著者
那須 義次 黄 国華 村濱 史郎 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.187-193, 2008-06-30
被引用文献数
2

2007年,営巣後のオオタカとフクロウの巣を調査したところ,前者の巣から日本新記録のフタモンヒロズコガ(新称) Monopis congestella (Walker)とマエモンクロビロズコガ M. pavlovskii (Zagulajev),後者からもフタモンヒロズコガの発生を確認した.これら幼虫は,巣内のケラチン源(羽毛,毛,ペリットなど)を摂食していた.オオタカの巣から発生した蛾の記録ははじめてである.大阪府立大学昆虫学研究室の標本を調査したところ,日本各地から採集されていたフタモンヒロズコガの標本も見いだした.幼虫産出性は鱗翅目では極めて珍しいが,ヒロズコガ科を含むいくつかの科で知られている.東南アジアのフタモンヒロズコガは,幼虫産出性を示すことが知られているが,灯火採集された日本産の2♀成虫の腹部内に1♀あたり最大51個体の幼虫が見いたされため,日本産も幼虫産出性であることが確認された.
著者
濱尾 章二 那須 義次
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.13-20, 2022-04-22 (Released:2022-05-11)
参考文献数
26

鳥の巣からは多くの昆虫が見いだされ,鳥は昆虫の生息場所(ハビタット)を作り出す生態系エンジニアとしての役割を担っている可能性が考えられている.しかし,そのことを実証する生態学的研究はほとんど行われていない.そこで,シジュウカラParus minor用巣箱を用い3年間の調査と実験を行って,鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を作り出しているか,そして昆虫は鳥の巣を積極的に利用しているかどうかを調べた.調査の結果,初卵日から巣立ちあるいは捕食,放棄が起きるまでの巣の利用期間が長い巣ほどケラチン食の昆虫が発生しやすかった.腐食性の昆虫でも同様の傾向が見られた.これらのことは,羽鞘屑に依存すると考えられているケラチン食の昆虫に加え,広く腐植質を摂食する昆虫にとっても,鳥の営巣が新たな生息場所を作り出していることを示唆する.また,鳥が利用を終えた後直ちに巣材を採集した場合と3週間後に巣材を採集した場合を比較したところ,昆虫の食性によらず,昆虫の発生する割合は処理による差が見られなかった.このことは,昆虫が鳥の営巣中から巣に侵入していることを示唆する.
著者
那須 義次 村濱 史郎 坂井 誠 山内 健生
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.89-97, 2007-12-25
参考文献数
33
被引用文献数
2

2002年から2006年にかけて,日本各地の鳥類の巣・ペリットおよび哺乳類の糞を調査し,ヒロズコガ科ヒロズコガ亜科に属する4種の蛾の発生を確認した.イガが島根県出雲市と大阪府河内長野市のツバメの巣,ウスグロイガが大阪府寝屋川市のハイタカのペリット,マエモンクロヒロズコガが愛媛県宇和島市のシジュウカラの巣,長野県飯綱町のノスリのペリット,小笠原諸島父島のイエネコの糞および鹿児島県奄美大島のイエネコかイヌの糞,アトキヒロズコガが和歌山県橋本市の雑木林に設置したハイタカのペリットを用いたトラップから羽化した.本報告は,日本においてシジュウカラの巣,鳥類のペリットおよび肉食哺乳類の糞から発生した蛾の初めての記録となった.幼虫はいずれも巣・ペリットおよび糞中のケラチン源(羽毛,毛など)を摂食していると考えられた.今回の調査結果と文献記録から市街地に造られたスズメ,コシアカツバメ,ツバメとカワラバトの巣が毛糸や毛織物害虫のイガの野外における重要な発生源であり,こられの巣からイガが家屋内に侵入することが推察された.
著者
那須 義次 枝恵 太郎 富沢 章 佐藤 顕義 勝田 節子
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.77-85, 2016-07-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
31

日本で初めてコウモリのグアノを摂食するチョウ目ヒロズコガ科の3種,アトウスキヒロズコガMonopis crocicapitella,スカシトビイロヒロズコガ(新称)Crypsithyrodes concolorellaとウスグロイガNiditinea tugurialis,およびメイガ科の1種,カシノシマメイガPyralis farinalis,が記録された.アトウスキヒロズコガは越野(2001)によりMonopis sp.とされていたもので,今回学名が判明した.本種はキチン食性が強いと考えられた.スカシトビイロヒロズコガは日本新記録種であった.今回の調査においてケラチン食性が強いと考えられる種がコウモリのグアノから発生しなかったのは,グアノがコウモリの餌である昆虫の細破片からなり,主にキチン質であるためと考えられた.また,グアノから発生するヒロズコガ類の個体数が比較的多かったことから,グアノの分解者としてヒロズコガ類は重要であることが推測された.
著者
八尋 克郎 亀田 佳代子 那須 義次 村濱 史郎
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-23, 2013-01-05

滋賀県琵琶湖の竹生島でカワウの巣の昆虫を調査したところ,27種に属する466個体の昆虫類が採集された.鞘翅目が最も多く,すべての昆虫類の35.1%を占めた.鞘翅目のうち個体数の多い上位4科はゾウムシ科,コブスジコガネ科,ガムシ科,カツオブシムシ科で,合計個体数が148個体,全鞘翅目の90.8%を占めた.カワウの巣の昆虫相は主に生態系の腐食連鎖系に属する腐食性昆虫で構成されることが明らかになった.チビコブスジコガネ(コブスジコガネ科)は48個体確認されており,巣内の幼鳥の古い死体やペリット,食べ残しなどの分解者として重要な役割を果たしていると考えられる.
著者
裴 良燮 那須 義次
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.185-201, 2000-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
31

本論文において,韓国と日本産のPhiaris属のうちolivana種群に含まれる9種を扱った.本種群は雄交尾器の次の3特徴により他の種群と区別できる:(1)uncusは顕著な鉤状で通常2葉,(2)tegumenは高い,(3)valvaは細長く,内面に明瞭な切れ込みを持つ.扱った9種のうち2種toshiookui Bae,hokkaidana Baeは日本から新種として記載し,残りの7種は従来から知られていた種であるが,そのうちの4種castaneana(Walsingham),dolosana(Kennel),examinata(Falkovitsh),transversana(Christoph)については今回新たにOlethreutes属から本属に移した.
著者
那須 義次 富永 智
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.70-72, 2014

最近,著者の富永が沖縄島でテンニンカ(フトモモ科)の新葉を綴ったりあるいは葉を巻いたりしている見慣れない幼虫を採集した.羽化標本を検討したところ,日本新記録のテンニンカヒメハマキ(新称)Eccoptocera palmicola(Meyrick,1912)であることがわかった.本種は,スリランカから記載された種で,それ以外からの初めて記録となる.また寄主植物を明らかにし,♀交尾器を図示した.本種は前翅開張が9-11mmの小型のヒメハマキガで,♂触角の基部は浅く凹む.前翅は細長く,♂は細長い前縁ひだ(costal fold)をもつ.前翅の地色は白灰色で,前縁部は褐色がかる.肛上紋は白灰色で,中に3本の黒色短線を有する.♂後翅の内縁は伸長し,内縁ひだ(anal fold)をもつ.本種はバンジロウヒメハキStrepsicrates semicanella(Walker,1886)に類似するが,より小さいこと,前翅の地色がより白灰色であること,♂交尾器のソキウスが痕跡的であること,細長いバルバをもつこと,♀交尾器のパピラ・アナリスが大きいこと,コルプス・ブルサエの後方の壁が硬化すること,2個の角状のシグナをもつことで識別できる.バンジロウヒメハマキもテンニンカを摂食するが,本種の終齢幼虫は長さ12-14mmと大きく,体色も暗緑褐色であることで,テンニンカヒメハマキと区別できる.Eccoptocera属はハワイ,グアム,スリランカ,日本(沖縄島),オーストラリア(クイーンズランド)に分布し,6種が知られるが,ハワイには未記載種が9種いるという.本属の幼虫はフトモモ科,ウコギ科およびツツジ科植物を摂食するとされる.本属は,特徴的なウンクス,痕跡的なソキウスおよび前後翅とも翅脈が減少することで単系統性が支持されており,Spilonota,Strepsicrates,HolocolaおよびHermenias属に近縁であるとされる.
著者
那須 義次 宮野 昭彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.58-61, 2015

Two Japanese species of Wockia are treated. Wockia koreana is newly recorded from Japan, with illustrations of adult and genitalia. A color photograph of adult W. magna is also provided. The phylogeny of the family Urodidae and the morphology and biology of the genus Wockia are summarized.
著者
那須 義次
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.15-20, 2020-05-31 (Released:2020-06-13)
参考文献数
9

奄美大島で採集した見慣れぬヒメハマキガを検討したとこ ろ,Phaneta 属の新種であることが判明したので記載した.
著者
那須 義次 荒尾 未来 重松 貴樹 屋宜 禎央 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.47-58, 2019-08-31 (Released:2019-09-12)
参考文献数
39

The insect fauna in Ryukyu Ruddy Kingfisher nests was investigated on Iriomote-jima, Ishigaki-jima and Miyako-jima Is., Okinawa, Japan. Kingfishers on Iriomote-jima and Ishigaki-jima Is., where Takasago termites which make ball-like nests on trees are distributed, often dig nesting holes in the termite nests, but they excavate holes in decayed trees on Miyako-jima I. where the termites are not present. Moths belonging to the family Tineidae were found to be the main symbiotic insects in the nests, and eight moth species, including two species considered to be undescribed or newly recorded species from Japan, were confirmed. The differences in moth faunas of the kingfisher nests between the three islands are discussed.
著者
那須 義次 重松 貴樹 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.25-28, 2019-04-30 (Released:2019-05-17)
参考文献数
12

筆者らは我が国の様々な鳥の巣に生息している昆虫類の研究をおこない,多種の昆虫が鳥の巣に生息し,巣内共生系とも呼ぶべき特殊な生態系が成立していることを報告してきた(那須,2012;広渡ら,2012, 2017;那須ら,2012;Nasu et al., 2012;八尋ら,2013など).これら研究の過程で沖縄県の宮古島と南大東島の鳥の巣から日本新記録となるヒロズコガ科のSetomorpha rutella Zeller, 1852の発生を確認したので,成虫と雄交尾器の図とともに報告する.Setomorpha rutella Zeller, 1852ミナミクロマダラヒロズコガ(新称)(Figs 1, 2)前翅開張約12 mm.頭部の鱗粉はなめらかで,暗褐色.前翅は長方形,先端1/3が背方にやや折れ曲がり,地色は淡灰褐色で多数の黒褐色の斑点をもつ.後翅は淡褐灰色.雄交尾器:ウンクスは一対の滑らかな突起で硬化が弱い.バルバは大きく,先端に長い鎌状に曲がった突起をもつ.エデアグスは細長い.サックスは細長く,前方部は膨らむ.一対のコレマータをもつ.分布:世界の熱帯,亜熱帯域に分布(Diakonoff, 1938; Hinton, 1956; Robinson and Nielsen, 1993).日本:沖縄(宮古島,南大東島).(日本新記録)食性:乾燥葉タバコ,スパイス,豆類や貯蔵穀類などの乾燥した植物,ハチの巣,鳥の皮・糞,動植物質のデトリタス(Hinton, 1956; Gozmány and Vári, 1973).備考:本種が属するSetomorphinae亜科は日本新記録のヒロズコガ科の亜科である.本亜科は世界的に分布し,3属9種からなる小さな亜科で,成虫の頭頂の鱗粉が薄板状で,やや頭に押しつけられている,口器(口吻,マキシラリ・パルプス)が退化するなどの特徴をもつ(Robinson and Nielsen, 1993;坂井,2011).宮古島のリュウキュウコノハズクOtus elegans elegansの巣箱とリュウキュウアカショウビンHalcyon coromanda bangsiの自然巣から成虫が羽化した.羽化標本がRobinson and Nielsen (1993)などが図示した成虫と雄交尾器の形態が一致したので本種と判断した.本種はNasu et al. (2012)が南大東島のダイトウコノハズクOtus elegans interpositusの自然巣から記録したSetomorpha sp.と同じものである.幼虫は鳥の巣内では朽ち木屑や糞などの動植物質のデトリタスを摂食していたと推測される.英名Tropical tobacco mothが示すとおり,熱帯域の乾燥葉タバコと貯蔵穀類の重要害虫であるため,今後,鳥の巣だけでなく,我が国の穀類倉庫や屋内から発生して問題になる可能性がある.
著者
那須 義次
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-28, 2000-01-01

Bactra(Chiloides)cerata(Meyrick)キモンヒメハマキ(新称)前翅開張10-12mm.前翅の地色は灰褐色;基部から2/3の間に3-4個の黄褐色の斑紋がある(まれに不明瞭)ことで,同属の他の種と識別は容易である.分布:インド(アッサム),スリランカ,タイ,ベトナム,小スンダ列島,フィジー,パラオ諸島,西南ニューギニア,台湾,日本(本州,九州,琉球).日本新記録.寄主植物:不明.Eucosma lacteana(Treitschke)ホソバシロヒメハマキ(新称)前翅開張12-14mm.E.metzneriana(Treitschke)トビモンシロヒメハマキに外部表徴では類似するが,より前翅が細く,小さいこと,斑紋が不明瞭なこと,雄交尾器のuncusが3角形であること,valvaのくびれ部(neck)が狭いこと,雌交尾器のlamella postvaginalisが長方形であることで識別できる.分布:ヨーロッパ,ロシア,モンゴル,日本(北海道).日本新記録.寄主植物:キク科:ヨモギ属の種.日本ではヨモギの花序から飼育されている.Rhopobota okui Nasu(新種)ソヨゴチビヒメハマキ(新称)前翅開張9-12mm.外部表徴ではR.kaempferiana(Oku)ヤマツツジマダラヒメハマキに類似するが,より前翅が小さいこと,中帯がより広いこと,肛上紋が白っぽいことで識別できる.雌雄交尾器での識別は容易である.分布:日本(本州).寄主植物:モチノキ科:ソヨゴ(果実).Parepisimia catharota(Meyrick)ミナミキオビヒメハマキ(新称)前翅開張12mm.本種は近縁種のP.relapsa(Meyrick)に類似するが,中帯が同幅であること,前縁翅頂近くの三角紋が小さいこと,雄交尾器では幅広いcucullusを持つこと,valvaのcostaに突起を持たないことで識別できる.分布:アンダマン諸島,タイ,台湾,日本(琉球).日本新記録.寄主植物:不明.