著者
吉永 尚紀 野崎 章子 宇野澤 輝美枝 浦尾 悠子 林 佑太 清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.100-112, 2015-03-31 (Released:2015-05-29)
参考文献数
38
被引用文献数
1

日本国内の看護領域における認知行動療法の実践・研究の動向を概括することを目的に,事例および効果研究の系統的文献レビューを行った。その結果,認知行動療法は精神疾患を中心にさまざまな看護領域で活用され,また,その多くは入院環境下で実施されていることが明らかになった。効果研究では,看護職による認知行動療法が効果的とする報告が多かったが,その対象や研究デザインは多岐にわたっていた。また,事例研究と効果研究のいずれも,認知行動療法実施中のスーパービジョンなど,質の担保方法に関する報告が少なかった。これらの知見から,継続的なスーパービジョンを含む教育・研修システムの整備,看護職養成課程での認知行動療法に関する基礎教育の実施,そして看護職による認知行動療法の効果を検証するランダム化比較試験の実施が,今後取り組むべき課題と示唆された。
著者
東本 裕美 岩崎 弥生 石川 かおり 野崎 章子
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

最終年度にあたる本年は、これまでの調査で得られた結果をもとに高齢者の精神的健康の維持、増進を図るため健康教室を企画した。これまでの研究より「お互い楽しく話し合える場や、協力できる友達が必要」等の意見をふまえ、地域在住の高齢者を対象にグループ活動を実施した。このグループは参加を希望し研究の承諾が得られた6名の女性高齢者(60代~80代、平均年齢73.3歳)を対象とし全8回実施した。グループにはグループ回想法の技法を用い、1.回想を通じての情緒的交流の機会の提供、2.共有体験の分かち合い、3.孤立感の軽減、4.生活の活性化を目的とした。各セッションのテーマは参加者と話し合って設定したが、それにこだわることなく毎回自由な雰囲気で進行した。また、話し合いばかりではなく1回は「散歩」を取り入れた。結果としては、グループの中でお互いの情報を交換したり、悩みについてアドバイスをしあう様子がみられた。そして、実施後の参加者の感想としては、「楽しかった」、「だれかと話をする時が紛れる」、「また参加したい」、「最初はうまく話せるか不安だったけど、会が進む間に楽になった」と肯定的なものであった。また、実施前後でQOLを比較したところ、グループでの話し合いは高齢者のQOLを高める一定の効果があった。さらに、今後は「戦争体験について若い人たちに話したい」や「若い人たちに役に立つことは何か、自分たちができることは何か」ということをテーマに話したいという、高齢者自身が地域づくりのためにできることは何かを模索する姿勢が見られた。今後の課題としては、グループの中で、個々のプライベートや心的外傷体験に関する内容が話された場合に、その取り扱いについて十分な配慮が必要であり、今後は進行の方法などの運営側の体制づくりが必要となると考える。
著者
岩崎 弥生 荻野 雅 野崎 章子 松岡 純子 水信 早紀子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

リカバリーは、病気から生じた障害をもっていたとしても、満足でき希望に満ち社会貢献できる生活を送る方法として認識されている。リカバリー志向のアプローチは、当事者と医療従事者のパートナーシップを基軸に、精神障害をもつ当事者の癒しと安寧をもたらす代替的なサービスとして注目されている。本研究は、精神障害をもつ人のリカバリーの概念を、精神障害をもつ当事者の視点から明らかにして、リカバリーを促す看護援助プログラムの開発・評価することを目標とした。平成16年度は、地域で暮らす精神障害者を対象に、当事者の視点からリカバリーの概念を明らかにすることを目標として、質的調査を実施した。地域で生活する精神障害者47名(男性35名、女性12名)から、面接インタビューを用いた研究への参加同意を書面で得た。質的分析の結果、当事者が考えるリカバリーとして、「傷を抱えながら新しい自分に成長する」および「社会通念にとらわれない自分らしい生き方をする」という二つのカテゴリーが析出された。また、リカバリーに関連する要因として、(1)「無理」に挑戦する、(2)自分でも病気を知り管理する、(3)地域の資源を組み合わせて普通の生活に近づける、(4)病気や障害をもって生きるには保障と周囲からの信頼が要る、(5)人並みに生きたいと思うと苦しい、といった五つのカテゴリーが析出されたが、これら五つのカテゴリーのうち、最初の二つのカテゴリーは障害をもつ個人としての側面におけるリカバリーを示し、最後の三つは社会的に周縁化された人々の自信と能力を削ぐ社会的システムの特徴を示唆した。結果から、精神疾患・精神障害に対する社会的な価値の転換の必要が示唆された。平成17年度は、前年度の研究成果を踏まえて精神障害者のリカバリーを促す看護援助を開発し、その有用性を検討した。リカバリーを促す看護援助プログラムは、「回復の希望」、「自分の擁護」、「わがままの発揮」、「新しい自分の構築」を促すことを目的とした四つのセッションから成り、小グループで話し合う形態で進めた。地域で暮らす精神障害者8名(男性6名、女性2名)から、書面で研究への参加同意を得た。プログラムでの話し合いの内容は録音し、観察の内容はフィールドノートに記録した。小グループでのディスカッションは、対象者が相互に新しい対処方法について学び、お互いの強みを発見し、病気の経験を人生の中に再統合することを促した。援助過程の中で浮上してきた対象者のリカバリー(回復)の中心的なテーマは、病気や障害の管理についてではなく自分の生き方に関してであり、リカバリーが全人的な過程であり、精神医療システムの範囲では捉えきれないことを示唆した。リカバリーを促すには、本人の脆弱性や障害されている部分に働きかけるのではなく、人生という観点からリカバリーを捉える全人的なアプローチの必要が示唆された。