著者
長尾 充徳 釜鳴 宏枝 山本 裕己 高井 進 田中 正之
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
pp.30.017, (Released:2014-09-08)
参考文献数
14
被引用文献数
4 1

The purpose of this paper is to describe the early introduction protocols in a hand-reared Gorilla infant (Gorilla gorilla) that was introduced to biological parents at Kyoto City Zoo. The introduction process was initiated when the infant was one year old. In Dec. 21, 2011, an infant gorilla was born at Kyoto City Zoo. The infant is the first one who has captive-born parents, and the fourth generation of gorillas in Japan. The mother successfully held the infant, but could not give her milk enough to feed the infant. The baby showed dehydration and weakened. For the purpose of saving its life, we separated the infant from the mother and began to rear it. To avoid harmful influence of hand-rearing, we planned to reintroduce the hand-reared infant to its parents on the basis of successful cases in European and American zoos. We separated the processes of reintroduction into five steps, each of which had no time-limit, but totaled one, or one and half years. We started to show the infant to the parents when the infant was two months old. In the beginning, each of the parents showed a gentle attitude, and then started to directly contact with their infant. Habituation with the physical environment and the parents was going smoothly under careful observation. We returned the infant to its mother successfully at 10.5 months of age. Then, in its 11.5 months of age, we reintroduced the mother and the infant to the adult male (i.e., the father of the infant). Finally, the parents and the infant live together peacefully now. We thought of the processes of reintroduction and found one of the most important factors was that separation was attributed by not giving up nursing, but insufficiency of milk. Another factor may be that separation period was short enough to induce a sense of responsibility as a mother.
著者
田中 正之 松永 雅之 長尾 充徳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第25回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.91, 2009 (Released:2010-06-17)

食べた物を吐き戻し,その吐しゃ物を再び食べるという吐き戻し行動は飼育下のゴリラでよく見られる異常行動の一種である。京都市動物園に飼育されているニシゴリラ1個体(ゲンキ,女,観察開始時22歳)も,幼時から常習的に給餌後の吐き戻し行動が見られていた。 本研究では,屋内での夕食給餌時に見られた吐き戻し行動を観察,記録し,吐き戻しの様態を分析した。観察は屋内居室に入ってからの45分間おこない,この間に起こった吐き戻しについて入室してからの経過時間を記録した。30日間分の記録を分析した結果,1日あたりの平均吐き戻し回数は23回であり,観察時間の間中,約1分間隔で吐き戻してはその吐しゃ物を食べるという行動を繰り返した。 吐き戻しの過程を観察したところ,やわらかく水分の多い果物や葉もの野菜などを一気に食べては吐き戻す一方で,水分の少ないイモやカシの葉を食べると吐こうとして失敗する場合が見られた。一度吐いた後は吐しゃ物を再び食べてはまた吐くという行為を繰り返した。対策として給餌品目の変更を試みた。 水分が多く,量も多かった白菜を草食獣用の青草やクローバーに変更して与えたところ,青草やクローバーを食べた後の吐き戻しはほとんど見られなくなった。これに加えて,居室に藁を入れ,給餌食物を藁の中に混ぜ込んで採食時間の延長を試みた結果,夕食時の吐き戻しはほとんど消失した。 吐き戻し防止の対策としては,居室内に藁を敷くことで防止効果があることは先行研究で報告されていたが,今回の試みにより,吐きにくい食物を与えることも効果的であることがわかった。給餌品目に青草などを導入することで吐き戻しを防止する試みは,日本モンキーセンターでもおこなわれており,その効果が報告されている。吐き戻し防止の有効な方法のひとつとして考えられる。 今後は,屋内だけでなく,屋外運動場でもおこなわれている吐き戻しにも対策を検討したい。
著者
田中 正之 伊藤 二三夫 佐々木 智子 長尾 充徳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.30, pp.73-73, 2014

現在,日本国内で飼育されているゴリラの人口は,わずか25人である。過去50年以上にわたる飼育の歴史の中で,日本では死産を含めてもわずか14人しか子どもが生まれていないことからも明らかなように,繁殖の失敗が主な原因である。しかし,最近5年間で見ると,5人の赤ん坊が生まれており,改善傾向にある。京都市動物園ではこれまでに,独自に物理的および社会的面からゴリラの飼育環境の改善に取り組んできた。屋外運動場ではゴリラが食べても遊んでも,つぶしてもよいような条件下で多種・多数の植物を植え,生育させてきた。2008年に京都大学との間で野生動物保全に関する連携協定を結んでからは,ゴリラの健康管理の取り組みとして,心音を記録・分析するなどしてきた。<br>ニシゴリラについてより深く理解するために,2010年には京都大学の山極寿一教授の協力を得て,飼育担当者がガボン共和国の国立公園を訪ね,野生ニシローランドゴリラの生態とその生息地の植生を観察する機会を得た。そこで見た野生のゴリラは,日中の多くの時間を樹上で過ごしており,これまでの動物園におけるゴリラ展示方法との違いを痛感した。京都市動物園では新しいゴリラの飼育施設「ゴリラのおうち~樹林のすみか~」を造るにあたり,屋外・屋内に樹上空間を模した複雑な3次元構築物を設けた。来園者は,野生のゴリラのように頭上の空間を移動するゴリラを見ることができる。さらに,屋内には比較認知科学研究のためのタッチモニターを設置した勉強部屋も用意された。来園者はチンパンジー同様にゴリラの知性の展示を見ることもできる。新しい施設は本年4月27日にオープンする。発表では,新施設におけるゴリラの環境利用状況も報告する。