著者
篠田 裕美 鐘ヶ江 靖史 岡本 拓也
出版者
科学技術・学術政策研究所
巻号頁・発行日
2014-12 (Released:2015-01-15)

大学院重点化で大学院学生が急激に増加する一方、日本の産業界における博士課程修了者の民間企業への登用が進んでいない。このような背景を受け、本調査研究は、大学院博士課程において専門分野の枠の中で研究活動に従事してきた人材が、産業界でのキャリア構築や活躍の機会を広げる上での示唆を得ることを目的として、民間企業に対して博士の採用と活用に対するインタビュー調査を実施した。製造業の研究開発部門を中心として民間企業19社を対象に、①企業が求める人材、②博士人材の能力に対する印象、③博士課程修了者の採用状況、④採用時に重視する点、⑤採用後の博士人材の待遇、に関してヒアリングし、取り纏めたものである。 本インタビュー調査より、博士人材が民間企業においてキャリアパスを形成するには、大学における学術研究と企業での研究開発との間に存在する目的の違いを理解した上で、変化を続ける社会の状況や顧客ニーズに応じて、自身の専門性や研究開発能力を応用できる柔軟性の獲得が重要であることが示唆される。また、博士に求められる能力の重きは、民間企業が置かれている状況により異なるものの、博士・修士を問わず、大学院生の質の低下が指摘されており、全体的な能力の底上げが望まれている。大学院での研究活動やキャリア支援等がもたらす人材育成効果は、論文数や被引用回数等の研究力評価指標だけでは推し量れないため、博士人材が身に付けた能力やスキルを可視化するための新たなインデックスの作成が求められる。The number of graduate students is rapidly increasing due to the government’s policy of prioritizing graduate education; however, fewer doctoral graduates are being hired by private companies in the Japanese public sector. Against this background, in this study we conducted interview surveys with private companies to obtain suggestions about the employment and use of doctoral graduates. The aim was to use these suggestions to help people who have been working within their research field so that they can develop their careers and expand their opportunities to operate in the public sector. We summarized the results of interviews with 19 private companies, centering on the research and development divisions of manufacturers, concerning the following questions: 1) the human resources that private companies are seeking, 2) their impressions of doctoral graduates’ abilities, 3) the recruitment status of doctoral graduates, 4) important points for employment of doctoral graduates, and 5) the labor conditions of doctoral graduates after employment. Our survey suggests that doctoral graduates should understand the difference between academic research in universities and industrial studies in private companies and gain flexibility in order to be able to apply their specialties and research and development skills to other fields depending on changeable situations in society and customer needs. Although the abilities of doctoral graduates that have received a graduate education vary in accordance with the status of private companies, graduate education is expected to raise the standard for all graduate students because there has been a decline in the qualities of both master and doctoral students. It is hard to assess the effects of human resource development through academic research activities and career support programs by using a research performance index such as the number of published papers and the number of citations per paper. Therefore a new indicator is required to visualize the skills and abilities acquired by doctoral graduates.
著者
鐘ヶ江 靖史 加藤 真紀 茶山 秀一
出版者
科学技術政策研究所 第1調査研究グループ
巻号頁・発行日
2012-06-25 (Released:2012-08-08)

本報告書では、2010年度に実施した「博士課程修了者の進路と就職活動に関する調査」を基に、我が国の博士課程修了者の就職活動の実態を分析した。この結果、博士課程進学時は回答者(全回答者から論文博士、社会人学生および留学生を除いた一般学生(1,537名)のうち、博士課程在籍中に就職活動を実施した1,055名)のおよそ3人に1人は、博士課程進学時には国外機関を就職候補先の1つとして考えており、日本国内の機関については半数以上の回答者が複数の機関種別(教育機関(大学等)、民間企業、公的研究機関)を就職候補先として考えていたことが示された。ただし、実際の就職活動において国外機関に応募した者の割合はおよそ8人に1人程度にとどまり、複数の国内機関種別に対して応募した割合についても4人に1人程度であることが明らかとなった。また、教育機関(大学等)と民間企業では就職活動時期が異なり、就職活動期間の時間的な負荷は就職活動先によって差があることが示された。
著者
加藤 真紀 鐘ヶ江 靖史 茶山 秀一
出版者
科学技術政策研究所 第1調査研究グループ
巻号頁・発行日
2012-03-08 (Released:2012-08-07)

本報告書では2010年度に実施した「博士課程修了者の進路と就職活動に関する調査」(有効回答数2,265人)を基に、我が国の博士課程修了者の大学院における修学と経済状況を分析した。この結果、国内学会に3回以上登壇した回答者の割合は8割近くであり、国外学会で1回以上発表した者は6割以上であることが示された。国外での研究経験がある回答者は2割であり、うち期間が1ヶ月以上である者が8割以上を占めた。分野別に見ると人文系や社会系は他分野よりも海外研究の期間が長い。一方、回答者のうち8割は国外研究をしておらず、この理由として必要性と時間の欠如を挙げている。また本調査回答者は米国の博士号取得者と比較して、大学院で学費を免除される人数比率が低く、最も多くの金額を利用した資金種別は自己資金である者が多い。また多くの回答者がTAやRAとして雇用されていたが、これで生活費や学費等を賄うには不十分な状況が示唆された。
著者
加藤 真紀 鐘ヶ江 靖史 茶山 秀一
出版者
科学技術政策研究所
巻号頁・発行日
2012-12-25 (Released:2012-12-25)

本報告書は、大学院博士課程での研究指導の実態や課題の把握を目的とし2011年度に59大学を対象に年2回実施した調査の結果を取りまとめたものである(回答者数2,636人、有効回答率21.9%)。まず組織的に複数の教員から博士論文作成の日常的な指導を受けた者は約7割であり、彼らは研究能力を身につけたと考える割合や、大学院における満足度が高いことが明らかとなった。次に、自然科学系では人文・社会系よりも指導教員が博士論文のテーマ決定に積極的に関わることが示された。博士論文のテーマ決定に学生が積極的に関わる場合に、研究能力を身につけたと考える割合が多く、論文テーマの決定に指導教員が積極的に関わる場合に、サービスとしての大学院の満足度を高く評価する学生の割合が多い。また大学院(修士・博士)の授業のうち履修して良かったと思う授業が6割以上を占めると回答した学生は3割以下に留まることが示された。