著者
吉永 尚紀 清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.Special_issue, pp.42-93, 2016-05-31 (Released:2016-06-02)
参考文献数
20
被引用文献数
2 4

本マニュアルおよび付録資料は,厚生労働省科学研究費補助金障害者対策総合研究事業「精神療法の有効性の確立と普及に関する研究(代表:大野裕)」(平成22~24年度)(平成24年度総合研究報告書にて第1版を作成・公表)および「認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究(代表:大野裕)」(平成25~27年度)の助成を受け,千葉大学大学院医学研究院社交不安障害研究(SAD)チーム(松木悟志・大島郁葉・浅野憲一・伊吹英恵・小林朋美・田中麻里・高梨利恵子)と日本不安症学会不安障害認知行動療法研究班の協力のもと,作成されました。
著者
清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.64-71, 2015-11-30 (Released:2015-12-10)
参考文献数
24

うつ病やパニック症,PTSDなどの有病率は,女性が男性の約2倍高いが,社交不安症の有病率は,それほど性差がないのはなぜか。脳の性差から,うつ病や他の不安症群が,女性に多いことは理解しうる。社交不安症もうつ病と同様,扁桃体の過剰反応と前頭葉の機能不全が想定される。メス優位社会のボノボは,他者に対して寛容で,親愛の情を示す一方,オス優位社会のチンパンジーは,攻撃的,競争的である。アイ・コンタクトを調べると,ボノボは,チンパンジーよりも多いという研究が報告された(Kano et al., 2015)。アイ・コンタクトを避ける安全行動をしがちな社交不安症は,支配ヒエラルキーの中で,攻撃性が必要とされた男性優位社会の歴史と関連があるかもしれない。進化生物学的観点から,歴史的に,兵士にならなければならなかった男性に,戦場で不安症状をさらせば,戦死につながりうることから,競争社会の中で,敵に対する恐怖(対人恐怖)の圧力が強くかかり,女性と同様に,社交不安症になりやすい要因を考察した。
著者
関 陽一 清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.Special_issue, pp.94-154, 2016-05-31 (Released:2016-06-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3

本マニュアルおよび付録資料は,社交不安障害の認知行動療法:治療者用マニュアル(吉永尚紀(執筆・編集) 清水栄司(監修))をもとに,厚生労働省科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業「認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究(代表:大野裕)」(平成25~27年度,平成26年度報告書にて概要版を公表)の助成を受け,千葉大学大学院医学研究院・子どものこころの発達教育研究センターパニック障害研究(PD)チーム(澁谷孝之,永田忍ら)および日本不安症学会不安障害認知行動療法研究班の協力のもと,作成されました。
著者
石川 亮太郎 小堀 修 中川 彰子 清水 栄司
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.54-60, 2013-08-31 (Released:2014-01-31)
参考文献数
16

曝露反応妨害法を用いた認知行動療法は,強迫性障害に対して有効な治療法とされている。一方,行動実験(Behavioural Experiments)とは,対象者の不合理な信念の妥当性を実験的手法によって検証する技法であり,強迫性障害に対して有効であると指摘されている。われわれは,複数の加害恐怖に関する症状を持つ,強迫性障害の1症例に対して曝露反応妨害法と行動実験を用いた,全12セッションからなる認知行動療法を行った。その結果,強迫性障害の症状得点(Obsessive Compulsive Inventory)はセッションを経るごとに減少し,本症例に対する認知行動療法の有効性が示唆された。特に行動実験は,脅威的状況に曝露することなく,強迫性障害を維持させる信念を変容させるのに有効であったと考察された。
著者
吉永 尚紀 野崎 章子 宇野澤 輝美枝 浦尾 悠子 林 佑太 清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.100-112, 2015-03-31 (Released:2015-05-29)
参考文献数
38
被引用文献数
1

日本国内の看護領域における認知行動療法の実践・研究の動向を概括することを目的に,事例および効果研究の系統的文献レビューを行った。その結果,認知行動療法は精神疾患を中心にさまざまな看護領域で活用され,また,その多くは入院環境下で実施されていることが明らかになった。効果研究では,看護職による認知行動療法が効果的とする報告が多かったが,その対象や研究デザインは多岐にわたっていた。また,事例研究と効果研究のいずれも,認知行動療法実施中のスーパービジョンなど,質の担保方法に関する報告が少なかった。これらの知見から,継続的なスーパービジョンを含む教育・研修システムの整備,看護職養成課程での認知行動療法に関する基礎教育の実施,そして看護職による認知行動療法の効果を検証するランダム化比較試験の実施が,今後取り組むべき課題と示唆された。
著者
清水 栄司 佐々木 司 鈴木 伸一 端詰 勝敬 山中 学 貝谷 久宣 久保木 富房
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.116-121, 2014-03-31 (Released:2014-05-02)
被引用文献数
1

日本不安障害学会では,日本精神神経学会精神科用語検討委員会(日本精神神経学会,日本うつ病学会,日本精神科診断学会と連携した,精神科病名検討連絡会)からの依頼を受け,不安障害病名検討ワーキング・グループを組織し,DSM-5のドラフトから,不安障害に関連したカテゴリーの翻訳病名(案)を作成いたしました。ご存知のように,厚生労働省は,地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として指定してきた,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病の四大疾病に,新たに精神疾患を加えて「五大疾病」とする方針を決め,多くの都道府県で2013年度以降の医療計画に反映される予定です。精神疾患に関しては,「統合失調症」や「認知症」のように,common diseasesとして,人口に膾炙するような,馴染みやすい新病名への変更が行われてきております。うつ病も,「大うつ病性障害」という病名ではなく,「うつ病」という言葉で,社会に広く認知されております。そこで,DSM-5への変更を機に,従来の「不安障害」という旧病名を,「不安症」という新名称に変更したいと考えております。従来診断名である,「不安神経症」から,「神経」をとって,「不安症」となって短縮されているので,一般に馴染みやすいと考えます。ただし,日本精神神経学会での移行期間を考え,カッコ書きで,旧病名を併記する病名変更「不安症(不安障害)」とすることを検討しております。そのほかにもDSM-5になって変更追加された病名もあるため,翻訳病名(案)(PDFファイル)を作成しました。翻訳病名(案)については,今後も,日本精神神経学会精神科用語検討委員会の中での話し合いが進められていく予定です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
著者
本郷 美奈子 大島 郁葉 清水 栄司 桑原 斉 大渓 俊幸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

成人の高機能自閉スペクトラム症(High-functioning Autism spectrum disorder:HF-ASD)者 は「自分は異端である」などのスティグマを持ちやすく,そのため定型発達者の社会に過剰適応する「社会的カモフラージュ行動」を取りやすいが,その行動はメンタルヘルスに負の影響をもたらすことが指摘されている.本研究では,成人のHF-ASD者の社会的カモフラージュ行動の要因について解明する.その知見をもとに,成人のHF-ASD者に対する新たな対処方略の構築を目的とした認知行動療法を開発・施行し,その効果を検証する.
著者
大塚 裕之 沼田 憲治 高杉 潤 松澤 大輔 中澤 健 清水 栄司
出版者
脳機能とリハビリテーション研究会
雑誌
脳科学とリハビリテーション (ISSN:13490044)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-40, 2009 (Released:2018-11-13)

右半側空間無視(USN)例の報告は少なく, またそのメカニズムは明らかではない. 今回左MCA領域脳梗塞後に慢性期まで右USNが遷延した自験例について報告する. 症例は89歳女性右利き(発症後1年3ヶ月経過). MRI所見では, 左MCA領域の病巣の他に両半球にleukoaraiosisを認め, 血管造影では右内頚動脈の中等度狭窄を認めた. 神経学的所見は, 軽度な意識混濁と運動性失語を伴うも短文理解は可能であった. 右上下肢は重度錐体路障害を伴い, 右方向への滑動性眼球運動の低下が認められた. 神経心理学的所見は, 線分二等分試験の左偏移および, 視覚性探索において右視空間方向に対するdirectional hypokinesiaを認めた. 右USNのメカニズムとしてWeintraubらは, 両側半球の病巣により右視空間への注意が補えず重症化することを報告した. 本症例もこれを支持し, 左半球損傷とともにleukoaraiosisによる白質損傷が存在したことで右USNからの回復を阻害された可能性が示唆される.
著者
清水 栄司
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.59-66, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
15

日本認知・行動療法学会は、公認心理師、医師、看護師、精神保健福祉士などを対象にした認知行動療法師およびスーパーバイザーの資格認定をトレーニング・ガイドラインに基づいて行う。現在、日本の公的医療保険では医師および医師と看護師のみのため十分な普及に至っていない。うつ・不安に対する段階的ケア・モデルを取り入れ、公認心理師等の多職種による認知行動療法の提供が重要である。日本不安症学会は、外来認知行動指導料(案)にリハビリテーションの保険点数の単位制の応用を提案している。おおむね25分1単位で開始から180日以内(最大50単位まで)という設定にし、社交不安症の患者に毎週1回50分(2単位)で18週=36単位を提供したり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に毎週1回100分(4単位)で12週=48単位を提供するなど、患者の重症度やニーズに合わせて、柔軟な時間単位での提供が可能となり、認知行動療法の普及が期待される。
著者
永田 忍 松本 一記 関 陽一 清水 栄司
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-017, (Released:2021-06-17)
参考文献数
14

パニック症は、再発性のパニック発作と予期不安に特徴づけられ、パニック発作への恐怖から日常生活に支障をきたす不安症である。パニック症の治療に関して、認知行動療法の有効性が確立されており、日本人を対象にした個人認知行動療法では、対面と遠隔で介入した場合の安全性と実用可能性が立証されている。本研究では、過敏性腸症候群が併存するパニック症の成人男性に対して、テレビ会議システムを用いた遠隔認知行動療法を、毎週1セッション50分連続16週間実施した治療経過を報告する。介入前後には、パニック症と過敏性腸症候群の症状が顕著に改善し、治療終結後12カ月時点でも治療効果が維持されていた。本症例の結果は、テレビ会議システムを用いた遠隔認知行動療法は、対面での実施と同様に、パニック症を治療可能で、過敏性腸症候群を併存している場合にも有効であることを示唆している。
著者
松本 一記 吉野 晃平 清水 栄司
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.46-51, 2021-11-30 (Released:2022-01-14)
参考文献数
19

「ママ友」との付き合いがストレスになる人もおり,場合によっては社交不安症の発症につながることもある。本症例では,ひきこもり状態の女性に認知行動療法を提供した際の治療経過を報告する。
著者
清水 栄司
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.2311-2316, 2022-11-10 (Released:2023-11-10)
参考文献数
10

エビデンスに基づいた精神療法である認知行動療法は,これまでうつ病や不安症のような精神疾患に用いられてきた.より簡便な低強度の認知行動療法では,ワークブックやデジタル・セラピューティックスとしてのアプリの形で患者に提供することが可能であり,禁煙外来だけでなく,プライマリケアで通常みられる肥満症,糖尿病,肝疾患,慢性疼痛などの内科診療でも大いに活用できる可能性があるので,本稿で紹介する.
著者
平松 洋一 清水 栄司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1159-1165, 2019-10-15

抄録 小児期逆境体験(ACEs)とは,小児期に体験した虐待やその他の家庭内の機能不全であり,さまざまな難治性の精神疾患の背景要因として注目されてきた。うつ病とACEsとの関連性は多くの研究で言及されている。たとえば,ACEsを経験していることでうつ病のリスクが増加すること,自殺行動と関連性が強いことなどが示されている。一方で,うつ病の患者にみられる,現在の気分に一致してネガティブな記憶を想起しやすい「気分一致効果」の観点から,うつ病とACEsとの関連性に関する研究に疑問が呈されることもあるが,抑うつ症状の悪化,改善によらずACEsの評価に時間的な一貫性があるという研究もある。治療において,ACEsを背景に持つうつ病の場合は,薬物療法の効果が低下し,難治化する一方で,認知行動療法の有効性が示されている。認知行動療法の進歩の中で,特にコンパッション(compassion:慈悲,思いやり)に焦点を当てた治療技法は,ACEsを持つ難治性うつ病を改善することが期待される。また,ACEsへ直接働きかけ得る認知行動療法の技法として,抑うつ気分に伴うネガティブな視覚イメージや記憶を同定し,その内容を見直す「イメージ書き直し(imagery rescripting)」技法が欧米で実践されており,我々も,うつ病患者を対象にした本邦初のイメージ書き直しの臨床研究において,ACEsの記憶と抑うつ気分の関連性をみている。
著者
高杉 潤 松澤 大輔 須藤 千尋 沼田 憲治 清水 栄司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】じゃんけんは,幼少期から慣れ親しんだ手遊びの一つである。通常,勝つことを目的とし,後出しは反則のため,意図的に「後出しで負ける」ことは,「後出しで勝つ」よりも難しい。「後出し負けじゃんけん」は,反射的な行動を抑制する高度な認知機能を要する課題とされ,臨床では前頭葉機能の検査として利用されており,その神経生理学的根拠として,課題遂行中に前頭前野の活性化が機能的MRIや機能的近赤外線分光法(fNIRS)で確認されている。しかしこれら先行研究は,単回の介入結果であり,複数回の連続介入による経時的変化については,パフォーマンスレベル,神経生理学的レベルともに調べた研究はなく,明らかとなっていない。そこで本研究は,後出し負けじゃんけんを複数回連続実施した際の経時的な成績の変化および前頭前野の活動の変化を明らかにすることを目的とする。【方法】<u>実験1</u><u> パフォーマンス実験</u>対象は健常成人10名(男女各5名。平均年齢21.3歳±0.7歳。全例右手利き)。被験者は椅子座位で,正面のパソコン画面から3秒間ずつランダムに提示されるじゃんけんの手の写真15枚に対し,後出しで「負け」か「勝ち」の各課題を4セッションずつ行った。1セッション1分間,セッション間のレスト時間は90秒とした。画像提示は視覚刺激提示ソフト(アクセスビジョン社製Sp-Stim2)を用い,被験者がキーボードで回答するまでの1試行毎の反応時間や正誤も自動的にパソコンに記録された。被験者毎に各セッションの平均反応時間を算出した。各セッション1試行目と誤答した際のデータは解析から除外した。<u>実験2</u><u> 脳活動計測(fNIRS)</u><u>実験</u>対象は健常成人6名(平均年齢21.2±1.0歳,女5名,男1名)とし,実験1のパフォーマンス実験と同様の課題施行中の前頭前野の活動をNIRS(Spectratech社製OEG-16)にて計測した。NIRSは課題開始から終了まで刺激提示ソフトと同期させ,事象関連型デザインで活動を計測した。ただし各セッション前のレスト時間は30秒間とした。記録された各セッションの酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)の濃度変化の平均値を算出し,各セッションの開始後および終了前の各10秒間のデータは解析から除外した。<u>解析方法</u>パフォーマンス実験では勝ち課題と負け課題の1回目から4回目までの各セッションの平均反応時間について反複測定分散分析を用いた。NIRS実験では左右半球の前頭極に位置する各4チャンネル全体のOxy-Hbの平均濃度について反復測定分散分析を用いた。有意水準は5%とした。【結果】実験1の平均反応時間±SD(ms)は,負け課題では,1回目980.3±132.2,2回目930.9±115.6,3回目891.1±160.2,4回目852.5±113.3と徐々に短縮が見られた。勝ち課題は1回目801.0±86.3,2回目794.3±82.0,3回目796.1±91.5,4回目769.5±74.9と大きな変動は無く,課題条件とセッションとの間に交互作用が見られた(p=0.022)。実験2のOxy-Hbの平均濃度±SD(mmol/l)は,右半球(チャンネル4~7)は,負け課題では,1回目0.202±0.17,2回目0.078±0.16,3回目-0.02±0.11,4回目-0.02±0.09と減少傾向を示したが,勝ち課題では,1回目0.02±0.16,2回目-0.04±0.08,3回目-0.0006±0.1,4回目0.04±0.2であった。左半球(チャンネル10~13)の負け課題では1回目0.21±0.22,2回目0.08±0.17,3回目0.005±0.08,4回目0.0003±0.11と,右半球と同様に減少傾向を示した。勝ち課題では,1回目0.05±0.13,2回目-0.04±0.06,3回目-0.05±0.08,4回目0.06±0.11であった。左右半球ともに,課題条件と回数との間に交互作用を認めた(p<0.001)。【考察】「負け課題」が「勝ち課題」に比べ反応時間が遅くなることは先行研究と合致する結果となった。しかし,複数回の試行によって徐々に短縮し,最終的に勝ち課題に近い時間まで短縮した点や,本課題と類似するstroop testでは学習効果を示唆する報告もあることから,本課題も学習効果の影響を受ける可能性が推察された。さらに負け課題の反復によって,左右半球ともに前頭前野の活動も有意に低下が見られたことは,学習効果の影響と推察される。【理学療法学研究としての意義】後出し負けじゃんけん課題は,学習効果があるため,臨床で複数回実施する際は十分考慮することが必要である。
著者
松澤 大輔 清水 栄司
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.185-191, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
27

不安障害に対しては薬物療法と共に,認知行動療法(CBT)が治療の選択肢にあるが,いずれも効果が高い一方で,恩恵に預かれない患者も多いなど,個人差が大きく,治療後にも再燃/再発がしばしば認められる。その個人差の背景には何らかの生物学的因子があるはずである。本稿では,その背景を,1つには繰り返しの知覚刺激を減弱する脳の感覚ゲート機構という脳の生理学的応答の違いから論じた。指標としたのは,事象関連電位P50である。強迫性障害を対象に測定したP50 は,脳内感覚ゲート機構の障害を示しており,病態生理に関連があることを示唆している。もう1つには,恐怖や不安の消去学習を,恐怖条件付けを用いた動物モデルから解説し,消去学習を促すためのcongnitive enhancer の可能性をD-cycloserine を代表例にして紹介する。
著者
高杉 潤 樋口 大介 杉山 聡 吉田 拓 松澤 大輔 沼田 憲治 村山 尊司 中澤 健 清水 栄司
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.124-125, 2011-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
12

触刺激される体肢の鏡像の観察によって誘発される体性感覚(referred sensation:RS)の有無や程度には個人差があることが知られている。しかしなぜ個人差が生じるのか調べた研究はなく,個人因子は明らかになっていない。本研究は,RS誘発には個人の持つ共感能力の高さが要因にあると仮説を立て,Empathizing Quotient(EQ)を用いてRSとの関係を明らかにすることを目的とした。23名の健常者を対象にRS誘発課題とEQ課題を実施した結果,EQおよびEQの細項目のひとつ,emotional reactivity(ER)の得点とRSの程度との間に正の相関が見られた。視覚―体性感覚の共感覚とERとの間に相関が見られるとするBanissyらの報告と今回の結果が合致することからも,RS誘発の個人因子のひとつとして,個々の共感能力の高さが関与していることが示唆された。
著者
坂本 昇 宮宗 秀伸 小宮山 政敏 菅田 陽太 森 千里 清水 栄司 松野 義晴
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-32, 2021 (Released:2021-10-08)
参考文献数
23

医師、歯科医師、パラメディカル(コ・メディカル)を含むすべての医療従事者にとって、人体の構造を学ぶ解剖学は重要な学問である。パラメディカルの学生にとって、解剖見学実習は人体構造を学ぶ上で有益であるが、一般的にはその機会は制限されている。ここで、物事に関する興味・関心は教育における重要な変数であり、例えば興味・関心と成績の間には正の相関があることが報告されている。本研究では、解剖見学実習に参加した看護師、鍼灸師、薬剤師、理学療法士・作業療法士、栄養士、救急救命士の各養成校の学生に対してアンケート調査を実施し、人体の解剖学的構造において特に興味・関心を有する部位の調査を行った。2013年7月から2016年3月の間に、千葉大学医学部において解剖見学実習に参加したパラメディカル学生878人を調査対象とした。解析結果は、1)特に学生にとって興味のある器官系は神経系(6領域全て)、循環器系(看護師、鍼灸師、薬剤師、栄養士、救急救命士)、消化器系(看護師、薬剤師、栄養士、救急救命士)、骨筋系(鍼灸師および理学療法士・作業療法士)であったこと、2)これらの器官系について、特に興味のある器官系構成要素は各専門領域間で異なっていたこと、3)神経系と循環器系は、看護領域の専門学校学生1年生と2年生の両方にとって、特に興味のある器官系であったこと、4)両器官系において特に興味のある器官系構成要素は1年生と2年生の間で異なり、しかしながら「脳」は神経系において両学年にとって特に興味のある器官系要素であったことを示した。これらの各パラメディカル領域における学生の興味・関心の違いは、今後、各領域の専門性に特化した解剖学の教育方法を構築していくにあたり、重要な知見となるものと思われる。
著者
杉本 元子 清水 栄司 SUGIMOTO Motoko 清水 栄司 シミズ エイジ SHIMIZU Eiji
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 = Chiba medical journal (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.199-208, 2015-10

【目的】学生などの若者を対象に,デート中の暴力(デートDV)の予防教育を行うための,約20分のe-ラーニング・コンテンツ「デートDV防止教育プログラム」を開発し,コンテンツ視聴前後のデートDVに関する知識の理解度質問票によって,その効果検証を行うことを本研究の目的とした。 【方法】18歳以上の大学生・専門学校生131名,平均年齢19.8歳を対象とし,研究内容の説明の後,書面での同意を得た。コンテンツ視聴前後に16項目のデートDV理解度質問票の回答を得た。使用したe-ラーニング・コンテンツは「デートDV防止教育プログラム」(約20分)である。コンテンツの内容は,第1章はデートDV・配偶者DVの基本知識,第2章はデートDVに巻き込まれた時の対応,第3章は,短いアサーティブネス・トレーニングの3章から成るフラッシュアニメ動画である。また,デートDV被害経験等の質問票の回答を封筒に入れて回収し,解析を行った。 【結果】16項目デートDV理解度質問票の総得点は,視聴前の21.85点から視聴後の25.73点と有意な上昇がみられた(P<0.001)。また,2種類以上の暴力を受けたと回答した者(デートDV被害者)21名(16.0%)に限定した解析によっても,視聴前後で同様に有意な上昇がみられた。 【考察】今回開発したe-ラーニング・コンテンツによって,視聴前後で有意な知識の向上をみた。今後,今回の予備的研究をさらに発展させるため,より多くの被験者を対象に,コンテンツ視聴者群と視聴無し群を設定し,2群に割り付けたランダム化比較試験を行っていく必要がある。また,我が国におけるデートDV被害状況を踏まえ,このコンテンツについて以下のWebサイトで自由に視聴してもらうことで普及を進めていく。 (https://www.stop-violence-chiba.jp./el/)