著者
西尾 千尋 工藤 和俊 佐々木 正人
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.73-83, 2018 (Released:2020-06-20)
参考文献数
30
被引用文献数
3

乳児が一歩目を踏み出すプロセスを明らかにするために,乳児3名について家庭で観察を行った。独立歩行開始から1ヶ月以内の自発的な歩行を対象に,歩き出す前の姿勢,手による姿勢制御の有無,一歩目のステップの種類,物の運搬の有無の4つの変数を用いて歩き出すプロセスを分析した。まず乳児ごとに歩き出すプロセスを分析したところ,立位から正面に足を踏み出すだけではなく,ツイストして一歩目から方向転換をする,物を拾い立ち上がりながら一歩目を踏み出すなど多様なプロセスが現れた。最も頻繁に用いたステップの種類はそれぞれ異なり,各乳児に特徴があった。さらに,それぞれの部屋において,乳児が歩き出した場所と歩き出しのプロセスの関係について検討したところ,歩き出す前に進行方向と同じ方向を向いているのかどうか,その際に姿勢を保持するのに利用出来る家具があるのかどうかにより足を踏み出す方法が制約されていることが示唆された。歩行という運動の発達を,個体とそれを取り巻く部屋という環境から成る一つのシステムに現れるタスクとして捉えられることについて考察した。
著者
西尾 千尋
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.35-50, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
53

近年,乳児の歩行の発達は,運動学的な観点からだけではなく,言語発達や社会的相互行為との関連に焦点を当てて研究されている.Adolph は,運動発達と行動の変化の関係について,新しい運動スキルを獲得することが,様々な心理的領域にまたがる発達的変化につながるという,発達のカスケードとして捉える見方を示した.本研究では,歩行を中心とした乳児の移動の運動発達研究を行ってきた Adolph の研究を概観し,研究のキーワードである,柔軟性と経験,変動性,日常の環境の観点から検討を行った.それらを踏まえ,移動の発達を生態学的な観点から研究することが,発達研究のこれからの展開にもたらす意義について考察した.
著者
西尾 千尋 青山 慶 佐々木 正人
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.151-166, 2015-03-01 (Released:2015-09-15)
参考文献数
21
被引用文献数
1

This longitudinal research examined an infant’s walking in the house for three months from the onset of walking, in order to describe where the behavior typically occurred. The beginning and end of locomotion were defined, and units of locomotion broken down into three aspects: 1. the posture at the beginning and the end of one unit, 2. locations where the locomotion began and concluded, and 3. paths of locomotion. The results for each of these aspects of locomotion were as follows, 1. Locomotion started from a sitting position in which the infant frequently touched the small objects coin-cided with carrying it at 80%. 2. From the erect position walking tended to commence in the surrounding area where the infant could hold on to items for support. 3.Loco-motion in one room was observed most frequently, though locomotion that crossed into other areas increased in the latter half of the three-month observation period. Travel diversified among areas that afforded the infant various activities, including passing through the area. However, some paths were frequently observed. These results sug-gest that the locomotion is conditioned by information of the surroundings, and the development of infant locomotion is characterized by the increasing connections to a variety of places in the house.
著者
野澤 光 山﨑 寛恵 西尾 千尋
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.145-148, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
6

本シンポジウムは,子どもの生活する住環境で生起するレイアウト変更過程から,環境の機能的に単位を記述する最新の実証研究を紹介するとともに,それらのレイアウト研究に,考古学の記述手法を導入する可能性を議論する.企画者の野澤は,狩猟採集民の住環境のレイアウトからヒトの行動パターンを復元したBinford(1983)の記述手法が,Reed(1996)の基本アフォーダンスという発想を補完するものであることを解説するとともに,その視点が現代の住環境を記述する際にも有効であることを示す.山﨑は,約一年間の保育室内の縦断的な静止画記録から,室内のモノの動き方のパターンを分類し,動的でありつつも同じ場所がそこに存在していることを報告する。西尾は,乳児を養育する家庭における,物の配置替えに焦点を当てる.特に,乳児による物の運搬や遊びの後に行われる,養育者の収集と片付けの場面に尺目し,どのような相互的な活動の流れの中で,片付けが起きるのかを検討する.