海外に行くと比較的ビールを飲むようになる.特に英国では,最初の一杯はまずギネスというのが定番である.ギネスと言えばビールだけでなく世界記録を思い浮かべる人も多いだろう.筆者も中学生のときにバンクーバーに住む伯母からGuinness World Recordsを送ってもらい,分からない単語だらけなので辞書を引き引き,それでもワクワクしながら読んだことを思い出す.1955年に初めて出版されたWorld Recordsであるが,現在では出版事業はギネス社の手を離れ,HIT Entertainment社に引き継がれている.さて,そのギネス醸造所であるが,Wikipediaによると歴史は古く,1756年にアイルランドのダブリンで創業され,1759年にその頃使われなくなっていたセント・ジェームズ・ゲート醸造所を年45ポンドの対価で9,000年間借り受けるという超長期の賃貸契約を結び,それ以来この醸造所で変わらずに黒スタウトビールを造り続けているということらしい.スタウトビールとは,いわゆる上面発酵の黒ビールであるが,日本の黒ビールの多くはラガーと同じ下面発酵である.この黒ビールは見かけによらず,低カロリーで,1パイント(日本の大ジョッキと中ジョッキの間くらいの量)で僅か200kcal程度なのである.実は,このギネス社,統計家にとっては格別な会社なのである.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.790-791, 2015

昨年は年末に任期の半分というタイミングで衆院選挙が行われ,つい先日も統一地方選挙が行われたが,開票があまり進んでいないにもかかわらず,選挙速報で「当選確実」のクレジットが出るのを不思議に思われている方もいるのではないだろうか? 選挙では,よく出口調査をやっているのにお気付きだろう.結論を先に言えば,選挙速報での当確情報は,実際の開票状況と出口調査の結果に基づいている.<br>そもそも,調べたい対象の全てのデータを得ることは,多くの場合,不可能である.そのため一部のデータ,つまり抽出サンプルから,全体の母集団を推定することが必要になる.一部から全体を予測する統計的方法として,「推定」という考えがある.推定の良さは,一致性や不偏性などによって決まってくる.一致性とは,データの数が多くなればなるほど,1つの値に収れんしていく性質のことである.つまり,少ないサンプルよりは多数のサンプルを集めた方が,良い推定が可能になるということである.不偏性とは,偏りのないことであり,推定値の期待値が真の値に限りなく一致してくるということである.<br>説明を簡単にするために,出口調査で,ある候補者Aの得票率を推定することを考えてみよう.<br>例えば,投票を済ませた任意の100人の有権者に投票した候補者を聞いたところ,そのうち45人がAに投票したと答えたとしよう.この場合,注目するAの得票率は45/100=0.45である.この値は一点決め打ちの推定値なので点推定値と呼ぶ.この値に基づいて,Aの真の得票率(これは全部の票を開票してみないと分からない)に対する区間推定,つまり,上で調査した0.45という得票率がどのくらいの信頼性を持っているのかということを調べてみる.ここでは,Aが立候補した選挙区で投票した有権者全体が母集団ということになり,出口調査の対象となった100人が標本ということになる.標本が100人で,調査結果としてAに投票した人数が45であるとすると,得票率45%の信頼度95%の信頼区間は,0.3525~0.5475となる(簡単な式なので提示しておくと,p±1.96√<span style="text-decoration: overline;">(p(1-p)/n)</span>で計算できる).いま,Aに対立するB候補がいるとしよう.Bに投票したと答えた人数が100人中35人であったとする.そうすると,Aに投票したとする人よりも10%少ない.したがって,かなりの確率でAの方がBよりも得票率が高いと言えそうであるが,本当にそうだろうか? 実際にBの得票率について同じく95%信頼区間を計算してみると,0.2565~0.4435となる.これは,Aの信頼区間とかなり重なっている.つまり,Aの得票率は低ければ40%を切る可能性もあり,Bの得票率は高ければ40%を超えることも考えられる.したがって,この出口調査からだけでは,AがBを抑えて当選するとは言い切れない.これは出口調査の対象人数が少ないためである.もし,全投票者を出口調査対象とすれば答えは簡単であるが,そのような調査は不可能である.そうすると,どのくらいの人数が標本として適当なのかということになるが,出口調査の対象者を増やしてn人にしたとしよう.その場合でもAとBの得票率はそれぞれ45%,35%としておく.このとき,95%の確率で両候補の真の得票率に差があると言うためには,2つの信頼区間が重なり合わなければよいことになる.つまり,「Aの信頼区間の下端」>「Bの信頼区間の上端」であればよい訳である.信頼区間の公式に当てはめて計算すると,この場合,n>364.8となる.したがって,出口調査でAとBの得票率の差45-35=10%が信頼度95%で有意な差であると言うためには,365人以上の人に回答してもらう必要があるということになる.このように標本抽出して得られた結果を用いて,選挙速報で当選確実が出ている訳である(当然,本連載の去年の第1回に紹介したギャロップ調査のように,地域差,性別,年齢構成なども考慮して出口調査する投票所も選ばれているはずである).もし,接戦でB候補者の得票率が43%であったとすると,僅か2%の得票率の差を見いだすためには調査対象として9,462人が必要になってくる.<br>読者の皆さんは論文などで,この「95%信頼区間」という記述を目にされたことがあるだろう.95%信頼区間であれば,その区間内にその推定値が存在する確率が95%であることを示していることになる.さらに,その区間幅はサンプルサイズ,臨床研究や治験で言えば症例数が増えれば,狭くなる.つまり推定精度が高まる訳である.医薬の世界では,5%有意であるか否かという二者択一の「検定」偏重のきらいがあるが,検定の弱点は,具体的にどのくらいの差があるのかとか,その試験がどのくらいの精度で実施されたのかというようなことが分からないことである.「推定」は,「検定」の弱点を補強する情報を提示してくれる方法なのである.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.1002-1003, 2014

少し暑さも納まり,過ごしやすい季節になってきた.サマージャンボに続き,オータムジャンボ宝くじが発売される.当たらないとは分かっていても先日のサマージャンボのように1等前後賞合わせて6億円などと言われると,ついつい買ってしまうのが人情である.銀座数寄屋橋の宝くじ売り場などは毎回,長蛇の列である.しかし宝くじは,言ってみれば某銀行や地方自治体が胴元の公認/公営ギャンブルみたいなものである.<br>皆さんはそのテラ銭,つまり胴元の取り分の割合をご存じだろうか? 競馬などの公営ギャンブルで25%くらい,パチンコでもせいぜい12%程度なのである.ところが,宝くじのテラ銭は何と54%にも上るのである.売り上げの半分以上が懐に入る仕組みで,胴元の某銀行は笑いが止まらないであろうと思われるかも知れないが,このお金はご存じのように公益事業に使われるので,公共団体などへの寄付のようなものとも考えられなくもない.4月に消費税が8%に上がって不平不満たらたらのはずだが,宝くじなら炎天下に2,3時間並んでも買おうというのであるから,著者も含め,まったくみんなおめでたくできている.<br>統計の連載なので少しそれらしい話に戻ると,皆さんは,宝くじの当選確率はいったいどのくらいになると思われるだろうか? 確率の世界では,「期待値」という考え方がある.取らぬ狸の何とやらで,宝くじ1枚あたりでいくら自分の手元に戻ってくるかという金額である.ジャンボ宝くじの場合,1ユニットあたり1,000万本が発行され,その中で1等はわずかに1本のみ.つまり1等を手にする確率は,1,000万分の1の確率なのである.当選金の期待値は,当選金額×当選確率で計算されるので,1等3億円の期待値はわずかに30円ということになる.この計算を1等から6等まですべてに当てはめて合算すると,ジャンボ宝くじ1枚の期待値は140~150円程度なのである.1枚300円なのでその半分以下しか期待できないというのが現実なのである.<br>その事実を知ったうえでも,なお,宝くじをお買いになるかどうかは皆さんの判断次第であるが,あまりにも分の悪い勝負というよりほかはない(と偉そうに講釈しながらも著者自身,まずは買わなければ当たらないと,毎回購入しているのだが…).<br>勝負というと,医薬品の開発も勝負には違いない.1つの医薬品を開発するのに,いまや1,000億円以上の経費を費やし10年もの歳月を重ねることになるが,最後の最後で安全性で問題が見つかり開発中止になるなどといった事例は枚挙に暇がない.製薬企業にとっては,まさに真剣勝負なのである.
著者
坂本 杏子 佐藤 智照 小竹 直子 〓 瑩 チュウ ロザリン 金 英周 小野 創 酒井 弘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.184, pp.23-28, 2008-08-01
参考文献数
6
被引用文献数
1

本研究では,成人日本語母語話者が新奇動詞を学習する際に,助詞を手がかりにした意味推論を行うかどうかを検討する実験を行った.その結果,日本語母語話者は助詞の違いに応じて使役事象から異なる局面を切り出して動詞と対応づけることが明らかにされた.さらに動詞の意味推論には,名詞句とガ格助詞を手がかりとした項構造の決定と,項構造に基づく事象の切り出しという二つの段階が関与していることが示唆された.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.164-165, 2016

生物学や遺伝学の世界に統計学を持ち込んだのは,進化論で著名なチャールズ・ダーウィンの従弟,フランシス・ゴルトンである.ゴルトンは,気象図の等圧線を考案し,気圧という概念を発見したり,指紋による個人の識別をスコットランドヤードに提唱したりするなど,幅広い知識人でもあった.コナン・ドイルも,いち早くその意義を認め,「ノーウッドの建築業者」(作品集:ホームズの帰還)で,ホームズにも指紋による個人鑑別について語らせていることはよくご承知のことであろう.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.558-559, 2014

爽やかな春も終わり,梅雨が近づいてきた.6月と言えば,ジューンブライドで結婚式の季節というイメージがあるのではないだろうか? 2012年のぐるなびウエディングのアンケート調査結果を見てみよう.まず既婚者(男性700名,女性432名)に「どの時期に結婚したか」という質問に対して,春~初夏(4~6月)が1番多く28.7%,続いて秋(10~11月)が23.9%と続く.結婚の意思のある未婚者(男性161名,女性178名)に「どの時期に結婚したいか」を尋ねると,秋が1番多く,53.1%,続いて春~初夏の41.0%となる.親族や友人など式への出席者側(男性1029名,女性703名)の意識では,「いつ出席したいか」という質問に対して,こちらも秋が41.0%で,続いて春~初夏の27.0%という回答であった.つまり,6月に結婚式が1番多いというわけではないのである.<br>もっと詳細に示せば,未婚者の結婚希望時期は10月が1位で6月は4位なのである.既婚者の結婚時期でも1位は11月で,6月は6~7位なのである.例外的に6月に挙式が増えた年があったが,それは,1990年と1993年である.それぞれ6月に秋篠宮,皇太子のご成婚があり,それにあやかっての挙式増加であった.現実的な話をすれば,梅雨時期で稼働率の下がるホテルや式場が欧米のロマンチックな言い伝えを利用し,ジューンブライドとぶち上げて6月の集客を回復しようと画策したのが始まりらしい.ヴァレンタイン・デーを利用してチョコレートの売り上げを伸ばそうとした製菓業界とまったく同じ構図なのである.こういうキャンペーンはそのまま鵜呑みにせず,数字の裏付けを確認することが大事である.<br>ところで,この時期になると決まって懐かしくなるのがロンドンの清々しさである.この時期のロンドンは夜も21時過ぎまで明るく,空気もカラッとしていて実に過ごしやすい.著者がロンドンを訪問する際に必ず立ち寄る場所がある.根っからのシャーロキアン(英国ではホーメジアンと呼ばれるらしい)としては,チャリングクロスのパブ・シャーロック・ホームズと言いたいところだが,同じパブでもそれはジョン・スノウ・パブなのである.と言っても読者のなかでそれを知っている人がいれば奇跡に近い話であろう.有名なエロス像のあるピカデリーサーカスからリージェント・ストリートを北に進み,ブルックス・ブラザーズの店舗の角を右手に曲がって5分ほど進み,さらに左に折れて進んだ先のブロードウィック・ストリートの左角に目指すパブは佇んでいる.別に危険な場所ではないが,普通の観光客は絶対にこんな路地裏までには入ってこないだろう.ここが生物統計学の源流の一つである疫学の"聖地"なのである.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.566-567, 2015

あっという間に1年が過ぎ,昨年12月でこの連載も終わったと,ホッとしていたのもつかの間,編集部からあと1年連載を続けて欲しいとのご依頼があった.有難いお話ではあるが,さてどうしたものかと思ったものの何とかネタを絞りだして,あと6回書き続けてみることにした.読者の皆さんももう少しお付き合い願えれば幸甚である.<br>先日,非常勤講師を務めている九州大学に講義に行き,講義終了後に仲良しの統計の准教授と一緒に透き通ってコリコリとした食感が堪らない"呼子の烏賊の活き造り"を肴に一杯やっていたところ,その准教授の講座の教授,助教として最近2名の英国人が赴任してこられたということを伺った.英国人というので,准教授は,気を利かせて,某有名メーカーの紅茶に,ティーポットとカップのセットを買い込み勇んで待ち受けていたところ,何と2人とも紅茶よりもコーヒー党であったというオチであった.ひとしきり笑ったのだが,考えてみれば,英国では,紅茶よりもコーヒーの歴史の方が古いのである.<br>英国に初めてコーヒーハウスなる店が開店し,コーヒーを提供し始めたのが1650年とされている.オックスフォードでは,1654年に開業したクィーンズ・レイン・コーヒーハウスが現在でも営業を続けているらしい.ロンドンでも1652年からコーヒーハウスが開店し,情報収集の重要な役割を果たすようになる.当時から金融センターであったロンドン・シティの取引所近くのコーヒーハウスには,多くの商人が情報を求めて集まった.その中でも特に,ロイズ・コーヒーハウスには,船主たちが多く集まり,店では船舶情報を載せる「ロイズ・ニュース」を発行していた.店で船舶保険業務を取り扱うようになり,これがロイズ保険会社の起源となった.<br>一方,紅茶は1717年に,イギリスで最初のティー・ハウスであるゴールデン・ライアンズが開店した.インドでアッサム茶の原木が発見されたのが1823年なので,この頃は中国茶が原料であったはずである.その後,大英帝国がインドを支配し,徐々にコーヒーに代わる非アルコール飲料として,紅茶が市民生活に定着していくことになった.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.978-979, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

今年もまた,秋の風が感じられる季節がやってきた.冬生まれの筆者は夏の暑さが何よりも苦手であり,暑さから逃れられる秋から冬にかけては大好きな季節でもある.しかし,あの暑苦しい夏が大好きという方も大勢いらっしゃるようで,夏をテーマにした音楽や,夏を取り上げた文学の名作も数多い.我が国では,清少納言の枕草子に有名な「夏は夜.月のころはさらなり.やみもなほ,蛍の多く飛びちがひたる.また,ただ一つ二つなど,ほのかにうち光りて行くもをかし.雨など降るもをかし.」のくだりがあるし,英国では,もちろんウィリアム・シェークスピアのそのものずばり「真夏の夜の夢」がある.全5幕からなり,アテネ近郊の森に足を踏み入れた貴族や職人,森に住む妖精たちが登場する.人間の男女は結婚に関する問題を抱えており,妖精の王と女王は養子を巡りけんかをしている.しかし,妖精の王の画策や妖精の一人であるパックの活躍によって最終的には円満な結末を迎えるというよく知られた戯曲である.実在について賛否の議論もあるシェークスピアだが,写楽と同じように,別人説もかまびすしい.有名なところでは,フランシス・ベーコン同一人説などがある.数百年前の人物についてそんなことを調べるなど至難の業であると思っていると,その人の書いた文章の書き癖から統計学を使って同一人であるかどうかを調べてみようという興味深い研究手法があるのだ.これを「計量文献学」と呼ぶ.
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.800-801, 2014

暑さ真っ盛りである.突然のゲリラ豪雨や竜巻の発生など,10年前には考えられなかったような気候になっている.こんなに暑いと体調を崩したり,亡くなったりする方も多かろう.<br>日本では死亡理由の第1位はがんである.報道でも日本人の2人に1人はがんになるということを見聞きされることであろう.実際にがんセンターの発表でも,生涯で何らかのがんに罹患する確率は,男性で58%,女性で43%とそれぞれ確かに2人に1人の割合である.さらに男性の4人に1人,女性の6人に1人ががんで死亡している.<br>しかし,自分の身の回りで2人に1人という高い割合でがんを患っている人がいるだろうか? 確かに死亡理由でみると2人に1人ががんで亡くなっている.しかし,がんの罹患率をみると完全に年齢に依存しているのである.男女とも50歳代から徐々に罹患が増え始め,60歳代から急増する.同じくがんセンターの公表資料に「現在年齢別がん罹患リスク」がある.例えば,30歳の男性が10年後にがんに罹患する確率はわずか0.5%,20年後に罹患する確率は2%しかないのである.50歳の男性でも10年後にがんに罹患する確率は6%,20年後に罹患する確率は18%なのである.つまり,必要以上にがんに罹ることを怖れることはないというのが今回のお話のオチである.だからといって勝手気ままな生活をして,あえて罹患リスクを高める必要はないわけで,運動や食生活に気を付けてがんに罹りにくくすることが肝要である.<br>しかし,不幸にもがんに罹ってしまった場合,やはり不安に駆られてしまうのが人情であろう.著者は,幸いにも入院するような大病に罹ったことはないが,人一倍臆病なのでそういう状態で入院した場合,看護師さんはきっと天使のように見えることであろう.<br>「クリミアの天使」と呼ばれたフローレンス・ナイチンゲールのことは,皆さんよくご承知のことと思う.しかし,彼女が看護師としての業務に就いたのは,90年の生涯のうち,わずか2年でしかないということをご存じだろうか.
著者
小宮山 靖 越水 孝 菅波 秀規 酒井 弘憲 渡橋 靖 東宮 秀夫
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
臨床薬理 (ISSN:03881601)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.303-310, 2009 (Released:2009-12-25)
参考文献数
22

A PhRMA Working Group on adaptive clinical trial designs has been formed to investigate and facilitate opportunities for wider acceptance and usage of adaptive designs and related methodologies. A White Paper summarizing the findings of the group is currently in preparation. This article is an Executive Summary of that full White Paper; it summarizes the findings and recommendations of the group. Logistic, operational, procedural, and statistical challenges associated with adaptive designs are addressed. Three particular areas where adaptive designs can likely be utilized beneficially are discussed: dose finding, seamless Phase II/III trial designs, and sample size reestimation.
著者
松田 雅弘 楠本 泰士 酒井 弘美 伊藤 公一 田上 未来 阿部 紀之 関 亮祐 本藤 伸男 山﨑 友豊 赤池 優也 二瓶 篤史 新田 收
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.495-499, 2016 (Released:2016-08-31)
参考文献数
10

〔目的〕マイクロビーズ製クッション上での臥位が,関節可動域と筋緊張に及ぼす影響を通常のベッド上臥位と比較して明らかにすることとした.〔対象と方法〕回復期脳卒中後片麻痺患者9名(52~84歳)とした.同一対象者に20分の臥床をクッション(クッション条件),およびベッド上背臥位で(臥位条件)行わせ,前後でのROMt,筋緊張(MAS),僧帽筋上部線維の筋硬度の変化と変化量を対応のあるt検定により統計学的に解析し,その違いを条件間で比較した.〔結果〕クッション条件では介入前後で,麻痺側肘屈曲,頸部左回旋角度に有意差がみられた.筋緊張,筋硬度も軽減している症例が多かった.〔結語〕マイクロビーズ製クッションが,脳卒中患者に対して筋緊張の軽減と関節可動域の増大に効果をもたらすことが示唆される.
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 大塚 祐子 遊佐 典昭 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 Jeong Hyeonjeong 新国 佳祐 玉岡 賀津雄 伊藤 彰則 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 矢野 雅貴 小野 創
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

主語(S)が目的語(O)に先行するSO語順がその逆のOS語順に比べて処理負荷が低く母語話者に好まれる傾向があることが報告されている。しかし,従来の研究はSO語順を基本語順にもつSO言語を対象にしているため,SO語順選好が個別言語の基本語順を反映したものなのか,あるいは人間のより普遍的な認知特性を反映したものなのかが分からない。この2種類の要因の影響を峻別するためには,OS語順を基本語順に持つOS言語で検証を行う必要がある。そこで,本研究では,SO言語とOS言語を比較対照することによって,人間言語における語順選好を決定する要因ならびに,「言語の語順」と「思考の順序」との関係を明らかにする。
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 大塚 祐子 遊佐 典昭 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 Jeong Hyeonjeong 新国 佳祐 玉岡 賀津雄 伊藤 彰則 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 矢野 雅貴 小野 創
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

主語(S)が目的語(O)に先行するSO語順がその逆のOS語順に比べて処理負荷が低く母語話者に好まれる傾向があることが報告されている。しかし,従来の研究はSO語順を基本語順にもつSO言語を対象にしているため,SO語順選好が個別言語の基本語順を反映したものなのか,あるいは人間のより普遍的な認知特性を反映したものなのかが分からない。この2種類の要因の影響を峻別するためには,OS語順を基本語順に持つOS言語で検証を行う必要がある。そこで,本研究では,SO言語とOS言語を比較対照することによって,人間言語における語順選好を決定する要因ならびに,「言語の語順」と「思考の順序」との関係を明らかにする。
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 遊佐 典昭 行場 次朗 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 玉岡 賀津雄 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 小野 創 大塚 祐子 矢野 雅貴 八杉 佳穂 上山 あゆみ
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究プロジェクトの目的は,マヤ諸語とオースロネシア諸語のなかのOS言語(特に,グアテマラのカクチケル語と台湾のタロコ語)を対象に,談話内での1.文理解過程,2.文産出過程,3.言語獲得過程,ならびに4.言語の語順と思考の順序との関係を,聞き取り調査やコーパス調査,行動実験,視線計測,脳機能計測などを用いて,フィールド心理言語学の観点から多角的かつ統合的に研究することである。より具体的には,1~4における個別言語の文法的要因と普遍認知的要因が文脈に埋め込まれた文の処理に与える影響を明らかにし,脳内言語処理メカニズムに関するより一般性の高いモデルを構築することを目指す。本年度は特に以下の研究を実施した。[文法理論部門]タロコ語の文法調査を行った。[理解部門・神経基盤部門]文脈と語順が文処理に与える影響を調べるために事象関連電位を用いたタロコ語の実験を実施した。[産出部門・思考部門]タロコ語の文散出時に動詞のレンマがどのようなタイミングで活性化されるかを調べる実験の準備(予備実験を含む)を行った。また,タロコ語話者の思考の順序やタロコ語の文産出に与える非言語的文脈や話者自身の動作の影響を調べるためのジェスチャー産出実験と文産出実験を行った。[全部門共通]トンガ語の調査・実験の実行可能性を調べるためにトンガ王国で現地見分を行った。また,ジャワ語の専門家を招いて,ジャワ語の調査・実験の実行可能性についての検討会を開催した。
著者
小嶌 麻木 岡橋 さやか 羅 志偉 長野 明紀 酒井 弘美 関 啓子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.296-303, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
18

失語症者の日常生活における包括的な認知機能の評価用として, Virtual Reality 技術を用いた Virtual Shopping Test-easy version ( VST-e) を開発し, 失語症者への適用および妥当性と信頼性を検討した。 VST-e において被験者は, 買い物内容を暗記した後, PC 画面のタッチパネル操作により仮想の商店街でなるべく速くかつ正確に買い物課題を行った。失語症者, 健常者各 20 名を対象に施行した結果, 失語症群は健常群より有意に買い物リスト参照回数と方向転換回数が多く, 所要時間が長かった。また, 失語症群の VST-e 成績は言語機能, 知的機能, 注意, 遂行機能との相関を認め, 内部一貫性に関する Cronbach の α は 0.62 であった。したがって, VST-e は言語機能の影響を受けるが, 基準関連妥当性と信頼性を有し, 失語症者の総合的認知機能検査として有用であることが示唆された。
著者
尹 帥 里 麻奈美 羅 穎芸 五十嵐 陽介 酒井 弘
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.1-12, 2015-12-30

Previous studies have shown that prosodic information plays an important role in spoken word recognition by L2 learners (Cooper et al. 2002). However, it remains unclear exactly how and when learners use prosodic cues during the word recognition process. This study addresses the question of whether Chinese (Mandarin) learners of Japanese utilize prosodic information incrementally by investigating the patterns and timing of their use of accentual information in the course of the word recognition process. We conducted eye-tracking experiments with a visual world paradigm, using artificial Japanese words. The analysis of saccadic eye-movement patterns revealed that Chinese L2 learners can use prosodic cues incrementally in word recognition.