著者
藪内 英子 縣 邦雄
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.90-98, 2004-02-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
16
被引用文献数
14 16

宮崎県日向市の日向サンパーク温泉「お舟出の湯」は, 平成14年6月20, 21日に各200人ずつの体験入浴を実施後, 7月1日に正式開業したが, レジオネラ症集団発生のため7月24日に営業停止となった. 6月20日から7月23日までの入浴者19, 773名のうち295名が発症し, そのうち34名が, 喀痰培養陽性, 尿中レジオネラ特異抗原陽性, Legionella pneumophila SG1に対する血清抗体価有意上昇の何れか1つまたは2つにより確定診断され, うち7名が死亡した. L. pneumophila SG1が患者喀痰と浴槽水から検出され, Sfi Iによる患者株と浴槽水株のDNA切断像が一致したことから, 「お舟出の湯」が感染源と確定した.日向市設置の「日向サンパーク温泉施設レジオネラ菌原因等究明委員会」は集団感染の原因として: 宮崎県の委員会が推定した8項目の他に (1) 施設関係者のレジオネラ症に対する知識と認識の不足,(2) 施設完成時, 試運転後の配管内の水の滞留とレジオネラ属菌増殖の可能性, および (3) 体験入浴前の循環系統全体の消毒・清掃が不十分の3項目を加え, 全11項目を指摘した. 改善対策として: (1) 維持管理マニュアルの整備, (2) 浴槽水の溢水の確保,(3) ろ過装置の消毒の徹底, (4) 浴槽水の残留塩素濃度の測定と維持, 及び (5) ろ材を多孔質セラミックから砂に変更, など全24項目を指示した.
著者
黒木 俊郎 八木田 健司 藪内 英子 縣 邦雄 石間 智生 勝部 泰次 遠藤 卓郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.1050-1055, 1998-10-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
14 12

神奈川県下の12温泉施設30浴槽の浴槽水中のLegionella属菌と自由生活性アメーバの生息実態を調査した. 11施設の21浴槽 (21/30: 70.0%) からLegionella pneumopkilaが101CFU/100ml (6施設7浴槽: 23.3%), 102CFU/100ml (7方缶設10浴槽: 33.3%) および103CFU/100ml (2施設4浴槽: 13.3%) の菌数で検出された.決定できたL. pneumopkilaの血清群は3, 4, 5, 6群で4群株が最も検出頻度が高かった.アメーバは11施設の22浴槽 (22/30: 73.3%) から5属が検出され, その主なものはNaegleria属 (7施設14浴槽: 46.7%), Plalyamoeba属 (7施設10浴槽: 33.3%), Acanthamoeba属 (3施設3浴槽: 10.0%) であった.Legionella属菌の宿主アメーバのいずれかが検出された浴槽は合わせて9施設の17浴槽 (17/30: 56.7%) であった.温泉のいずれの水質においてもLegionella属菌あるいは自由生活性アメーバが高率に検出されたが, 標本数が少ないため生息と水質との間の関係の有無は判断できなかった.今回の調査ではNaegleria lovaniensisが13浴槽から分離された. 原発性アメーバ性髄膜脳炎の病原体であるNaegleria fowleriはN.lovaniensisと生息環境を同じくすることが知られており, わが国にも存在することが確認されていることから, 今後とも十分な監視が必要である.
著者
藪内 英子
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.505-548, 2003-08-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
227

古来, 炭疽は畜産に甚大な被害を与えたのみならず, 農工業食品などを介してヒトの散発症例, 大・小規模の集団発生を記録してきた。近年先進国では恣意的でない炭疽症例は, ヒト・家畜ともに激減したが, 炭疽の病原菌 Bacillus anthracis はその病原性, 芽胞の耐久性と製造・運搬・撒布の容易さなどから生物兵器として密やかな脚光を浴びて来た。2001年9月のニューヨークでのハイジャック機自爆テロに引き続いて実行されたB. anthracis 芽胞を混じた白色粉末郵送による生物テロは, 改めて世界の耳目をこの菌に惹き付けた。今後の不測の事態に備えるため, 我々はこの菌種についてあらゆる意味での性格を熟知し対応策を立てておかねばならない。炭疽が疑われる患者の臨床検査から患者の迅速診断と迅速治療, 毒素の作用機序と分子生物学, 毒素の解毒方法, ワクチンならびに同種受動免疫抗体の開発・実用化など多岐にわたる知識と技術を具えた研究者群を確保していただきたい。この総説では1864年の Davaine の論文から始めて2003年の Colwell の論説まで引用した。Bacillus cereus group の菌種の分類学上の問題点が未解決である事, 公的統計として発表されていない明治以降の本邦炭疽症例, 旧ソ連軍事施設からの芽胞漏洩による大惨事とその隠蔽, 多様な臨床病型などを比較的詳述した。毒素に関する記述を簡単な引用に留めた部分も少なくないが, 炭疽毒素の抗腫瘍効果も含めて, この総説から何かを得て下されば幸甚である。
著者
藪内 英子
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.505-548, 2003

古来, 炭疽は畜産に甚大な被害を与えたのみならず, 農工業食品などを介してヒトの散発症例, 大・小規模の集団発生を記録してきた。近年先進国では恣意的でない炭疽症例は, ヒト・家畜ともに激減したが, 炭疽の病原菌 <i>Bacillus anthracis</i> はその病原性, 芽胞の耐久性と製造・運搬・撒布の容易さなどから生物兵器として密やかな脚光を浴びて来た。2001年9月のニューヨークでのハイジャック機自爆テロに引き続いて実行された<i>B. anthracis</i> 芽胞を混じた白色粉末郵送による生物テロは, 改めて世界の耳目をこの菌に惹き付けた。<br>今後の不測の事態に備えるため, 我々はこの菌種についてあらゆる意味での性格を熟知し対応策を立てておかねばならない。炭疽が疑われる患者の臨床検査から患者の迅速診断と迅速治療, 毒素の作用機序と分子生物学, 毒素の解毒方法, ワクチンならびに同種受動免疫抗体の開発・実用化など多岐にわたる知識と技術を具えた研究者群を確保していただきたい。<br>この総説では1864年の Davaine の論文から始めて2003年の Colwell の論説まで引用した。<i>Bacillus cereus</i> group の菌種の分類学上の問題点が未解決である事, 公的統計として発表されていない明治以降の本邦炭疽症例, 旧ソ連軍事施設からの芽胞漏洩による大惨事とその隠蔽, 多様な臨床病型などを比較的詳述した。毒素に関する記述を簡単な引用に留めた部分も少なくないが, 炭疽毒素の抗腫瘍効果も含めて, この総説から何かを得て下されば幸甚である。
著者
河村 好章 長瀬 弘司 遠藤 正和 重松 貴 江崎 孝行 藪内 英子
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR BACTERIOLOGY
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.597-610, 1991
被引用文献数
3 3

グラム陽性,カタラーゼ陽性好気性球菌の迅速同定キット「スタフィオグラム」(テルモ)のプレート作製,追加試験選定およびコードブック編集のための基礎実験を行った。<br>この目的のため<i>Staphylococcus aureus</i>を含む<i>Micrococcaceae</i>の3属30菌種の基準株のそれぞれが固有のコード番号を示すスタフィオグラムプレートを作製した。このプレートは10種の糖分解試験と8種の酵素活性試験から成り,McFarland No.4の菌液50μlを各ウェルに分注し,37C, 4時間培養後に結果を判定する。<br>このプレートを用いて新鮮分離株の同定を試みるに先立ち,好気性グラム陽性球菌同定へのfluorometric microplate hybridizationの有用性を確認した上で,新鮮分離386株のすべてを核酸同定した。これらの菌株をスタフィオグラムプレートで培養すると,得られたコード番号236種類のうち218種(92.4%)は<i>Staphylococcus</i>属15菌種と<i>Stomatococcus mucilaginosus</i>に固有の番号であった。被検386株のうち,これらの番号のいずれかに該当した342株(88.6%)は追加試験を行うことなく同定できた。同定できた<i>Staphylococcus</i>属15菌種のうちApproved lists of bacterial namesに収録されているもの(すなわち1980年1月1日以前の正式発表名)が11菌種を占め,その後に提案された菌種と同定されたのは<i>S. caprae, S. lugdunensis, S. gallinarum</i>および<i>S. delphini</i>の4菌種に過ぎず,残りの8菌種に該当する株はなかった。しかし<i>S. caprae</i>(48株),<i>S.haemolyticus</i>(46株),<i>S. capitis</i>(35株)は<i>S. epidermidis</i>(67株)に次いで株数が多く<i>S. saprophyticus</i>(31株)より上位にあった。<br>236種類のコード番号のうち2菌種に重複したのは7種類(27菌株),4菌種に重複したのは1種類(17菌株)の計8種類(3.4%)であった。コード番号が重複した44菌株は追加試験として選択した8項目のうち1∼3項目を実施することでmicroplate hybridizationの同定結果を追認し得た。<br>以上の結果からスタフィオグラムは<i>Staphylococcus, Micrococcus, Stomatococcus</i>の各属の菌種の迅速同定キットとして有用であると確信した。今後核酸同定した菌株によるデータを集積して専用コードブックを作製し,同定精度の高いキットを完成させたい。
著者
藪内 英子 山本 啓之 遠藤 卓郎 八木田 健司 守尾 輝彦
出版者
Japanese Society of Environmental Infections
雑誌
環境感染 (ISSN:09183337)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-140, 1998-04-30 (Released:2010-07-21)
参考文献数
14

On 9 March 1996, a 57-year-old Japanese drunken male drown in a public bath in Tokyo. He was transferred to a emergency hospital and recovered. After his discharge on 11 March by walking, he became febrile at night. Next day, because of high fever and dyspnea, he came to the medical attention, and was immediately hospitalized under the diagnosis of acute pneumonia. Although bacteriological, serological examinations and chemotherapy for suspected Legionella pneumonia, definite diagnosis was not obtained and the patient died on 6 April. Culture of the autopsied lung tissue yielded colonies of Legionella pneumophila serogroup (SG) 6, and reexamined serum antibody titer against. L. pneumophila serogroup 6 was 1: 1024 by microplate agglutination test.Examinations for legionellae and their host amobae in the water of 22 bath tubs of 6 public bath facilities located in the area including the facility concerned were carried out on 22 April without notification in advance. Free residual chlorine concentrations of the 22 bath water were from 0.1 to more than 5 mg/L, and water from 2 bath tubs (0.1%) of low chlorine level were legionellae-positive. Host amoebae for legionellae were detected from 10 bath tubs of 5 facilities.Though Naegleria was detected, the bath water where the patient drowned was negative for viable legionellae by repeated trials of culture, 3 times intraperitonal passages of guinea pigs, and coculture with amoebae. The 16S rRNA gene specific for legionellae was detected from the bath water by nested PCR method using primers, 225A-854B and 448A-854B. After filtration of 10 ml bath water, the membrane filter was stained by indirect fluorescent antibody (IFA) method. Rodshaped organisms trapped on the membrane filter were IFA-positive against L. pneumophila SG 6, same with the isolates from lug tissue, and their presumptive number in bath water was estimated as 102-103/ml. Based on the results of nested PCR and IFA staining of rod-shaped bacteria trapped on the membrane filter, the bath water was regarded as contained with viable legionellae due to unknown reason and could be the source of infection when the patient was drowned.