著者
河村 好章 長瀬 弘司 遠藤 正和 重松 貴 江崎 孝行 藪内 英子
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR BACTERIOLOGY
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.597-610, 1991
被引用文献数
3 3

グラム陽性,カタラーゼ陽性好気性球菌の迅速同定キット「スタフィオグラム」(テルモ)のプレート作製,追加試験選定およびコードブック編集のための基礎実験を行った。<br>この目的のため<i>Staphylococcus aureus</i>を含む<i>Micrococcaceae</i>の3属30菌種の基準株のそれぞれが固有のコード番号を示すスタフィオグラムプレートを作製した。このプレートは10種の糖分解試験と8種の酵素活性試験から成り,McFarland No.4の菌液50μlを各ウェルに分注し,37C, 4時間培養後に結果を判定する。<br>このプレートを用いて新鮮分離株の同定を試みるに先立ち,好気性グラム陽性球菌同定へのfluorometric microplate hybridizationの有用性を確認した上で,新鮮分離386株のすべてを核酸同定した。これらの菌株をスタフィオグラムプレートで培養すると,得られたコード番号236種類のうち218種(92.4%)は<i>Staphylococcus</i>属15菌種と<i>Stomatococcus mucilaginosus</i>に固有の番号であった。被検386株のうち,これらの番号のいずれかに該当した342株(88.6%)は追加試験を行うことなく同定できた。同定できた<i>Staphylococcus</i>属15菌種のうちApproved lists of bacterial namesに収録されているもの(すなわち1980年1月1日以前の正式発表名)が11菌種を占め,その後に提案された菌種と同定されたのは<i>S. caprae, S. lugdunensis, S. gallinarum</i>および<i>S. delphini</i>の4菌種に過ぎず,残りの8菌種に該当する株はなかった。しかし<i>S. caprae</i>(48株),<i>S.haemolyticus</i>(46株),<i>S. capitis</i>(35株)は<i>S. epidermidis</i>(67株)に次いで株数が多く<i>S. saprophyticus</i>(31株)より上位にあった。<br>236種類のコード番号のうち2菌種に重複したのは7種類(27菌株),4菌種に重複したのは1種類(17菌株)の計8種類(3.4%)であった。コード番号が重複した44菌株は追加試験として選択した8項目のうち1∼3項目を実施することでmicroplate hybridizationの同定結果を追認し得た。<br>以上の結果からスタフィオグラムは<i>Staphylococcus, Micrococcus, Stomatococcus</i>の各属の菌種の迅速同定キットとして有用であると確信した。今後核酸同定した菌株によるデータを集積して専用コードブックを作製し,同定精度の高いキットを完成させたい。
著者
那須 義次 荒尾 未来 重松 貴樹 屋宜 禎央 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.47-58, 2019-08-31 (Released:2019-09-12)
参考文献数
39

The insect fauna in Ryukyu Ruddy Kingfisher nests was investigated on Iriomote-jima, Ishigaki-jima and Miyako-jima Is., Okinawa, Japan. Kingfishers on Iriomote-jima and Ishigaki-jima Is., where Takasago termites which make ball-like nests on trees are distributed, often dig nesting holes in the termite nests, but they excavate holes in decayed trees on Miyako-jima I. where the termites are not present. Moths belonging to the family Tineidae were found to be the main symbiotic insects in the nests, and eight moth species, including two species considered to be undescribed or newly recorded species from Japan, were confirmed. The differences in moth faunas of the kingfisher nests between the three islands are discussed.
著者
那須 義次 重松 貴樹 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.25-28, 2019-04-30 (Released:2019-05-17)
参考文献数
12

筆者らは我が国の様々な鳥の巣に生息している昆虫類の研究をおこない,多種の昆虫が鳥の巣に生息し,巣内共生系とも呼ぶべき特殊な生態系が成立していることを報告してきた(那須,2012;広渡ら,2012, 2017;那須ら,2012;Nasu et al., 2012;八尋ら,2013など).これら研究の過程で沖縄県の宮古島と南大東島の鳥の巣から日本新記録となるヒロズコガ科のSetomorpha rutella Zeller, 1852の発生を確認したので,成虫と雄交尾器の図とともに報告する.Setomorpha rutella Zeller, 1852ミナミクロマダラヒロズコガ(新称)(Figs 1, 2)前翅開張約12 mm.頭部の鱗粉はなめらかで,暗褐色.前翅は長方形,先端1/3が背方にやや折れ曲がり,地色は淡灰褐色で多数の黒褐色の斑点をもつ.後翅は淡褐灰色.雄交尾器:ウンクスは一対の滑らかな突起で硬化が弱い.バルバは大きく,先端に長い鎌状に曲がった突起をもつ.エデアグスは細長い.サックスは細長く,前方部は膨らむ.一対のコレマータをもつ.分布:世界の熱帯,亜熱帯域に分布(Diakonoff, 1938; Hinton, 1956; Robinson and Nielsen, 1993).日本:沖縄(宮古島,南大東島).(日本新記録)食性:乾燥葉タバコ,スパイス,豆類や貯蔵穀類などの乾燥した植物,ハチの巣,鳥の皮・糞,動植物質のデトリタス(Hinton, 1956; Gozmány and Vári, 1973).備考:本種が属するSetomorphinae亜科は日本新記録のヒロズコガ科の亜科である.本亜科は世界的に分布し,3属9種からなる小さな亜科で,成虫の頭頂の鱗粉が薄板状で,やや頭に押しつけられている,口器(口吻,マキシラリ・パルプス)が退化するなどの特徴をもつ(Robinson and Nielsen, 1993;坂井,2011).宮古島のリュウキュウコノハズクOtus elegans elegansの巣箱とリュウキュウアカショウビンHalcyon coromanda bangsiの自然巣から成虫が羽化した.羽化標本がRobinson and Nielsen (1993)などが図示した成虫と雄交尾器の形態が一致したので本種と判断した.本種はNasu et al. (2012)が南大東島のダイトウコノハズクOtus elegans interpositusの自然巣から記録したSetomorpha sp.と同じものである.幼虫は鳥の巣内では朽ち木屑や糞などの動植物質のデトリタスを摂食していたと推測される.英名Tropical tobacco mothが示すとおり,熱帯域の乾燥葉タバコと貯蔵穀類の重要害虫であるため,今後,鳥の巣だけでなく,我が国の穀類倉庫や屋内から発生して問題になる可能性がある.