著者
濟渡 久美 三浦 春菜 石川 伸一
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.174, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】【目的】食品中の成分や調理により添加された調味料の濃度分布等は,風味や食感に影響を与える。しかし,食品中の成分や調味料等の濃度分布を可視化した研究は少ない。本研究では,ハイパースペクトルカメラとデジタルカメラを用いて,揚げ物における油や煮物における煮汁に関し,時間経過や保存温度の違いによる浸透程度の観察を行うことを目的とした。【方法】〈揚げ物〉実験試料として鶏ササミ,エビなど用い,脂溶性色素スダンⅣで染色した油で天ぷらを揚げた。揚げた試料は,冷蔵,常温,ホットショーケースで保存し,一定時間後に試料の中 心を包丁でカットし,断面をデジタルカメラで観察した。 〈煮物〉実験試料としてダイコン,コンニャクなどを用い,水溶性色素青色 1 号で着色した煮汁で煮物を作製した。沸騰してから 15分煮込んだ後,試料の中心を包丁でカット後,断面をデジタル カメラおよびハイパースペクトルカメラで観察した。また各試料を鍋ごと冷蔵,常温で保存後,試料の中心を包丁でカットし,断面をデジタルカメラおよびハイパースペクトルカメラで観察した。 【結果・考察】〈揚げ物〉すべての実験試料において油の浸透は衣までであった。揚げてから時間が経っても油は内部まで浸透しな かった。保存温度の違いは油の浸透に大きな影響を与えなかった。 〈煮物〉ハイパースペクトルカメラでの観察の結果,常温保存の 試料の方が冷蔵保存の試料より煮汁が浸透した。 食品中の成分の空間的配置や存在状態などを明らかにすること,テクスチャーや風味との関連性を交えて検討することにより,おいしさの物理的解明につながることが考えられる。
著者
柳内 志織 松本 美鈴
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.62, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】 天ぷら衣は、揚げ操作によって水分と油の交代が起こり、サクサクとした軽い食感になる。水よりも沸点の低いアルコールは、水分と油の交代を速やかにすることが期待される。本研究では、天ぷら衣に添加したアルコールが、揚げ衣の食感に及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】 <天ぷら衣の調製>薄力粉40gを、水、卵水およびアルコール水溶液(5、10、15,25v/v%)60gに篩い入れ、粉を水相に叩き落とすように菜箸で撹拌した。<揚げ衣の調製>紙片(2.5㎝角)を衣の中に潜らせ、180℃のサラダ油で2分間揚げ、測定に供した。官能評価用試料は、紙片の代わりに1cm角のじゃがいもを使用した。一般成分分析用試料は、衣をロートで直接油に滴下して3分間揚げた。<測定項目>紙片への衣付着量、揚げ衣重量、揚げ衣の破断試験(レオメーター)、官能評価(7段階尺度による評点法)、揚げ衣の水分量(常圧加熱乾燥法)・脂質量(酸分解法)、揚げ衣のアルコール残存量(F-キット)について測定した。【結果】 衣付着量および揚げ衣重量について有意差は見られなかった。揚げ衣の厚さはアルコール添加により増加し、破断応力はアルコール添加により減少した。揚げ衣の水分量は、15%および25%アルコール添加試料が水衣より有意に低かった。脂質量はアルコール添加にともない増加した。官能評価の結果、アルコール添加にともない衣は硬く砕けやすくなり、サクサク感が増すと判断された。これらの結果より、天ぷら衣にアルコールを添加することで、揚げ衣がサクサクとした歯脆い食感になることが明らかになった。また、10%および15%アルコール添加衣は、卵水衣より好ましいと評価された。
著者
加藤 和子 駒込 乃莉子 峯木 眞知子 森田 幸雄
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.23, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】米は、世界の二大食糧作物で、日本のみならずアジア諸国でも食べられている。近年、米の入手方法も多様化し、家庭における保存状況も様々である。米を安心で安全に喫食するための一助として、日本およびアジアの米の細菌汚染状況を調査した。【方法】日本の家庭米35(精白米29、無洗米6)、自家米14、市販米11の計60検体、および韓国6、タイ7、フィリピン8検体の市販米、計21検体について一般生菌、大腸菌群、大腸菌、食中毒菌(ウェルシュ菌、バチルス属菌)を定量検査した。大腸菌群、大腸菌、食中毒菌の同定は食品衛生検査指針に準じた。【結果および考察】生米の一般生菌の検出状況は、平均菌数(対数値/g)はタイ米が2.45±0.09と低く、日本の市販米は3.88±0.11と高かった。タイ米、フィリピン米は日本の家庭米である精白米・無洗米・自家米・市販米および韓国米の検体に比べて、一般生菌数は有意に低かった。大腸菌は韓国米1検体のみ検出された。大腸菌群は日本の無洗米1検体が3.82と高く、タイ米・フィリピン米からは検出されなかった。ウェルシュ菌は、いずれの検体からも検出されなかった。バチルス属菌の検出では、日本の無洗米6検体中2検体から検出され、陽性検体の平均菌数(対数値/g)は4.06±0.16と高く、タイ米(7検体中3検体が陽性)は2.54±0.14と低かった。日本の家庭米の精白米1検体、タイ米2検体、フィリピン米1検体の加熱検体から平均菌数(対数値/g)約2のバチルス属菌が検出された。陽性検体数は少ないものの加熱して喫食する米飯ではバチルス属菌による危害を防止することが必要であると思われた。
著者
森山 三千江
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.19, 2017 (Released:2017-08-31)

目的:クローン病は近年、その患者数が急増している炎症性腸疾患である。その原因は遺伝的要因、環境要因などのうち生活習慣、中でも日本の食生活の欧米化が大きく影響を与えると言われているが、現時点では原因不明の難病とされている。発症年齢は10歳代後半から20歳代に多く、男女別では2:1で男性に多い。クローン病の治療法として栄養療法から最終手段としては手術であるが、この病気は食事に対する免疫反応という説が有力であるため、特に重要なのは栄養療法だと考えられている。クローン病患者が食事療法や絶食時に精神的に辛い思いをすることが多いため、患者の食生活が精神面にどのように影響するのかを関係性を追跡し、より精神的が良好に過ごせる方法を模索することを目的とした。方法:クローン病患者28名を対象とし、手術歴に加えて質問項目として現在の症状、身体的要素、家庭生活及び社会生活の要素、精神的背景、家族及び交友関係、などの36項目について5段階評価で回答を得た。結果及び考察:回答者は男性17名、女性11名で14歳から54歳であった。食事制限として脂質の少ないもの、肉、ファストフード、食物繊維など消化の悪いものを避ける、外食をしないなどの回答が得られた。また辛いと感じることで腹痛、吐き気、下血や入退院の繰り返し、学校で何も食べられない、職場での理解が得られないことなどが挙げられた。さらに、鬱やパニック障害などで通院している者もおり、病気に対する不安を訴えるものが半数以上であった。こうした患者に対して家族や職場など周囲の理解が大きな支えが重要であり、さらには若年層の発症を抑えるような食生活を探求していくことも大きな課題と考えられる。
著者
木村 秀喜
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.170, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】減塩レシピコンクールに砂糖で魚をしめ、酒粕に漬け、南蛮漬け風にしたところ美味しい料理が出来た。そこで砂糖で締め、酒粕に漬けた魚と塩でしめた魚の嗜好差の有無について検討した。【方法】塩で締めた標準試料と砂糖で締めた試料を2点嗜好試験で官能評価を実施し、全員が終了後に円卓法により意見を聴取した。パネルは魚食による食育活動を行っているボランティア団体企画員(スタッフ)15人、試料に用いた魚種は身が均質な小型のアンコウを用いた。試料は15gとした。標準試料15個に対し4%重量の食塩を振りまぶし、砂糖締めは食塩0gで同量の砂糖を振りまぶした。各々15分間放置し、粕床にリードペーパーで挟み20分間漬けた。各々米粉をまぶし、少量の植物油でソテーした。冷めた状態のものを喫食し、質問紙でどちらが好みかのみを聞いた。粕床は酒粕400g、本みりん200gをビニール袋に入れ、良く揉み、42℃のお湯につけ10分放置後、再び良く揉んだ。全体がなじみ、温度が上がったところでとりだし、1晩常温で放置したものを2セット準備した。円卓法はどちらを選択したかを通知後、自由に討議した。【結果】標準試料を好んだパネルは8人、砂糖で締めたものは7人で、試料間に統計的に有意な差はなかった。(α=5%)円卓法では、締まり方が砂糖の方が良かった、塩分添加がなくとも食べることができるが塩分があればより美味しいなどの意見があった。魚を砂糖で締めて粕漬にすることは、減塩で美味しい料理になる可能性が示唆された。今後は砂糖締めと酒粕漬による魚肉の変化、魚種、ソテー以外の調理法など、広く検討したい。
著者
中澤 弥子 吉岡 由美 高崎 禎子 小木曽 加奈 小川 晶子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.224, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】長野県の家庭料理の特徴を探ることを目的として、おやつについて分析した。本発表では、長野県各地で大切に作り継がれている多様なおやつについて報告する。【方法】平成25~28年にかけて全県的な現地調査を実施した。調査方法は、主に聞き取り法で行い、可能な場合は、食材や料理、加工品の実物を撮影し、試食を行った。【結果】長野県では、農作業など共同で行う仕事の合間や日常、お茶の時間を設けて(「お茶にする」という。「まあ、お茶でも一杯・・・」から始まる)、主に日本茶におやつ(お茶請けと呼ぶことが多い)を多種類準備して、みんなで楽しく共食・休息する習慣が現在も残っている。「からっ茶を出す」(お茶請けを出さない)と恥ずかしいという文化があり、季節の漬物や煮物、煮豆、粉もの、果物のお茶請けがつきものである。お茶は注ぎ足し、注ぎ足し、何杯もお客に召し上がっていただく。 お茶請けとして地域の産物が生かされていた。漬物では、お葉漬には全県に分布する野沢菜漬をはじめ、地域の漬け菜も用いられており、その他、こしょう漬(信濃町)、すんき(木曽地方)など、他ではみられない加工法の漬物がある。以前に比べ作る量は減ったと話す人が多かったが、各種漬物が発達していた。粉ものでは、おやき(焼き餅)をはじめ、うすやき、にらせんべい、はりこしなど、煮豆では、ひたし豆、くらかけ豆、黒豆、紫花豆の煮豆、おなっとうなど、煮物ではかぼちゃのいとこ煮、大根引き、いなごの佃煮など、果物では、あんずのシロップ漬、かりんの砂糖漬、柚餅子、雲龍巻(柿巻)など、様々に工夫された季節を感じるお茶請けが、家族や近隣の人々、人寄せ(集まり)利用され、人々の交流を担っていた。
著者
関原 成妙 福留 奈美 早川 文代 品川 明
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.102, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】硬水では良いだしが取れないことは日本の料理界で常識とされる。うま味を含めた5つの基本味の感じ方は水の違いによってどのように変化するのか、本研究では5つの基本味の感じ方の違いを水の硬度の違いと関連づけてとらえることを目的とした。また五味識別テストを行う際の水溶液濃度を味質別に設定する必要性についても検討した。【方法】五味識別テストを市販の飲用水を用いて行うことを想定し、ボトルドウォーター3種(硬度が異なるミネラルウォーター2種と純水)を選んだ。ISO8586のパネリスト選抜基準および訓練テストの濃度を参考に予備実験を行い、甘味(ショ糖)、塩味(NaCl)、酸味(クエン酸)、苦味(無水カフェイン)、うま味(グルタミン酸ナトリウム)の水溶液の濃度を4段階に設定した。18-22歳の都内女子大学の学生24-29名を対象に2016年3-7月に3点識別試験法で官能評価を行った。水別、濃度別に有意差検定を行い、結果をもとに五味識別テストにおける水溶液濃度の設定についての検討を行った。【結果】識別できた人の割合は、うま味については硬度が高い水の方が高く、酸味については硬度が低い水の方が高い傾向が見られた。低濃度の水溶液では、うま味は純水で、酸味は硬度の高い水で有意差が出る傾向にあり、うま味と酸味の味質の感じやすさと水の硬度の違いに逆の傾向が見られた。甘味、塩味、苦味については水の硬度段階の違いによる一定の傾向は見られなかった。以上より、うま味と酸味の感じ方は特に低濃度で水の硬度の違いによる影響を受けるため、五味識別テストを行う際には、テストの目的に応じて呈味物質の濃度や水について十分に検討する必要があることが示唆された。
著者
三好 恵子 長田 早苗 竹中 眞紀子 三宅 紀子 小野 裕嗣
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.92, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】アクリルアミド(AA)は、食品を120℃以上で加熱したときにメイラード反応によって非意図的に生成する有害化学物質である。日本人では、高温加熱された野菜調理品(炒め・揚げ)からの摂取量が多いと推定されており、前報で野菜の炒め調理において各調理条件がAA生成に及ぼす影響を明らかにしている。一方、煮る調理ではAAは殆ど生成しないとされているが、120℃以上となる加圧を含め、加圧調理がAA生成に与える影響は明らかではない。そこで本研究では、野菜を加圧調理した時のAA生成についての知見及び低減対策の必要性の判断に資する知見を得ることを目的とした。【方法】前報炒め調理でAA生成量の高かった、ごぼう、れんこん、じゃがいもの水煮又は蒸し調理について検討を行った。また、カレー(ルウを加える前)の煮込みについても検討した。加圧調理に用いた圧力鍋は、A(146、80 kPaG)、B(140 kPaG)、C(95、70、45 kPaG)の3種であり、常圧条件として通常のステンレス鍋を用いた(n=4)。なお、146 kPaGの加圧条件では、5、2、0分間の加圧調理も実施した。調理終了後、調理品全体を混和してAA濃度を測定した(検出限界 2 μg/kg、定量下限 5 μg/kg)。【結果】各品目について、ほとんどの加圧条件でAA濃度は定量下限未満だった。なお、ごぼうとれんこんでは、146 kPaG、5分間以上の調理条件で、カレーでは146 kPaG 、10分間の調理条件で定量下限以上のAAが生成した(ごぼう:5~13 μg/kg、れんこん:7~30 μg/kg、カレー:6~8 μg/kg)。炒め調理時に比べAA濃度が極めて低いこと、野菜の加圧調理で推奨される標準時間は最高圧に達して2分程度であることを考慮すると、野菜の加圧調理について低減対策を検討する優先度は低いと考えられた。※農林水産省の委託研究事業を活用して本研究を実施した。
著者
笠井 美希 瀬尾 幹子 関 圭吾
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.56, 2017 (Released:2017-08-31)

【目 的】家庭における食用油を使用した加熱調理において、酸化しにくく、油臭さが少ないことが望まれている。ごま油は熱に強く、安定性に優れた油といわれており、本研究では、焙煎せずに搾油した精製ごま油(かどや製油㈱)の加熱調理における安定性の評価として、フライ調理に用いた際の安定性、おいしさ等について調べた。【方 法】試料は精製ごま油と家庭で一般的によく使われている食用油3種類(キャノーラ油、サラダ油、大豆油)とした。一定条件下でフライ試験を実施し、フライ油の色、酸価、過酸化物価、カルボニル価、アニシジン価を測定して安定性を比較した。また、フライ調理中の油臭及び揚げ直後と冷めた時のフライの官能評価を実施した。官能評価は7段階尺度の採点法で行った。なお、各試料のCDM試験、アクロレイン濃度の測定も行った。【結 果】精製ごま油は他の食用油3種類と比較して、フライ油の色の着色が若干濃くなる傾向がみられた。揚げ回数による酸価、過酸化物価の値には大差がなかった。油脂の加熱による劣化の指標であるカルボニル価、アニシジン価の値は精製ごま油が最も低値であり、加熱劣化の進行がゆるやかであった。フライ調理中の油臭は精製ごま油が最も弱く、不快感が少なかった。官能評価では、精製ごま油を使用したフライはべたつきが少なく、冷めてもおいしいという評価であった。CDM試験の結果より、精製ごま油は自動酸化に対する安定性も良く、アクロレイン濃度の測定結果からアクロレインの発生量も少ないことがわかった。
著者
平島 円 奥野 美咲 髙橋 亮 磯部 由香 西成 勝好
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.108, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】pHが13を越える強アルカリ性では,加熱せずに澱粉の糊化(アルカリ糊化)が起こる。しかし,こんにゃくや中華麺などの食品のpHはアルカリ糊化を起こすほど高くない。そこで本研究では,食品で扱われるアルカリ性のpHの範囲を考慮して糊化させた澱粉の老化に及ぼすpHの影響について検討した。【方法】澱粉にはタピオカ澱粉(松谷ゆり8,松谷化学工業(株))およびコーンスターチ(コーンスターチY,三和澱粉工業(株))を用い,その濃度は3.0,4.0および20wt%とした。また,澱粉の糊化はNa塩の影響を受けることから,アルカリの影響についてのみ検討できるよう,Sorensen緩衝液を用いてNa濃度を一定とし,pHを8.8–13.0に調整した。アルカリ無添加の澱粉をコントロール(約pH 6.5)とした。糊化させた試料を5oCで0-45日間保存した後,DSC測定,透過度測定と離水測定を用いて老化過程について検討した。【結果】タピオカ澱粉は老化しにくい澱粉のため,コンロトールを含め高pHに調整した試料すべてにおいて,本研究で用いた保存期間内では老化の進行はほとんどみられなかった。一方,コーンスターチにおいては,pHが高くなるほど,保存に伴うDSC測定から求めた老化率の変化は小さかった。また,澱粉糊液の透明度と離水率もpHが高いほど変化は少なく,pHを高くすると老化の進行がゆるやかになるとわかった。特に,食品で扱われるよりも高い12.6を超えるpHでは,澱粉糊液の透明度はほとんど変わらず,離水も起こらなかった。以上の結果より,食品にみられるアルカリ性の程度(pH12以下)では澱粉の老化は進行するが,コントロールよりも老化の進行はゆるやかになるとわかった。また,非常に高いpH(pH13程度)では,老化の進行が非常にゆるやかになるとわかった。
著者
古谷 彰子 大西 峰子 三星 沙織 米山 陽子 平尾 和子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.31, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】ワラビの根から抽出されるワラビ澱粉は、高価で保存性も悪い。わらび餅の調製に用いるわらび粉の市販品には安価な甘藷澱粉やクズ澱粉が混合されているもタピオカ澱粉を利用したものが多い。しかし、これらの澱粉は安価であるという利点はあるものの、ワラビ澱粉で調製した本わらび餅とは食味・食感がかなり異なっていた。本報告では、加工タピオカ澱粉を用いて、本わらび餅に近い食感のわらび餅の調製法を検討した。【方法】澱粉は、未加工タピオカ澱粉(NT)、リン酸架橋タピオカ澱粉(P)、Pの酵素処理澱粉(PE)、アセチルリン酸タピオカ澱粉(AP)、APの酵素処理澱粉(APE)の5種(グリコ栄養食品(株))とし、上白糖(三井製糖)と蒸留水を用いてわらび餅を調製した。加水量は各澱粉の水分量を求めて調整した。またシェッフェの単純格子計画法を用い、NTと2種の加工タピオカ澱粉(PE、APE)を3成分として配合割合の異なる9つの格子点を設定した。物性測定はクリープメータ((株)山電)、官能評価は本わらび餅を対照として、つり合い不完備型ブロック計画法を用いて行った。【結果】官能評価の嗜好では、PEとAPEを用いたものが総合評価の項目で有意に好まれたが、どちらも本わらび餅の食感とは異なっていた。そこで、シェッフェの単純格子計画法を用いて3種澱粉(NT、PEおよびAPE)の配合割合の影響を検討したところ、格子点⑦のNT:PE:APE=1:1:1の配合割合のわらび餅が本わらび餅に最も近い物性値を示した。官能評価の特性評価においても、弾力と口どけの項目で有意にあると評価された。嗜好においても、本わらび餅と同様に「好き」「非常に好き」と評価され、有意に好まれた。
著者
竹中 真紀子 三宅 紀子 三好 恵子 長田 早苗 小野 裕嗣
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.14, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】アクリルアミド(AA)は、食品を120℃以上で加熱したときにメイラード反応によって非意図的に生成する有害化学物質である。これまでに、炊飯時のAAの生成については、玄米や発芽玄米は精白米よりもAAを生成しやすいことなどが報告されているが炊飯条件による影響等の詳細は不明であった。そこで本研究では、玄米について加圧調理を含む様々な条件で炊飯し、炊飯後のAA濃度に関係する要因を見出すとともに、AAの低減に資する知見を得ることを目的とした。【方法】各種調理器具(圧力鍋(146、80、0 kPaG(常圧)の異なる加圧条件が可能、内鍋を使用可能)、炊飯器(マイコン式、IH加圧式)、土鍋)を用いて、4℃で16時間以上浸漬した玄米を炊飯した(n=4)。炊飯時に鍋内側底面および米(飯)中央部の温度を測定した。炊飯後、飯全体を攪拌し、一部を採取してAA濃度を測定した(検出限界 0.2 μg/kg、定量下限 0.5 μg/kg)。【結果】炊飯玄米中のAA濃度範囲は2~8 μg/kg、各種炊飯中の中央部の最高温度範囲は100~125℃であったが、AA濃度と最高温度の間に明確な相関は認められなかった。内鍋を使用した圧力鍋での炊飯を比較すると、加圧(146 kPaG)条件では常圧条件よりも炊飯玄米中のAA濃度が有意に高くなり、加圧による高温がAAの生成に与える影響が確認された。また、調理器具の種類や炊飯時の水量など、鍋肌でのおこげの出来やすさとも関連する複数の要因がAAの生成に少なからぬ影響を与えていることも示唆された。炊飯の際の加水量を増やすと、検討した全ての圧力条件においてAAの生成量は有意に減少したことから、玄米の炊飯でAA生成量を低減させるポイントとなりうることが示唆された。※農林水産省の委託研究事業を活用して本研究を実施した。
著者
小長谷 紀子 井門 知里
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.135, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】現代の食生活において食物繊維の摂取量を増加させることは大きな課題である。難消化性デキストリンは健康志向の高まりから多くの食品へ添加が試みられてきた。一方,寒天は食物繊維を豊富に含み,手軽に調理できる伝統的な食物繊維を多く含む食品である。そこで本研究では,難消化性デキストリンを寒天に添加し,通常の寒天ゲルと同様の特性を持つゲルを調製できるかどうかを確認することを目的とした。【方法】寒天に難消化性デキストリンを添加してゲルを作成し,寒天の調理特性におよぼす難消化性デキストリンの影響を評価した。このため難消化性デキストリン(松谷化学工業)を添加した0.6%寒天溶液および牛乳寒天(寒天濃度0.8%)を調製し,光の透過率(380-780nm),離漿率,破断応力を測定し,官能評価を行った。【結果】寒天溶液に難消化性デキストリンを最大で10%添加を試みた。その結果通常と同様の寒天ゲルができることを確認した。また難消化性デキストリンを添加することでより透明な寒天ゲルが生成した。そこで分光光度計で透過率を測定した結果,難消化性デキストリンを5%添加したものは,難消化性デキストリンを加えないものと比べて光の透過率が高く,ショ糖を10%添加したものと同等であった。一方,牛乳寒天においてショ糖(7%)と難消化性デキストリン5%添加したものは,ショ糖のみを含むものに比べ24時間後の離漿率が約70%減少した。すなわち,難消化性デキストリンを寒天に加えると,透明度が高く離漿の少ない寒天ゲルをつくることができる。
著者
秋山 久美子 山中 健太郎
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.111, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】リンゴのような丸い食材の皮を包丁で剥くという調理操作は、両手の動きを連動・協調させるような高度な運動スキルが必要である。そのため、その技術が巧である者から稚拙である者までの差が大きい。演者らは、丸むき技術の巧拙と包丁操作の関係を明らかにすることで、短時間でも効果的に調理技術を定着させるための要点を見出すことを目的として研究を行ってきた。昨年度の本大会で、包丁の角度、包丁の持ち方、包丁を持つ手の親指の動かし方が、丸むきの巧拙に関係していたことを報告した。本年度は、さらに筋肉活動に着目し、利き手の動きと、リンゴを支える手の動きの関係を明らかにすることを目的として研究を行った。【方法】栄養士養成学科の2年生80名を対象として、スクリーニング調査を実施した。その結果をもとに巧であるもの5名、稚拙であるもの5名を選び出した。それぞれの被験者にモーションキャプチャーの反射マーカーと筋電計を装着し、牛刀を用いてリンゴを丸のまま剥かせた。同時にビデオ撮影も行った。また、昨年度の研究結果をもとに剥き方の教習を行い、その教育効果についても検討を行った。【結果】リンゴの丸剥きが巧である者の腕の筋肉は、右手が包丁の刃を進めるために3~4回動いた後に、左手がリンゴを持ち帰るために1回動く。という、左右が連動したリズミカルな動きを見せていた。それに対して稚拙な者の筋肉活動は、不規則であった。昨年度の結果をもとに剥き方の教習を行った結果、リンゴの丸剥きの速度、完成度ともに効果がみられた。
著者
柴田 奈緒美 小倉 あい 高原 啓也
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.178, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】落し蓋は少ない煮汁で味を全体に早く染み込ませ,煮崩れを防ぐ為,煮物調理にて有用である。本研究は肉じゃがを例とし,各種落し蓋での肉じゃがの仕上がりに及ぼす影響を検討した。更に,より簡易的で本格的な調理方法として2枚のクッキングペーパーにかつお節を挟んだ落し蓋(かつおぶた)の有効性も検討したので,併せて報告する。【方法】じゃがいも300g(50.9±2.79g/個),人参40g(10.1±0.24g/個),玉ねぎ100g(串切り),豚バラ肉100g(幅30mm)を油で炒めた後,だし汁と落し蓋をした状態で23分間煮込み,肉じゃがを調理した。落し蓋はリードクッキングペーパー(ライオン㈱製,以後,リード),木蓋,アルミホイル,対照として落し蓋を用いず加熱した方法(以後,開放)の計4種とした。調理後,じゃがいもと煮汁中のグルタミン酸量,塩分量および人参の破断強度を測定した。また,2枚のリードの間にかつお節6.0gを挟んだ落し蓋(以後,かつおぶた)を用いて調理したものと,顆粒だしとリードを用いて調理したものを対象とし,官能試験を行った。【結果】木蓋をした人参は他の調理法と比較し有意に柔らかくなったが(p<0.05),最も煮崩れをしていた。一方,開放の人参が最も硬く,じゃがいもの上部と下部の部分による濃度差があった。リードを使用すると,木蓋より人参は有意に硬くなるが,煮崩れが抑制されると共に,じゃがいもに呈味成分が均一に浸透していた。官能試験では,肉じゃがの香り・味のしみ込みが,かつおぶたを用いた方が顆粒だしより良い評価を得た。よって,かつおぶたは,別途だしをとる手間が省け,落とし蓋の効果も果たすことから,調理時間の短縮化・簡便化と共に美味しさを担保した肉じゃがを調理可能なことが示唆された。
著者
綿貫 仁美 山﨑 薫 吉野 知子 建路 七織 山岸 美穂 林 一也 田宮 誠司
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.130, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】アントシアニン含有馬鈴しょ(有色馬鈴しょ)は, 色素に多くの有用な機能性が見出されているが, 調理の際に容易に分解し, 退色や変色をしてしまう。有色馬鈴しょを用いた調理後の色調は, 油調理では, 比較的色を保つことができるが, 水を介した調理で不安定となりやすい。そこで,有色馬鈴しょに対する水煮調理に用いる水の硬度差が, 有色馬鈴しょの色調にどのように影響するのか検討を行った。【方法】試料はキタムラサキ(KM), ノーザンルビー(NR), シャドークイーン(SQ)を用いた。5倍容の硫酸カルシウム(Ca)と硫酸マグネシウム(Mg)の混合溶液(Ca:Mgの重量比=2:1), およびそれぞれの単体溶液の各溶液に馬鈴しょ塊茎を4mm厚にスライスして投入, 加熱し, クリープメーターを用い加熱後の切片の最大荷重を測定した。また, 水煮処理後の切片の色調を色差計で測定し, L*, a*, b*値に示した。その後, 3%ギ酸を用いて切片より色素を抽出し, 抽出液の吸光度を測定し, アントシアニン残存率を比較した。【結果】水煮調理後の有色馬鈴しょ切片の最大荷重は, 3品種ともMg単体溶液ではいずれの硬度においても, Ca-Mg混合溶液の硬度0から硬度50と近似値を示した。一方でCa単体溶液では, 硬度が高いほど最大荷重が大きくなった。Ca-Mg混合溶液では, 硬度が高いほど最大荷重が増す傾向がみられ, Caの馬鈴しょ硬化作用が認められた。Ca-Mg混合溶液で, KM, NRでは硬度が高くなるに従いa*, b*値が小さくなる傾向があり, くすんだ色になっていった。SQでは, b*値が負に移動し, 青みが強くなった。アントシアニン残存率は, Ca-Mg混合溶液において, 3品種とも硬度が高くなるに従い, 残存率が減少する傾向を示した。硬化による切片の色素の溶出抑制には繋がらなかった。
著者
堀口 恵子 神戸 美恵子 永井 由美子 阿部 雅子 高橋 雅子 渡邊 静 綾部 園子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.220, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】日本調理科学会平成24~26年度特別研究で、群馬県各地域の家庭料理について、次世代へ伝え継ぐ資料として聞き書き調査を行い報告した。その後の追加調査や刊行資料調査も含め、群馬県の家庭料理のおやつの特徴について報告する。【方法】平成 25 年 10 月~27 年 2 月に群馬県内の8地域において,各地域 2 名以上(60 歳~80 歳代,居住年数 40 年以上)の調査対象者に対して面接調査を行った。面接は特別研究の方法に従い,調査の同意を得た上で,調査票に沿って対話したものを記録した。その後、嬬恋村において追加調査を行った。【結果】群馬県は,冬期の日照時間が長く、乾燥した気候で、水はけのよい土地であるため、小麦の生産に適し、平坦地では米と麦の二毛作が行われている。小麦粉はおっきりこみやうどんなど主食として食するほか、いろいろなおやつが作られている。中でもまんじゅう類は種類が多く、炭酸まんじゅう(ふかしまんじゅう)、ゆでまんじゅう、すまんじゅう、そばまんじゅう、焼きまんじゅうなどがある。焼きまんじゅうは、すまんじゅうを竹串に刺し、たれ(赤みそ、砂糖、水)をつけて香ばしく焼いたもので、祭りや縁日の屋台で売られ、群馬のソウルフードともいえるおやつである。また小麦粉に野菜などを入れた焼いた焼きもち(ふちたたかっしゃい、もろこしおべった)や、たらし焼、じり焼き、甘ねじなどもある。米粉を使ったものでは、あんぴんもち、草だんご、きびもち、すすり団子などのもちや団子も喜ばれた。また、いも類のおやつでは、さつまいもを蒸して干した乾燥いもや油焼き、里芋をゆでて串にさしたれをつけたいも串、じゃがいもでは、いも餅やいも串などがある。様々なおやつの工夫がみられる。
著者
栗 彩子 森 美紗希 宮内 莉華 谷口(山田) 亜樹子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.132, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】カレーはインドで生まれ、明治時代に日本に入ってきたと言われている。今日では日本の国民食とまで言われるようになり、各地域の名産品やその土地で取れる食材を使ったいろいろなカレーが食べられている。さらに近年、健康志向の高まりにより、カレーの栄養価値が見直され、その第3次機能に強い関心が寄せられている。しかしながら、カレーの利用方法といえば「カレーライス」というように、そのバリエーションには限りがあり、カレーに含まれるスパイスの種類や栄養価値もあまり知られていないのが現状である。そこで演者らは、カレーの基礎特性を明らかにし、健康効果・効能につて考え、さらに地場産の食材を用いた、簡単においしくできる新たなカレーレシピの考案を試みることとした。【方法】文献調査から、カレーの基礎特性を明らかにし、どのような健康効果・効能をもたらすのかを検討した。 新規料理については、市販カレー粉、神奈川県産のキャベツ、しらす、大豆、雑穀を用いて新たなカレー料理を考案し、調理した。また、栄養計算を行った。【結果】(1)カレーの基礎特性文献調査より、カレーには30種類以上の様々なパイスが存在することがわかった。中でも代表的なものとして、コリアンダー、クミン、フェヌグリーク、ターメリック、オレガノ、ペッパー、フェネル、ジンジャー、オニオン、カルダモンなど10種類のスパイスがカレーに用いられている。また、これらのスパイスについてさらに調査した結果、漢方薬として使われていたものが多く、肝臓・胃腸の働きを良くする、せき止め、疲労回復、殺菌作用、下痢止め、風邪・肥満・二日酔い・冷え性・肩凝り予防など様々な健康効果があることがわかった。(2)新規カレーレシピの紹介神奈川県産の食材を用いてカレー春雨、 カレー鍋、カレー雑穀リゾット、大豆カレーの4つのレシピを考案し調理した。
著者
高橋 ひとみ 柳沢 幸江
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.194, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】調理技能レベルの異なる熟達者と初心者の調理行動を分析し、技能、調理操作、調理の段取りの相違点を明らかにすること、また同じ料理を繰り返し作ることによって起こる調理行動の変化をとらえることを目的とした。さらに、熟達者と初心者の知識獲得の違いから考察を行った。【目的】対象者は、熟練者として栄養士免許等を持つ女性8名と初心者として調理経験が少ない女子大学生8名とし、豚肉のしょうが焼き(つけあわせ・せん切りキャベツ)、ほうれん草のお浸しの2品を2回調理した。調理行動は総移動距離、ゆで時間等の調理操作の時間を求め、できあがった料理の肉、ほうれん草の硬さやキャベツなどの形状を測定した。さらに、対象者に半構造的インタビューを行い、知識・意識の分析を行った。【結果】熟達者と初心者で有意差がみられた項目は、調理時間、レシピを見た時間、総移動距離、キャベツのせん切り時間、キャベツのせん切り太さ、ほうれん草のゆで時間、ほうれん草の硬さの項目であった。キャベツの太さは、熟達者では1回目、2回目調理でほとんど変化がないが、初心者は1回目4.67mm、2回目調理3.96 mmと有意に細くなった。初心者は「気づき」(メタ認知)が起こり、太さに変化が起きたが、せん切りの時間が長くなった者が多く、技能が身についたとは考え難い。お浸しのほうれん草も初心者は、軟らかいという「気づき」はあったものの、ゆで時間など調理操作の変更し、硬さを変えることはなかった。また、調理操作を12ブロックの段取りにまとめ分析した。熟達者は1回目、2回目調理でほとんど変化がなかった。初心者は1回目調理の段取りはレシピに記載の順で行った者が多かったが、2回目調理では、より効率的で、料理がおいしく仕上がる熟達者の段取りに近づいていった。
著者
近藤(比江森) 美樹 新家 大輔 長尾 久美子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成29年度大会(一社)日本調理科学会
巻号頁・発行日
pp.71, 2017 (Released:2017-08-31)

【目的】シカ肉は、牛肉や豚肉に比べて低脂肪、鉄分やビタミンB群が豊富であり、栄養面で高い価値を有する食材である。そのため、近年深刻化する有害野獣問題の対策の一環として実施されている害獣駆除において、捕獲されたシカを食肉資源として有効利用する取り組みが行われている。一般に畜肉は、屠体を低温下で一定期間保存し、プロテアーゼ等の作用により保水性や旨味成分が増加して軟らかく美味しい肉質に変化した熟成肉として流通している。現在徳島県では、シカ肉は指定の加工所で解体後、3℃で2~3日の熟成後に真空包装して冷凍販売されているが、その熟成条件の設定は経験等によるものである。本研究では、熟成期間中の物理変化や旨味成分の挙動を解析することにより、シカ肉に適する熟成条件を検討した。【方法】徳島県で冬期に捕獲された野生のシカ(雌)、3頭を処理加工施設で屠殺後、直ちに左右のロースを採取した。ロースを約6 cm幅に分割して真空包装後、3℃で一定期間(0~24日間)熟成させた。熟成後、試料の重量変化、遠心保水性、クッキングロス、色調を測定した。さらに、一部の肉片を成分分析用の試料として-30℃で冷凍保存した。解凍してミンチ状にした試料から核酸関連化合物および遊離アミノ酸を抽出後、HPLC-PDAおよび自動アミノ酸分析装置により定量し、旨味成分の挙動を確認した。【結果】熟成11日目に遠心保水性の上昇とクッキングロスの低下が認められた。旨味成分の挙動では、核酸系の旨味成分である5’-イノシン酸は熟成初期に増大し、その後減少した。一方、アミノ酸系の旨味成分であるL-グルタミン酸は11日目以降に著しく増加した。これら理化学的性質および旨味成分の挙動を指標にシカ肉の熟成条件を検討した結果、真空包装下3℃で保存した場合、おおよそ11日間の熟成期間が必要であることが示唆された。本研究は、徳島文理大学「平成28年度 特色ある教育・研究(課題番号TBU2016-3-1)」の助成を受けて実施した。