著者
謝 福台 金城 尚美
出版者
琉球大学
雑誌
留学生教育 : 琉球大学留学生センター紀要 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-59, 2005-03

本稿は,日本語学習者にとって習得が困難だとされる助詞の中でも特に「は」と「が」の使い分けに関する論考である。とりわけ,助詞があるという点で,日本語と統語論上,似た体系を持つとされる韓国語の母語話者と,日本語の文法体系とは異なり,格助詞や係助詞がない中国語の母語話者に調査を行い,「は」と「が」の誤用の分析を行った。その結果,「は」と「が」の使い分けについて中国語母語話者と韓国語母語話者を比較すると,韓国語母語話者は誤用率がかなり低いことが明らかになった。これは母語からの正の転移がかなり寄与していると推察される。しかし「は」や「が」が出現する条件によっては,誤用率が高くなることから,「は」と「が」の出現条件に関する知識が不足している部分もあることがわかった。一方,中国語話者にとって「は」と「が」の使い分けは誤用率がかなり高いことが示された。この結果から,中国語話者にとって「は」と「が」の使い分けは予想以上に複雑な言語処理を要求することが推察された。本研究によって,「は」と「が」使い分けに関する条件や規則など,指導に生かすべき点がいくつか明らかになった。
著者
金城 尚美 渡真利 聖子
出版者
九州地区国立大学間の連携事業に係る企画委員会リポジトリ部会
雑誌
九州地区国立大学教育系・文系研究論文集
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.No.11, 2016-03

国の施策による留学生の増加により、日本に来る留学生の背景が多様化している。また日本という異文化の環境におかれ心身に不調をきたす留学生も少なくない。そのため、より充実した支援が求められている。本稿では特に精神的な面で問題を抱える留学生についてどのようなサポートを行ったのか事例を報告し、指導教員の役割について考察した。その結果、留学生の個人情報の保護に配慮しつつ、関係教職員、専門家、友人を含めた関係者との連携と恊働によるサポート態勢の必要性が浮き彫りになった。さらに連携と協力、適切な支援のためには指導教員がキーパーソンとなり「つなぐ」という役割が重要であることがわかった。
著者
金城 尚美 加藤 清方
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、「危ない表現」の使用意識を調べることを目的として、国内および海外で調査を実施した。調査は、相手を罵倒したりののしったりするような11の場面、例えば、列に割り込んだ人に対してどう言って反応するか等を4コマ漫画で視覚的に明示し、台詞を挿入する自由記述形式で行った。また各場面で発話者が男性または女性の場合の視点を設定した。さらに大人と子ども、上司と部下、夫婦等、上下等の人間関係の設定にも変化を持たせた。調査票は、日本語、タイ語、中国語(中国本土・台湾)、韓国語6種類を作成し、日本(東京・沖縄等)、韓国、(釜山・ソウル・光州)、タイ(バンコク)、台湾(台北・台南)、中国(大連)の各国でデータを収集した。その結果、日本語と比べて韓国語、中国語、タイ語のデータは、異なる社会・文化的背景により、卑下する対象となる用語の異なりの分布や使用環境及び用語の豊富さなどが顕著であることなどが明らかとなった。今後、データのサンプル数を増やし、日本語と各国語をそれぞれの社会・文化的背景とのつながりを詳細に記述し、あぶない用語の社会言語学的かつ語用論的分析をさらに深化させることが必要である。
著者
金城 尚美 翁長 志保子 与那城 美帆 Kinjo Naomi Onaga Shihoko Yonashiro Miho
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.8, pp.37-53, 2011-03

本研究は,原因・理由を表す「ため」について,中級レベルの日本語学習者の使用実態を把握し,学習者の「ため」の運用上の困難点および指導上の問題点を明らかにすることを目的とする。まず中級日本語学習者の作文などから「ため」の使用頻度を調べた結果,「ため」の使用例が少ないことがわかった。次に原因・理由が含まれる文章を使ったテスト形式の調査を日本語学習者と日本人学生に実施した。その結果,日本人学生が「ため」の使用率が高い文章において,日本語学習者は「ため」の使用率が低い傾向がみられた。さらに,インタビュー調査を実施した結果,正答率の高い学習者は原因・理由を表す「ため」の使い分けを意識していることがわかった。また教科書を調べたところ,「ため」の教科書での提示の有無,提示位置や説明の仕方が学習者の「ため」の使用率の低さに影響を与えている可能性があることを示唆する結果が得られた。
著者
金城 尚美 Kinjo Naomi
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.7, pp.33-47, 2010-03
被引用文献数
1

日本人または日本人学生と留学生に教育的な交流の場を提供し,参加者相互の異文化理解を促進する教育実践がさまざまな形で行われているが,その意義と効果を明らかにする実証的な研究の蓄積は少ないことが指摘されている(岩井2006)。そこで本研究では,小学校で行った6年生(32名)と留学生(13人)の交流活動の事前と事後に調査を行い,小学生の留学生に対するイメージの変化と,異文化を受容する態度の変化を調査し検証した。その結果,留学生に対するイメージの変化と異文化受容態度の変化に統計的に有意な差が現れ異文化理解を目的とした教育の効果が示された。また留学生との交流前に手紙の交換,ビデオ・レターの交換,質問交換などの事前のやり取りを通し,小学生が留学生と交流することについて感じている不安を軽減することができ,交流活動がより円滑に進められることがわかった。この結果から,交流会前のやり取りの重要性が示唆された。The purpose of this study is to investigate educational effects of an intercultural exchange program between Japanese elementary school students and university foreign students. Thirty two elementary school students participated in this exchange program. They were asked to answer questionnaires before and after the exchange activities with foreign students. The results show statistically significant differences between the pre-questionnaire and the post-questionnaire. It is found that their initial image toward foreign students has changed to higher levels and their acceptance level of different cultures became higher than before the exchange. These results indicate that an intercultural exchange program contributes to intercultural understanding.