著者
里見 龍樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.161-179, 2016 (Released:2018-02-23)
参考文献数
18

本稿では、ソロモン諸島マライタ島北部で特徴的な海上居住を営んできたアシ/ラウにおける葬制とその変容について考察する。オーストロネシア語圏の複葬慣習に関する一群の研究には、葬制が、生前の通婚・姻族関係を儀礼的に解消し、死者を集合化することを通じて社会集団を再生産するという共通理解が見出される。本稿では、反復的な移住の中で海上に居住してきたアシの葬制が、この通説に回収されえない独自性をもつことを示す。 キリスト教受容以前のアシの葬制は、死者の頭蓋骨を切除・保管した後、特定の場所に海上移送する「トロラエア」という慣習を中心としていた。遺体の取り扱いの3つの段階からなるこの葬制は、個別的葬送から集合的葬送へと明確に移行する。とくに最後の段階は、同一氏族に属する死者たちの頭蓋骨を、父系的祖先のかつての居住地へと移送するものであり、氏族における祖先崇拝の一体性を維持する意義をもっていたとされる。 ただし以上の側面は、アシの伝統的葬制の一面にすぎない。他面において女性の個別的葬送は、出身地と婚出先という2つの場所・集団の間における女性の二面的な立場を明確に反映している。しかも注目すべきは、通婚・姻族関係をたどって移住を繰り返してきたアシにおいて、氏族の集合的葬送が一面で、女性の個別的な移住と葬送を再現しているという事情である。本稿では葬制に おける集合性と個別性のこのように逆説的な関係に、アシの葬制の独自性を見出す。 しかし、20世紀を通じて進展したキリスト教受容により、アシの葬制は根本的な変質を遂げる。新たに形成されたキリスト教的葬制において、死者はあくまで個別的に埋葬され、またコンクリート製墓標の普及により、埋葬地の個別性と固定性はいっそう強められた。本稿では、このような葬制が現在のアシにある困難をもたらしていることを指摘する。
著者
里見 龍樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.397-415, 2020 (Released:2021-04-07)
参考文献数
33

ソロモン諸島マライタ島では、初期植民地時代(1870~1920年代)において、西洋世界から流入 した銃器により、現地で「オメア」と呼ばれる戦闘や襲撃が一時的に激化したことが知られている。本稿では、同島北東部に住むアシ(またはラウ)において、この「オメアの時代」が今日いかに記憶されているか、また、アシに特徴的な居住形態である人工島がこの歴史とどのように関わってい るかを考察する。 歴史的検討によれば、アシの人工島群は初期植民地時代に急拡大しており、このことは、一部の人工島を戦闘・防衛の拠点として意味付ける語りにもあらわれている。同時にアシの人々は、植民地政府の到来により、戦闘を媒介とする移住の運動が停止したと認識しており、現存する人工島群はそのような歴史的変化を形象化するものとみなされている。 アシの人々は、人工島の多くは、「オメアの時代」が終わってから形成された「新しい」ものにすぎないとしばしば語る。人工島群が初期植民地時代以前に遡る歴史的深度をもたないかのようなそうした語りには、植民地化・キリスト教受容以前の歴史に対してアシが感じている疎遠さがあらわれている。そのように、「オメアの時代」は今日のアシにおいて根本的に「よくわからない」歴史として認識されているが、内陸部への再移住を志向する現代の動きの中で、そのような歴史は新たな関心の対象となりつつある。
著者
里見 龍樹
出版者
現代文化人類学会
雑誌
文化人類学研究 (ISSN:1346132X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-8, 2021 (Released:2022-01-29)
参考文献数
22

本特集は、「これまで『自然』と呼ばれてきたもの」がさまざまなかたちで取り上げられている現代の人類学において、では、そのような「自然」を記述する民族誌はいかなるかたちをとりうるのか、という方法論的な問題を提起するものである。2000年代後半に登場したいわゆる存在論的転回は、「自然/文化」という近代的な二分法、および狭義の「自然」概念を批判することによって、「広義の自然」と呼ぶべき人類学的主題を明確化した。本特集では、この主題を「いかに民族誌を書くか」という方法論的な問いと結び付けることで、現代における一つの「外の思考」としての人類学/民族誌がとりうるかたちを探究する。
著者
里見 龍樹
出版者
くにたち人類学会
雑誌
くにたち人類学研究 (ISSN:18809375)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.26-53, 2011

ソロモン諸島マライタ島北部に住むラウあるいは「海の民」(アシ)と呼ばれる人々は、人工島と呼ばれる独自の海上居住の形成・拡大過程を物語る一群の移住伝承をもつ。本稿ではこれらの伝承を、オーストロネシア語地域で広く見られるとされる「トポジェニー」、すなわち一連の場所・地名への言及を含む、神話的祖先や集団の移動についての語りの一事例として考察する。アシの伝承は、マライタ島内の各地に「山の民」(トロ)として居住していた諸氏族の祖先が、多様な移住の過程で海上居住を開始し、また拡大させることで、「アシ」という集団的アイデンティティを形成してきた過程を語っている。こうした過程はまた、植民地時代に入っても持続していたものと認められる。本稿では、このようなアシの移住伝承を、他地域の「トポジェニー」をしばしば特徴付ける排他的なテリトリー性や、メラネシア人類学を一面で規定してきた機能主義的な「社会統合」モデルには適合しない独自の集団性のあり方を示すものとして考察する。