著者
西本 雄飛 和田 一佐 岡田 智彰 稲垣 克記 渡邊 幹彦
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.48-54, 2018

野球肘の診断には臨床上,理学的所見と共に画像診断が重要であるが,MRIなどの定性的な評価が中心で靭帯の弾性などを定量的に評価した方法は少ない.近年,超音波技術の進歩により組織の質的評価も可能になっている.その一つが超音波エラストグラフィーであり乳腺領域や甲状腺領域で臨床応用されている.運動器領域では腓腹筋筋挫傷,アキレス腱,烏口肩峰靭帯などが評価されている.今回,その技術を応用し,野球肘と診断された野球選手において,肘内側側副靭帯(以下MCL)の弾性を定量化することによって,損傷の程度や罹病期間などとの関係を調査し,復帰までの指標になる可能性があるか検討を行った.投球時に肘内側部痛を訴え,野球肘と診断された24名(平均年齢16歳)の野球選手を対象とした.方法は,超音波診断装置を使用し,探触子(L64)に定量化用音響カプラを装着,Real-time Tissue Elastographyにて測定を行った.計測肢位はGravity test に準じて前腕の自重を掛け,仰臥位,肩関節外転90°,肘関節屈曲30°最大回外位とした.適切な圧迫深度で周期的に端子を肘内側に圧迫させ,測定画像から得られたカプラの歪み値を対象組織(MCL)の歪み値で除したstrain ratio(以下SR)を算出し,5つの値のうち中央3値の平均値をSR値と定義し弾性を評価した.SR値は患側3.11±1.13,健側2.48±0.79と有意差を認めた(p=0.03).これらを骨片の有無で検討すると,裂離骨片あり群(n=9)では,SR値は患側3.86±0.73,健側2.61±0.91と有意差を認めた(p=0.006).裂離骨片なし群(n=15)では患側2.66±1.10は健側2.40±0.72と有意差を認めなかった(p=0.45).裂離骨片なし群で発症後1か月未満とそれ以降で比べると1か月未満は患側と健側で有意差はなく,それ以降も有意差は認めなかったが,患側のみで比べると,発症後1か月未満と1か月以上で有意差を認めた.損傷靭帯は弾性が上昇しSR値は低値になると仮説をたてたが,結果は患側で健側より高く,損傷した靭帯は弾性が低下していると言える.裂離骨片なし群では健患側に差はなく損傷の有無によって弾性に違いはないと思われたが,裂離骨片あり群で患側SR値が有意に高く,裂離骨片の有無が靭帯の弾性に影響していた.また,発症後1か月未満の患側SR値と1か月以上の患側SR値を比較すると前者で有意に低値を示した.靭帯の弾性は損傷の時期に変化しており,急性期は弾性が上昇し,亜急性期〜慢性期は弾性が低下している可能性がある.また,裂離骨片を伴うMCL損傷の野球肘では,靭帯の弾性低下が顕著であった.今後,肘MCL損傷の修復の過程をより正確に超音波エラストグラフィーで捉えることができるようになれば,肘MCL損傷の評価にさらに有用になると考えられる.野球肘の肘MCLは急性期で弾性が上昇し,亜急性期〜慢性期になると低下していた.裂離骨片があると著明に肘MCLの弾性は低下していた.
著者
安藤 久美子 長尾 啓子 川島 敏生 渡邊 幹彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.462, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】我々は投球障害肩の治療において野球肘の既往を認める者を多く経験し、肘関節の可動域(以下ROM)制限が肩の運動に影響を与えている可能性があると考えた。そこで上肢回旋ROMを測定する方法を考案し、肘関節や手関節などの固定が上肢のROMに影響を与えることを報告してきた。今回、投球障害肩の選手の上肢回旋ROMを測定し健常群と比較検討したので報告する。【対象】健常肩群(以下N群)健常な上肢を有する者22名。男性10名女性12名。平均年齢は25.0歳。投球障害肩群(以下Ab群)当院を受診し、投球障害肩と診断された野球選手。男性9名。平均年齢19.5歳であった。【方法】測定は各被験者1回、肘関節伸展位で上肢を矢状面・前額面で両上肢挙上させ、挙上角度0°60°120°における上肢の回旋運動を最大努力にて行い、前腕回内外運動器(YAESU社HKY式)を用いて測定した。これを以下の4条件で行い、_丸1_固定なし:Free_丸2_手関節固定:Wrist_丸3_前腕回内位固定:P -elbow_丸4_前腕回外位固定:S-elbow。各条件でのAb群とN群の平均値を比較検討した。【結果】(1)上肢回旋ROM(屈曲挙上角度:N群/Ab群)Free(0:360/320)(60:340/300)(120:310/280)Wrist(0:320/300)(60:310/290)(120:290/270)P-elbow(0:250/230)(60:250/230)(120:240/220)S-elbow(0:230/240)(60:230/250)(120:220/220)(2)上肢回旋ROM(外転挙上角度:N群/Ab群)Free(0:360/310)(60:370/320)(120:320/290)Wrist(0:320/300)(60:350/220)(120:300/270)P-elbow(0:250/220)(60:290/260)(120:260/210)S-elbow(0:230/240)(60:260/250)(120:230/220)であった。Ab群の回旋ROMはN群と比較してS‐elbow以外では前額面、矢状面ともに可動域が低かった。S‐elbowではAb群とN群に大きな差は認めず、矢状面上では逆転していた。【考察】上肢の回旋運動は肩甲胸郭節と肩関節と前腕の複合運動である。今回の実験よりAb群は上肢の回旋可動域の低下が認められた。しかし、前腕回外位固定では正常群と大きな差は認められなかった。これはAb群が前腕回外位で固定された状態に近く、前腕の回内位に入らないのを肩関節内旋で代償していると考えられ、こうした動きの制限が可動域減少の1つの要因と考えられた。投球障害肩の発症の1つの要因に前腕の回内外制限を肩関節内外旋で過度に代償した結果が推測された。