著者
松下 純子 武田 珠美 後藤 月江 遠藤 千鶴 高橋 啓子 有内 尚子 長尾 久美子 金丸 芳
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.23, pp.137, 2011

【目的】日本調理科学会特別研究「日本各地の調理文化の地域性」の一環として、「行事食」調査を行った。徳島県における行事食の認知、摂食、調理状況などを把握し食生活の現状を考察することを目的とした。<BR>【方法】対象は徳島県在住の大学生およびその保護者、一般人502名とし、留め置き法によりアンケート調査した。この中から、徳島に10年間以上在住の252名を集計対象とした。人日から大みそかまでの正月を除いた行事と春祭り、秋祭りを取り上げ、認知度、食経験、よく食される料理などを30歳未満、30歳~50歳未満、50歳以上の3年齢区分に分類してクロス集計し、カイ二乗検定を行った。<BR>【結果】行事食でどの年齢区分でも認知度の高いものは、上巳、端午の節句、土用の丑、クリスマス、大みそかで85%以上であった。その他、50歳以上では人日、春分の日、彼岸の中日などでも高い認知度を示した。逆に、どの年齢区分でも重陽の節句、春祭りは30%未満であり低い値であった。食経験は人日、上巳、端午の節句、七夕、土用の丑、盂蘭盆など、多くの行事で50歳以上が他の年齢区分に比較して高かった。月見、クリスマス以外の行事食では、年齢区分間に食経験で有意差が認められた。年代が高くなるにつれ食されていたものは、節分「いり豆」、春分の日と彼岸の中日の「ご飯・だんご」、端午の節句「ちまき、柏餅」、土用の丑「うなぎの蒲焼き」、月見「だんご」などであった。どの年齢区分でもよく食されていたものはクリスマスの「ケーキ」、大みそかの「年越しそば」であった。年末行事であるクリスマス、大みそかは認知度および食経験からも行事として定着していたが、季節ごとの行事は年代が低くなるほど希薄化していることが判明した。
著者
後藤 月江 三木 章江 川端 紗也花 高橋 啓子 坂井 真奈美 松下 純子 長尾 久美子 近藤 美樹 金丸 芳
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】伝統的な郷土料理は、生活に喜びを与え、家族や地域社会の絆を深めてきた。しかし近年、輸入食品の増加、食の外部化、核家族化により、郷土の料理を家庭で作る機会が減り、伝統的な地域の食文化が親から子へ伝承されにくい傾向にある。本研究では聞き取り調査により徳島県の日常または伝統的な行事で作られていた「おやつ」について報告する。<br />【方法】徳島県を県中央部、県西部、県南山間部、県南沿岸部、吉野川北岸の5地区に分け、聞き取り調査を実施した。今回は徳島県の家庭料理における各地域の「おやつ」について検討を行った。<br />【結果】全地域で食べられているのは「おへぎ・あられ」と「ういろ」、「干し芋」、「柏餅」であった。「おへぎ・あられ」は餅を搗いたときにおへぎ・あられ用に色粉やヨモギ、キビ粉などと砂糖を入れて作り、よく乾燥させて保存し食べられている。「ういろ」は米粉と餡を合わせて練り蒸して作る。4月3日の桃の節句(旧暦)の遊山箱には欠かせないおやつであった。「干し芋」は茹でて干したものと生の輪切りを干したものがあり、そのまま食べたり、小豆と一緒に煮た「いとこ煮」にして食べる。サルトリイバラの葉で挟んだ「柏餅」は、米粉の生地で餡を包んだ白い柏餅と餡を生地に練り込んだ柏餅がある。また、吉野川北岸や県中央部では小麦粉の生地で餡を包み、サルトリイバラの葉の上に乗せて蒸した団子が柏餅として食べられていて、その餡にはそら豆を用いていることが特徴的であった。また県南山間部では、「はんごろし」と呼ばれるおはぎ(蒸したもち米の粒が半分潰れるくらい搗くことに由来する)が親しまれており、餡はササゲのこし餡である。
著者
近藤(比江森) 美樹 新家 大輔 長尾 久美子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.71, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】シカ肉は、牛肉や豚肉に比べて低脂肪、鉄分やビタミンB群が豊富であり、栄養面で高い価値を有する食材である。そのため、近年深刻化する有害野獣問題の対策の一環として実施されている害獣駆除において、捕獲されたシカを食肉資源として有効利用する取り組みが行われている。一般に畜肉は、屠体を低温下で一定期間保存し、プロテアーゼ等の作用により保水性や旨味成分が増加して軟らかく美味しい肉質に変化した熟成肉として流通している。現在徳島県では、シカ肉は指定の加工所で解体後、3℃で2~3日の熟成後に真空包装して冷凍販売されているが、その熟成条件の設定は経験等によるものである。本研究では、熟成期間中の物理変化や旨味成分の挙動を解析することにより、シカ肉に適する熟成条件を検討した。【方法】徳島県で冬期に捕獲された野生のシカ(雌)、3頭を処理加工施設で屠殺後、直ちに左右のロースを採取した。ロースを約6 cm幅に分割して真空包装後、3℃で一定期間(0~24日間)熟成させた。熟成後、試料の重量変化、遠心保水性、クッキングロス、色調を測定した。さらに、一部の肉片を成分分析用の試料として-30℃で冷凍保存した。解凍してミンチ状にした試料から核酸関連化合物および遊離アミノ酸を抽出後、HPLC-PDAおよび自動アミノ酸分析装置により定量し、旨味成分の挙動を確認した。【結果】熟成11日目に遠心保水性の上昇とクッキングロスの低下が認められた。旨味成分の挙動では、核酸系の旨味成分である5’-イノシン酸は熟成初期に増大し、その後減少した。一方、アミノ酸系の旨味成分であるL-グルタミン酸は11日目以降に著しく増加した。これら理化学的性質および旨味成分の挙動を指標にシカ肉の熟成条件を検討した結果、真空包装下3℃で保存した場合、おおよそ11日間の熟成期間が必要であることが示唆された。本研究は、徳島文理大学「平成28年度 特色ある教育・研究(課題番号TBU2016-3-1)」の助成を受けて実施した。
著者
金丸 芳 遠藤 千鶴 高橋 啓子 松下 純子 後藤 月江 武田 珠美 長尾 久美子 有内 尚子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.24, 2012

【目的】前大会で、徳島県における行事食・儀礼食の認知と経験、料理の喫食の状況を年齢区分別で比較した。そこで今回、県を地形の特徴で4区分した地域の現状を比較した。 <br>【方法】調査は留め置き法で行い、10年以上徳島県在住者240名を、徳島市105名・北部(平野部)49名・西部(山間部)47名・南部(沿岸部)39名に4区分し、行事の認知と経験、料理の喫食についてクロス集計(有意差:&chi;<sup>2</sup>検定)をした。 <br>【結果】<u>徳島市は</u>人日の経験度、お節の黒豆・昆布巻・きんとん・魚料理、人日の七草粥、上巳の潮汁の喫食度が高く、百日祝の経験度は低いが、行事全体でみると高い傾向にあり、豊かさが伺えた。<u>北部は</u>土用の丑、百日祝、結納の経験度、お節の田作り・煮しめ・蒲鉾、上巳の潮汁、結納の各種料理の喫食度が高いが、お節の魚料理の喫食度は低かった。他地域より結納、土用の丑の行事を重んじている傾向があった。<u>南部は</u>クリスマスの経験度が高かった。一方、経験度の低い行事は、秋祭り、冬至、土用の丑、結納であり、喫食度の低い料理はお節の黒豆・田作り・昆布巻・きんとん・煮しめ、節分の鰯料理、上巳の潮汁、冬至の南瓜煮物、お七夜の尾頭付魚、初誕生の餅、葬儀の精進料理、結納の各種料理であった。漁業が盛んな沿岸部にも関わらず、魚料理の喫食が低かった。<u>西部は</u>秋祭り、冬至の経験度、節分の鰯料理、冬至の南瓜煮物、お七夜の尾頭付魚、初誕生の餅、葬儀の精進料理の喫食度が高く、人日、クリスマスの経験度、お節の蒲鉾・肉料理、人日の七草粥の喫食度は低かった。他地域では経験度・喫食度の低い行事が西部では高い傾向にあった。以上、地域間に有意差があり、重視する行事に特徴が認められた。&nbsp;
著者
金丸 芳 高橋 啓子 後藤 月江 三木 章江 長尾 久美子 近藤 美樹 松下 純子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2015

【目的】特別研究として次世代へ伝え継ぐ家庭料理について徳島県の聞き取り調査を実施してきた。2014年は寿司、餅菓子について報告した。今回は日常食としての家庭料理のうち<u>おかず</u>について報告する。 <br>【方法】聞き取り調査の地域区分は6地区(県南沿岸部、県南山間部、県中央部、県北部、吉野川北岸、県西部)とした。出現した料理からおかずに分類される料理について地域の特徴を明らかにした。 <br> 【結果】昭和30~40年頃のおかずは自家製の野菜やその地域で生産された食材を使用した料理が多く、各地域でよく出現した料理はれんぶ(でんぶ)、ならえ、干し芋の煮物であった。「れんぶ(でんぶ)」は金時豆や大豆と根菜類との煮物(地域によっては梅干しも)であり、昔は正月のお節料理であったが、近年では日常食として作られている。「ならえ」は精進料理の一品として作られたもので、根菜類や油揚げ、シイタケなどを煮て酢の物にした煮なますである。干し芋には生芋を干したものと茹で芋を薄く切って干した「ゆで干し」があり、どちらもよく食されていた。干し芋の煮物である「かんばの炊いたん」や「干し芋と小豆の煮物(いとこ煮)」は甘めの味付けで、おやつとしても食されていた。また、酢の物、煮物が多く出現し、お浸し、和え物も出現した。南部山間部では芋茎(ハスやズキガシ)の酢の物、たんぽぽのお浸し、クサギとジャガイモの炊き物も挙った。南部沿岸地域ではイタドリと生節や天ぷらとの煮物、サツマイモとネギの煮物があり、ハスと太刀魚の酢の物や鰯のぬたなど魚を使った料理も多い。吉野川北岸地域ではワラビやゼンマイなど山菜の煮物も見られた。この時代は野菜、芋を主材料とし、豆・豆加工品、魚を少々加えた料理が主であった。
著者
松下 純子 後藤 月江 金丸 芳 遠藤 千鶴 長尾 久美子 有内 尚子 高橋 啓子
出版者
The Japan Society of Cookery Science
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.42-48, 2014

日本の調理文化の地域性の特別研究のうち,平成21年から平成22年に「行事食・儀礼食」についてアンケート調査を行った。徳島県に10年以上在住する人を対象に,正月を除く年中行事について30歳未満,30歳以上50歳未満,50歳以上の年代区分に分類し検討した。人日,端午の節句,七夕,土用の丑,盂蘭盆,重陽の節句,春分の日,秋分の日,冬至,秋祭りでは,認知率および経験率の双方に年代区分で有意差がみられた。節分「巻き寿司・のり巻き」,土用の丑「うなぎの蒲焼き」は行事食としての喫食率が高かった。春分の日,秋分の日の「ご飯・だんご」,春祭り,秋祭りの「ご飯・すし」は,若い世代への伝承が薄れていることが推察された。全ての年代区分で年末のクリスマス,大みそかは行事として定着しており,「ケーキ」や「年越しそば」を多く食べていた。多くの行事食は以前には家庭で作ったが,現在は買う入手方法へ変化しており,特に50歳以上で顕著であった。