著者
永井 由佳里 野口 尚孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.27-36, 2003-05-31
被引用文献数
1

本研究に先行しておこなった,多くの被験者を用い,ローイングに焦点を当てたデザイン過程についての実験結果をもとに,本研究では,より深くデザイン思考過程を探る目的でデザイン行為をリアルタイムで追跡観察する実験をおこなった.4人の被験者に,「きれいなテープディスペンサーのデザイン」という課題を課し,それぞれ約20分間にわたるデザイン行為の過程を詳細に観察記録した.実験の結果,デザイン課題の主部あるいは述部と探索空間の関係や思考モードとの関係,プレドローイング行為などが抽出され,思考過程を把握するうえでの重要な手がかりとなりうることが分かった. 続報においては,それらの実験記録の解析から,各被験者がどのような思考経路でデザイン創造をおこない,どのような種類の探索をおこなっているのかについて追体験的に考察し,各被験者の比較をおこない共通部分を抽出し,デザインにおける創造的思考過程を思考経路という観点からモデル化することを試みた.
著者
野口 尚孝
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.136, 2012 (Released:2012-06-11)

デザイン論においては、経済的価値と個人的価値観とを区別することが少ない。しかし、付加価値とは何かを分析するためには、この区別が必要である。マルクスの労働価値説によれば、ある生産物の価値とは、それを作るために要した、社会的に平均的な労働時間で示される。しかし、商品経済社会においては、商品の価格は直接価値に基づいて設定されるのではなく、需要と供給の関係で決まる。したがって市場価格は買い手の主観的価値観に依拠して売り手が決めるといえる。付加価値とは、実際の価値より遥かに高い価格を買い手の主観的価値観に訴えて設定することを可能にする方法であるといえる。 現在の資本主義経済体制では、経済恐慌の要因である過剰資本の蓄積を過剰消費によって処理するシステムが確立されており、デザインによる付加価値もそのための消費拡大の手段として用いられている。しかし、消費を拡大させないと成り立たない現在の資本主義経済体制は、その必然的帰結として他方で資源エネルギーの無駄遣いや深刻な環境破壊を起こしている。今後こうした事実を直視した新たなデザイン論が必要であろう。
著者
範 聖璽 野口 尚孝
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.61-68, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
8

デザインの創造的思考において,デザイン対象が属するカテゴリー(デザインしようとしているものがどのような名前で呼ばれるのか)を考える場合,いかにそのカテゴリーが示す対象の原型(プロトタイプ)のイメージを残しておくか,あるいはいかに新たなイメージを創出するかという視点の置き方によってデザイン対象のとらえかたと表現内容が大きく変わる。本報では,デザイン目標表現(デザイン対象の言語的表現)の相違から来る視点の相違と,デザイン対象のカテゴリーにおけるプロトタイプ・イメージの影響との関係を2つの実験によって確かめ,独創性の高いデザインを生み出すためのデザイン目標表現のあり方についての手がかりを探った。その結果,デザイン対象が属するカテゴリーの認知意味論的な基本レベルより上位のカテゴリーによるデザイン目標を与え,そこからその下位概念として基本レベルでの対象を考えさせるか,意図的にデザイン対象を含む,より大きな文脈でのデザイン目標を与えることにより,独創性のあるデザインを創出させることができることが分かった。
著者
範 聖璽 野口 尚孝
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.53-60, 2007-01-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
7
被引用文献数
1

デザイン行為では,通常デザイン要求が言語表現で与えられるが,それを視覚空間的形態イメージに変換する過程がデザイン思考過程であるといえる。デザイン要求を表す目標表現は,デザイン思考における探索空間を限定するといえるが,実際のデザイン行為においては,同じデザイン要求であっても,その解釈の相違によって,結果としての視覚空間的形態表現も異なる。本研究では,「子供用のイスのデザイン」というデザイン要求を学生に課した実験により,その要求を解釈したコンセプトにおける言語表現の概念構造と,それに対応する視覚空間的形態表現との関係を,認知意味論のカテゴリー階層構造という視点からとらえ,デザイン要求の解釈の仕方の違いが形態表現における創造性とどのような関係があるかを確かめた。その結果,与えられたデザイン要求の解釈において,意味空間カテゴリーの中心的な解釈よりも,周縁的解釈の方が,作品の形態表現における新規性が高い傾向があることが分かった。
著者
永井 由佳里 野口 尚孝
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.185-194, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
5
被引用文献数
6

デザインの創造的な思考過程を言葉から形への変換過程と考えた場合, デザイン目標として与えられたキーワードによってどのように思考モードが異なるかを知るため, 約80人の被験者に実験をおこなった.まず形への変換の難易度が異なる二種類の言葉からそれらに相応しい花瓶の形を考えさせる課題を課した.その結果, 形に結びつきにくい言葉の場合はキーワードから連想できる具体的な事実や対象を描くことから花瓶の形を考える傾向があることがわかった.次に「悲しい気持ちにさせる」というキーワードに相応しい椅子の形を考えさせた.その結果, 形に結びつきにくい言葉の場合, ドローイングの過程でキーワードから思い浮かべられる人間の姿勢やものの状態などを媒介にして, 言葉の意味を形に近いレベルにまで構造化し, 椅子の形に結びつけていることがわかった.以上から, デザイン思考過程における思考の抽象度をデザイン目標から形としてのデザインの創出までの距離として考えれば, この距離が長いほど思考の努力が必要であり, その過程でのドローイングの役割も大きいことが推測できた.
著者
野口 尚孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.61-68, 1995-05-31
被引用文献数
3

本研究の目的は,直接的にはデザイン発想支援の枠組みを明らかにすることであるが,それを通じて把握された限りでの,設計行為およびデザイン行為の本質および発想の構造をも明らかにすることを目指す。第1報では,普遍的な意味での設計行為と設計行為における発想の構造について述べたが,第2報(本報)では,これに基づき,設計行為の一側面としてのデザイン行為とデザイン行為における発想の特徴について述べる。デザイン行為の本質は,人工物の使用の場における使用者の感性的要求を充たすという目的のため,その実現手段として人工物の感性的機能を持つ属性の形式を決定することであると規定する。また,デザイン行為における発想は,形態イメージ探索の過程で発生し,その本質上,目的手段連関の一時的逆行における抽象から具体への落差が大きいことを指摘する。最後にデザイン行為およびデザイン発想における,これらの特徴に見合った発想支援の基本的な考え方を提起する。
著者
永井 由佳里 野口 尚孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.185-194, 2001-11-30
被引用文献数
11

デザインの創造的な思考過程を言葉から形への変換過程と考えた場合, デザイン目標として与えられたキーワードによってどのように思考モードが異なるかを知るため, 約80人の被験者に実験をおこなった.まず形への変換の難易度が異なる二種類の言葉からそれらに相応しい花瓶の形を考えさせる課題を課した.その結果, 形に結びつきにくい言葉の場合はキーワードから連想できる具体的な事実や対象を描くことから花瓶の形を考える傾向があることがわかった.次に「悲しい気持ちにさせる」というキーワードに相応しい椅子の形を考えさせた.その結果, 形に結びつきにくい言葉の場合, ドローイングの過程でキーワードから思い浮かべられる人間の姿勢やものの状態などを媒介にして, 言葉の意味を形に近いレベルにまで構造化し, 椅子の形に結びつけていることがわかった.以上から, デザイン思考過程における思考の抽象度をデザイン目標から形としてのデザインの創出までの距離として考えれば, この距離が長いほど思考の努力が必要であり, その過程でのドローイングの役割も大きいことが推測できた.