著者
田村 公子
出版者
琉球大学
雑誌
留学生教育 : 琉球大学留学生センター紀要 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.23-39, 2005-03

本稿では,宮沢賢治が「法華経」に帰依するきっかけとなったものは,島地大等著『漢和對照妙法蓮華經』であることを主張する。具体的には,以下のことを指摘する。(1)大等の「大乗起信論」講義と『漢和對照妙法蓮華經』の解説が,賢治を「法華経」に開眼させた。(2〜6節)(2)『漢和對照妙法蓮華經』の解説中の日蓮への言及が,賢治に日蓮への関心を抱かしめた。(8節)(3)その結果,「浄土門」への懐疑が生じ,日蓮の「唱題」を選ぶようになった。(7節)(4)大等と賢治の「大乗起信論」の理解の仕方に相違がある。(9節)
著者
長嶺 聖子 Nagamine Seiko
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.5, pp.19-33, 2008-03

韓国語と日本語は語順がほぼ同じで、文法も類似しており、中高年層の韓国語学習者も少なくない。中高年層の多くが好きな映画やドラマの内容を韓国語で知りたいと望んでいるようだが、筆者が教えている大多数の大学生も会話主体の韓国語の学習を強く希望している。ところで、韓国語には、格式体表現と非格式体表現があり、映画やドラマなどでは、後者の非格式体表現、つまり会話体の打ち解けた言い方である「パンマル」体が非常に多く使われている。しかし、最近日本の一部の著書において、この韓国語の「パンマル」と日本語の「ためロ」がまるで同一であるかのように扱われていることがよくある。本稿では、この安易な同一視から生じる誤解や混乱を避けるため、まず韓国語における「パンマル」の概念を明確にし、次に日本語の「ためロ」に関する一般的概念を、筆者が実施したアンケート調査を基に明らかにして、その基本的な違いを比較する。その上で、「パンマル」を含めた待遇表現の指導方法を提示する。The similarity between Korean and Japanese languages as seen in word order and grammar seems to prompt many Japanese persons of middle and advanced age to try to have quick access to Korean in a hope to appreciate their favorite Korean movies or T.V. programs. Also, almost all of my students in my college classes express their wish to study daily or conversational Korean language for the similar purposes. In fact, there are two types of expressions in Korean, formal and informal or conversational Korean. The latter is called the ban-mal style and it is the expression which is widely used in the movies or T.V. program. In Japan, however, some language books on Korean equate ban-mal to Japanese tame-guchi, or gangsters' jargons adopted by youngsters of certain groups in the 1970's. This paper aims at pointing out basic differences between ban-mal and tame-guchi in order to minimize confusions or misunderstandings caused by this unjustifiable identification.The writer conducted a questionnaire research to find out how widely tame-guchi is used or recognized in Japan. She then formulates a table of speech levels of Korean attitudinal expressions as an effective teaching aid for Japanese students.
著者
謝 福台 金城 尚美
出版者
琉球大学
雑誌
留学生教育 : 琉球大学留学生センター紀要 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.41-59, 2005-03

本稿は,日本語学習者にとって習得が困難だとされる助詞の中でも特に「は」と「が」の使い分けに関する論考である。とりわけ,助詞があるという点で,日本語と統語論上,似た体系を持つとされる韓国語の母語話者と,日本語の文法体系とは異なり,格助詞や係助詞がない中国語の母語話者に調査を行い,「は」と「が」の誤用の分析を行った。その結果,「は」と「が」の使い分けについて中国語母語話者と韓国語母語話者を比較すると,韓国語母語話者は誤用率がかなり低いことが明らかになった。これは母語からの正の転移がかなり寄与していると推察される。しかし「は」や「が」が出現する条件によっては,誤用率が高くなることから,「は」と「が」の出現条件に関する知識が不足している部分もあることがわかった。一方,中国語話者にとって「は」と「が」の使い分けは誤用率がかなり高いことが示された。この結果から,中国語話者にとって「は」と「が」の使い分けは予想以上に複雑な言語処理を要求することが推察された。本研究によって,「は」と「が」使い分けに関する条件や規則など,指導に生かすべき点がいくつか明らかになった。
著者
金城 克哉 Kinjo Katsuya
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.8, pp.19-35, 2011-03

本稿では大規模コーパスを用いて「~にくい」および「~づらい」の用法について調査を行い,考察を加えた。コーパスとして「Yahoo!知恵袋コーパス第一弾」(質間数:約300万,回答数:約1300万,期間:2004年4月-2005年10月)の中から,ベストアンサーの部分(期間:2004年5月-2005年4月)のデータ(約782万文,約550MB)を用いた。分析の結果,(1)「~にくい」と「~づらい」の出現数では前者が後者の5倍となっており,かなりの差が見られたこと, (2)出現数に偏りがあるにもかかわらず,存在動詞「居る」では逆に「居づらい」が「居にくい」の用例数を上回ったこと,また,従来指摘されていた「『~づらい』は無意志動詞とは結びつかず話し手自身に困難さの原因があることを示唆する」という用法に変化が見られることなどが明らかとなったが,これは近年「づらい」が多用される傾向にあるという指摘(国広2009,高島2007)を裏付ける証左となる。A research on the usages of Japanese tough constructions, "...nikui" and "...zurai" has been conducted utilizing a large corpus ("Yahoo! Chie-bukuro"). It has been discussed that "...zurai" expresses some difficulties originating in something except the experiencer him/herself. And it has been pointed out that the usage of "...zurai" is (gradually) expanding. This paper shows that the number of"...nikui" expression is five times as large as the number of "...zurai" expression, and that the"...zurai" expression is indeed used in where it could not be found out (i.e. in the cases where the difficulties are introduced by outer causes). The notable case is the verb of existence "iru"; the number of "izurai" cases (79) are far larger than "inikui" (5), and all the "izurai" cases demonstrate that the difficulty is triggered by outer causes (change of the situation).
著者
金城 尚美 翁長 志保子 与那城 美帆 Kinjo Naomi Onaga Shihoko Yonashiro Miho
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.8, pp.37-53, 2011-03

本研究は,原因・理由を表す「ため」について,中級レベルの日本語学習者の使用実態を把握し,学習者の「ため」の運用上の困難点および指導上の問題点を明らかにすることを目的とする。まず中級日本語学習者の作文などから「ため」の使用頻度を調べた結果,「ため」の使用例が少ないことがわかった。次に原因・理由が含まれる文章を使ったテスト形式の調査を日本語学習者と日本人学生に実施した。その結果,日本人学生が「ため」の使用率が高い文章において,日本語学習者は「ため」の使用率が低い傾向がみられた。さらに,インタビュー調査を実施した結果,正答率の高い学習者は原因・理由を表す「ため」の使い分けを意識していることがわかった。また教科書を調べたところ,「ため」の教科書での提示の有無,提示位置や説明の仕方が学習者の「ため」の使用率の低さに影響を与えている可能性があることを示唆する結果が得られた。
著者
葦原 恭子 Ashihara Kyoko
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.7, pp.17-32, 2010-03

動詞の「わかる」と「知る」は,「わかる」と「知る」が共に認識行為を表す類義語であり,その意味が重なり合う部分と重ならない部分の区別が複雑なことから,日本語学習者には使い分けが困難で,日本語教育の現場で,しばしば,指導上の問題となる。本稿では,日本語教育の現場で「わかる」と「知る」の使い分けを学習者にわかりやすく解説することを目的として,日常生活の中で実際に交わされた談話をデータとして収集し,その話し言葉資料の分析を通して,「わかる」と「知る」の使い分けについて考察し,二つの動詞が置き換え可能な場合と不可能な場合の使い分け,及びその意味分類を明らかにした。It has been one of the issues to be solved how to teach the similarities, and the differences between 'wakaru', and 'shiru in many of Japanese language classrooms. These two verbs are synonyms, and they both imply recognition. It is rather complicated for Japanese language learners to choose the right verb according to the context in daily conversation. The purpose of this paper is to describe how to use 'wakaru' , and 'shiru' for learners though analyzing actual discourse data collected in daily conversations. The collected data for this paper are up to 430, and they are classified into three groups. One appears in the situations that only 'wakaru' are used another appears in the situations that 'shiru' are used and the last one appears in the situations that both 'wakaru' and 'shiru' could be used The classification and the analysis done in this paper should be useful for Japanese language instructors to clarify the difference between 'wakaru' and 'shiru' in Japanese language classrooms, when they try to explain the difference to their learners. It also could be a great help for Japanese language learners to reduce their misapplications of these two verbs.
著者
金城 尚美 Kinjo Naomi
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.7, pp.33-47, 2010-03
被引用文献数
1

日本人または日本人学生と留学生に教育的な交流の場を提供し,参加者相互の異文化理解を促進する教育実践がさまざまな形で行われているが,その意義と効果を明らかにする実証的な研究の蓄積は少ないことが指摘されている(岩井2006)。そこで本研究では,小学校で行った6年生(32名)と留学生(13人)の交流活動の事前と事後に調査を行い,小学生の留学生に対するイメージの変化と,異文化を受容する態度の変化を調査し検証した。その結果,留学生に対するイメージの変化と異文化受容態度の変化に統計的に有意な差が現れ異文化理解を目的とした教育の効果が示された。また留学生との交流前に手紙の交換,ビデオ・レターの交換,質問交換などの事前のやり取りを通し,小学生が留学生と交流することについて感じている不安を軽減することができ,交流活動がより円滑に進められることがわかった。この結果から,交流会前のやり取りの重要性が示唆された。The purpose of this study is to investigate educational effects of an intercultural exchange program between Japanese elementary school students and university foreign students. Thirty two elementary school students participated in this exchange program. They were asked to answer questionnaires before and after the exchange activities with foreign students. The results show statistically significant differences between the pre-questionnaire and the post-questionnaire. It is found that their initial image toward foreign students has changed to higher levels and their acceptance level of different cultures became higher than before the exchange. These results indicate that an intercultural exchange program contributes to intercultural understanding.
著者
永野マドセン 泰子 山元 淑乃 楊 元 Nagano Madsen Yasuko Yamamoto Yoshino Yang Yuan
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 : 琉球大学留学生センター紀要 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.10, pp.17-34, 2013-03

中国語雲南方言の単一話者による日本語音声を分析し、その全体像を把握した。日本人が聞いて不自然でかつ学習効果が少ないと思われる問題点は「子音の強さ」、濁音が清音になる、および「ら行」の音であった。これらについては音響分析により日本人母語話者との差異を指摘した。母音については、狭母音と広母音の差が少ない中国語の特徴がそっくり日本語の母音のパターンに移されていることが観察された。これらの結果から、雲南方言でも北京方言同様、子音の問題が大きいことが明らかになった。Japanese speech sounds produced by a single Chinese speaker was analyzed. The results showed three areas that are most problematic: obstruents being too strong, voiced obstruent become voiceless, and the realization of /r/ is different. For these, spectrographic analyses showed the difference between a native Japanese speaker and the Chinese learner. The Chinese vowel formant pattern was nearly directly transferred to the Japanese vowel pattern and little effect of learning was observed.
著者
酒井 彩加 Sakai Ayaka
出版者
琉球大学留学生センター
雑誌
留学生教育 (ISSN:13488368)
巻号頁・発行日
no.5, pp.1-18[含 英語文要旨], 2008-03

「共感覚的比喩」の「一方向性仮説」(五感内の意味転用にみられる左から右への一方向性)は、これまで人間が生理学的に普遍であること等を論拠に、世界の言語共通に認められる「言語普遍性」の現象のひとつとされてきた。しかし研究が行われたのは英語と日本語のみであり、日本語の調査についても不十分なものである。従って、英語と日本語をはじめ他の言語についても本当に言語の違いを越えて共通に認められる現象であるのかどうか、十分に調査し検証する必要がある。酒井(2003)では、現代日本語における共感覚的比喩について多数の実例に基づき検証し、日本語においては比喩の一方向性が認められないという結論を得た。そこで本調査では、この酒井(2003)での結果を踏まえ、7つの言語(中国語、アラビア語、英語、スペイン語、韓国語、タガログ語、ロシア語)を対象とし「各言語の共感覚的比喩体系には、様々な多様性が認められる」という仮説を立て検証した。要点は、以下の5点にまとめられる。1.今回の調査で最も多く一方向性仮説に反する例が認められたのはタガログ語である。しかし、2番目に多い日本語、そして3,4番目の中国語、英語までは数値的に大きな差は無く、日本語だけでなく複数の言語においても多数の反例が存在することが明らかになった。2.「視覚→触覚」表現については、日本語と韓国語が7言語中、最も少ないのに対し、中国語においては多くの反例が存在する可能性がある。しかし「視覚→味覚」および「視覚→嗅覚」表現と比較すると、「視覚→触覚」表現は他の言語においても用例数が少ない可能性がある。3.「視覚→味覚」表現については、日本語が目立って多い。次いでタガログ語、英語、中国語にも比較的多くの反例が存在するが、スペイン語とアラビア語を除く他の言語においても、多くの反例が存在する可能性がある。4.「視覚→嗅覚」表現については、タガログ語および日本語に多く用例数が認められる。英語、中国語、アラビア語、ロシア語、韓国語にも用例が認められるが、スペイン語だけは極端に少ない可能性がある。5.7言語中、「うすい」「こい」「あわい」に相当する語においては、どの言語においても多数の転用例が認められる。一方、「あかるい」「くろい」「うつろな」「くうどうの」「ピンクの」といった語においては、今回の調査ではどの言語にも全く用例が認められなかった。本稿全体の結論として、日本語以外の7つの言語においても数多くの反例が認められる。従って、今後他の言語についてもさらに調査すべき必要性があることが確認できた。なお本調査は、今後予定されている20言語を対象とした言語調査に先立つ予備調査である。In the past research, "One direction hypothesis" of "Synesthesia metaphor" which has grounded the idea that "man is physiologic universal" has been assumed to be one of the phenomena of "Language universality". However, it is only English and Japanese that the research was conducted, and is the oneinsufficient as for the investigation of Japanese. Therefore, it is required to investigate whether it is a phenomenon that investigates other languages including English and Japanese, exceeds the difference of the language really, and is admitted together. Sakai(2003)verified a Synesthesia metaphor in present Japanese based on a lot of examples, and obtained the conclusion that one direction of the metaphor is not found in Japanese. Then, the hypothesis" Various diversitys are found in the Synesthesia metaphor system of each language" is set up and verified in the main enumeration based on the result in Sakai (2003) for seven languages (Chinese, Arabic, English, Spanish, Korean, Tagalog, and Russian). The conclusion obtained by this enumeration is as follows. 1. It is in Tagalog that many examples contradicting one direction hypothesis were found by this investigation. However, there was no big difference in Chinese and English, and it is clarified that a lot of counterexamples are found in not only Japanese but also two or more languages. 2. There is a possibility that many counterexamples exist in Chinese about "Sight→touch" expression while japanese and Korean, they are the present least in seven languages. However, "Sight→touch" expression has the possibility that the number of examples is small in other languages compared with "Sight→taste" and "Sight→smell" expression. 3. "Sight→taste" expression stands out japanese where it is abundant. Next, comparatively a lot of counterexamples exist also in Tagaiog,English and Chinese, and there is a possibility where a lot of counterexamples exist in other languages except Spanish and the Arabic 4. Many examples are found in Tagalog and japanese in "Sight→smell" expression. Only Spanish has extremely few possibilities though the examples are found in English, Chinese, the Arabic, Russian, and Korean. 5. There are many examples in words "thin" , "deep" , and "light" in any language. On the other hand, the example is not admitted in any language in this investigation in the words "bright" , "black" , 'blank", "hollow" , and "pink" at all. Many counterexamples are taken of the entire in seven languages other than Japanese. Therefore, it was confirmed that there is a necessity to further investigate other languages in future. The main enumeration is a preliminary research that precedes the language investigation intended for 20 languages scheduled.