著者
井原 賢 長江 真樹 田中 宏明 征矢野 清
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、培養細胞試験で発現させるトランスポーターを従来のヒト遺伝子ではなく魚遺伝子を用いた培養細胞試験を開発した。具体的には、データベース上でメダカおよびゼブラフィッシュのセロトニントランスポーター(SERT)遺伝子の塩基配列情報を入手し、その遺伝子を発現するプラスミドを市販のサービスによって合成した。そして、抗うつ薬の標準物質を用いて試験することで、魚SERT遺伝子の抗うつ薬に対する反応性を体系的に明らかにすることに世界で初めて成功した。興味深いことに、魚SERT遺伝子はヒトSERT遺伝子よりも抗うつ薬で強く阻害されることが明らかとなった。具体的には、50%阻害濃度(IC50)で比較した場合、魚SERTのIC50値はヒトSERTのIC50値に比べて、数倍~数十倍低い結果が得られた。つまり魚SERTはより低濃度の抗うつ薬で阻害を受けることを意味する。この情報は、抗うつ薬やGPCR標的薬が魚等の水生生物に与える影響を評価する上で極めて重要な情報を提供してくれる。メダカSERTとゼブラフィッシュSERTの間でも、IC50値に違いが検出された。同じ魚であっても種によって抗うつ薬に対する反応が異なることが予測される。下水処理水に対しても抗うつ薬アッセイを行った。魚SERT遺伝子を用いた場合でも、ヒトSERT遺伝子を用いた場合と同様に、抗うつ薬活性が検出されることを確認した。セルトラリンを用いてミナミメダカに曝露し、通常時の行動をビデオ観察することで行動異常の検証を開始した。
著者
征矢野 清 中村 將 長江 真樹 玄 浩一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

カンモンハタは月周期と完全に同調した成熟産卵サイクルを持ち、満月大潮直後に生息場である珊瑚礁池から外洋へ移動して産卵する。このような月周期の影響を受けた生殖腺の生理変化及び産卵のための行動は、多くの水生生物で観察されているが、その詳細は明らかにされていない。本研究では、月周期と同調したカンモンハタの成熟・産卵のメカニズムを解明する事を目的に、これまで観察を続けてきた沖縄県本部町瀬底島のフィールドと西表島のフィールドを利用して、本種の成熟過程を産卵場への移動及び産卵行動と関連づけて調べることとした。本研究により得られた主な成果は以下の通りである。1)沖縄県南部の西表島と北部の瀬底島に生息するカンモンハタの生殖特性を比較したところ、本種は共通して月周産卵をすることが確認されたが、成熟サイズ・性転換時期・産卵回数が両地域で異なることがわかった。2)生殖腺刺激ホルモン遺伝子(FSHβとLHβ)の発現を測定するリアルタイムPCR法を確立し、脳下垂体における両遺伝子の測定を可能とした。その結果、LHが本種の生殖腺発達に深く関わることが分かった。3)バイオテレメトリー法により満月大潮前後の産卵関連行動を沖縄県瀬底島と西表島のフィールドを用いて観察したところ、いずれの地域でも産卵に適した場所に移動することが分かった。また、この移動は産卵期にのみ起こることが分かった。4)飼育環境下の個体を用いて月周期と同調した卵成熟の過程を観察し、成熟のタイミングを明らかにすることができた。本研究の成果はカンモンハタの生殖腺発達を理解するだけでなく、種苗生産対象魚として注目されている他のハタ科魚類の生殖腺発達を理解する上でも貴重な情報となる。また、南方系海産魚に多く見られる月周産卵の機構解明にも役立つことが期待される。