著者
成田 奈緒子 酒谷 薫 成田 正明 霜田 浩信 霜田 浩信
出版者
文教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

脳科学的な所見を教育現場等で応用していくことを前提として、本研究は行われた。自閉症患児と健常児においてスイッチングタスク(音読→ワーキングメモリタスク)の負荷を行い、その際のNIRSによる前頭葉の脳血流量の変化を測定した。その結果、自閉症児では、ワーキングメモリタスクへの切り替えに応答して、前頭葉を活性化させる機能が健常群と比して大きく低下していることが明らかになった。教室での刺激の切り替えにおける自閉症児の困難さを理解し、支援する手立てとなることが期待される。
著者
酒谷 薫 岡本 雅子 小林 寛道 辻井 岳雄
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

現代社会に蔓延するストレスは、様々な疾患の主要原因の一つである。本研究では、近赤外分光法(NIRS)を用いて、前頭前野の神経活動を計測し、自律神経系・内分泌系機能及び心理状態とともに、ストレスを客観的に評価する方法を開発した。さらに本法を用いて、中高齢者における運動療法のストレス緩和効果について検討し、軽い運動でもストレス緩和効果があることを明らかにした。さらに高齢者に軽い運動を負荷することにより、前頭前野のワーキングメモリー課題に対する反応性が上昇し、パフォーマンスが向上することが示唆された。本ストレス評価法と運動療法を組み合わせることにより、ストレス性疾患を予防できる可能性がある。
著者
酒谷 薫
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.308-308, 2017

<p>厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(「地域包括ケアシステム」)の構築を推進している。我々は、IoT/BD/AIの先端技術を応用した地域包括ケアシステムを開発し、福島県郡山市のモデル地区で実証実験を行っている(2016年4月~)。本オーガナイズドセッションでは、我々が開発したシステム及び実証実験の途中結果について報告し、地域包括ケアシステムにおけるIoT/BD/AIの先端技術の有用性について検討する。本システムは、ICTとセンサー技術による見守りシステム(睡眠センサー、水道センサー)とNIRSによる脳と心の見える化により構成されている。本システムをモデル地区の高齢者家庭に設置し、睡眠時の心拍数、呼吸数、離床、及び水道使用量を遠隔でモニターしている。さらに、定期的に公民館にて、心理テスト(STAI,MMSE)及びNIRSによる脳機能計測を実施し、参加住民の健康相談に応じている。本講演では、実証実験の結果を供覧し、IoT/BD/AIを導入した次世代地域包括ケアシステムの有用性と問題点について考察する。</p>
著者
酒谷 薫
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.181-191, 2008-03-20

中国伝統医学(以下,中医学)では,陰陽五行学説を基礎として人体機能を考えている。陰陽五行学説は古代中国の自然哲学であり,難解で不可解なものとして日本漢方では重視されてこなかった。しかし陰陽五行学説を現代科学の視点から見直してみると,両者には共通している点が少なくない。本講演では,陰陽五行学説の考え方を現代科学の観点から読み解き,これを基にして中医学の人体機能や病態に対する考え方について解説する。1.陰陽五行学説と複雑系 陰陽五行学説は陰陽学説と五行学説から成り立っている。まず陰陽学説であるが,太極図の中にその意味することが全て示されている。太極図で注目すべき点は,白(陽)と黒(陰)の中に反対要素である権化点が存在することである。これにより人間を含めた世界というものは無限に陰陽に分割され,その全ての部分が太極図と同じ構造を持つことになる。すなわち,部分が全体を示すというフラクタルな世界観を示している。中医学では,舌や耳等の身体の一部分に全身状態が反映されていると考えるが,もし人体がフラクタルな構造を持つと仮定するとこの考え方も理解できる。一方の五行学説は,中医学における臓器機能の基礎となっている。五行学説に従って臓腑(五臓)は木・火・土・金・水の5種類に分類され,各臓腑の間には相生(=positive feedforward)と相克(=negative feedforward)という力学的関係が存在し,その相互作用により全体の機能バランスが維持されていると考える。興味深いことに,この考え方はカオス理論に基づいた生体モデルに酷似している。このように陰陽五行学説の考え方は,現代科学の複雑系理論に通じる点が少なくない。2.中医学における人体機能と病態 中医学における臓器の特徴は,脳が臓腑(五臓六腑)に含まれていない点である。すなわち中医学では,脳のさまざまな機能を五行学説に従い五臓六腑や関連する器官に分散させているのである。このため脳疾患は単一臓器の障害ではなく,上述の臓器間の機能バランスの障害による全身性疾患と考えられている。もう一つの特徴は,陰陽学説のフラクタルな世界観によりヒトと環境を一体として捉えている点である。つまり西洋医学では,ヒトは皮膚などのさまざまな「膜」により外界より分離した環境を保つことにより生命活動を維持していると考えるが,中医学では,ヒトは環境と一体化して存在し,ヒトの機能は環境から強い影響を受けると考えられている。3.まとめ 陰陽五行学説に基づいた中医学の人体機能に対する考え方は,われわれの西洋医学と異なるが,非科学的なものではなく現代科学にも通じるユニークなものである。中医学と現代科学を融合させた新しい医学の構築に向けて,伝統医学研究は,その治療効果に加えて生命観に関する理論的研究も重要と思われる。