著者
中村 將 北野 健 野津 了 加賀谷 玲夢
出版者
一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

高水温飼育により不妊化したナイルティラピアの性行動を調べた。30日齢の幼魚を高水温飼育(37℃,50日間)した後25カ月齢まで飼育し供試魚とした。高水温飼育オス3尾と正常なメス5尾を一群として大型水槽に入れ、5日にわたって性行動を観察した。その結果、同じ実験を8回行なったうち6回で繁殖行動が観察された。正常オスを用いた対照実験においても同様な結果が得られた。実験に用いた高水温飼育した全てのオスの精巣は透明色で、組織学的な観察においても精子は認められなかった。以上のことから、高水温飼育オスは、処理後少なくとも25カ月にわたって不妊化が維持され、メスに対して正常な性行動を行なうことが明らかとなった。高水温飼育により不妊化したモザンビークティラピアのメスの長期飼育による生殖特性について調べた。ふ化後10日の幼魚を高水温飼育(37℃、56日間)した後約21カ月齢まで成長させた。高水温飼育メスは婚姻色を示さず、泌尿生殖突起も未発達で外見的に明らかに正常成熟メスと異なっていた。卵巣は著しく小さく糸状で卵は確認出来なかった。組織観察でも生殖細胞は全くみとめられなかったが、卵巣の特徴である卵巣腔が認められた。ステロイド代謝酵素の抗体による免疫染色では強い陽性反応を示す少数の細胞が確認された。血中の性ホルモンも正常成熟メスと比べても著しく低かった。このことから、不妊化メスはオスと異なり長期に渡り性的成熟が起こらないことが明らかとなった。メダカの生殖細胞増殖におけるHSPの役割を明らかにするため、hsp70.1過剰発現メダカ系統を作製して生殖細胞の増殖状況を調べた。その結果、孵化時期におけるこの系統の生殖細胞数は、野生型個体と比較して、雌雄ともに有意差は認められなかった。
著者
征矢野 清 石松 惇 中村 將 東藤 孝
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ハタ科魚類は雌性先熟型の性転換を行うなど生物学的に興味深い特徴を有する魚種である。また、世界中の熱帯・温帯域に広く分布し、極めて美味であることから次世代の種苗生産対象魚として世界的に注目を集めていおり、水産的価値の高い魚種でもある。しかし、その成熟・産卵過程はほとんど明らかにされていなかった。我々は本研究を実施する前にカンモンハタの生殖腺発達に関する予備的研究を行い、沖縄周辺海域に生息するカンモンハタが月周期と完全に同調して成熟し、満月大潮直後に生息場であるサンゴ礁の礁池を離れ産卵することを見いだした。しかし、満月直後に起こることが予想される卵巣での劇的な生理変化を観察するには至らなかった。そこで、本種の成熟および産卵過程を月周期と関連づけて詳細に調べるとともに、産卵関連行動とそれに伴う生殖腺の生理変化を、組織学的・内分泌学的に解明する事を目的として、本研究を実施した。本研究により得られた主な成果は以下の通りである。1.カンモンハタは満月大潮後に生息地である珊瑚礁池から外洋に移動して産卵することを、目視及びバイオテレメトリー手法により裏付けた。2.生殖腺は月周期と同調して発達し、飼育環境下でも満月大潮から数日後に産卵することが確認された。3.生殖腺発達様式は他のハタ科魚類と類似しているが、北方系のマハタなどとは異なり、明瞭な月周性を持つことが分かった。4.産卵は水温が上昇する5月以降に起こり7月下旬まで続づくことが分かった。5.一尾の雌個体は満月大潮後の一産卵時に数日に分けて成熟卵を放出することが分かった。本研究の成果はカンモンハタの生殖腺発達を理解するだけでなく、種苗生産対象魚として注目されている他のハタ科魚類の生殖腺発達を理解する上でも貴重な情報となる。また、南方系海産魚に多く見られる月周産卵の機構解明にも役立つことが期待される。
著者
征矢野 清 中村 將 長江 真樹 玄 浩一郎
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

カンモンハタは月周期と完全に同調した成熟産卵サイクルを持ち、満月大潮直後に生息場である珊瑚礁池から外洋へ移動して産卵する。このような月周期の影響を受けた生殖腺の生理変化及び産卵のための行動は、多くの水生生物で観察されているが、その詳細は明らかにされていない。本研究では、月周期と同調したカンモンハタの成熟・産卵のメカニズムを解明する事を目的に、これまで観察を続けてきた沖縄県本部町瀬底島のフィールドと西表島のフィールドを利用して、本種の成熟過程を産卵場への移動及び産卵行動と関連づけて調べることとした。本研究により得られた主な成果は以下の通りである。1)沖縄県南部の西表島と北部の瀬底島に生息するカンモンハタの生殖特性を比較したところ、本種は共通して月周産卵をすることが確認されたが、成熟サイズ・性転換時期・産卵回数が両地域で異なることがわかった。2)生殖腺刺激ホルモン遺伝子(FSHβとLHβ)の発現を測定するリアルタイムPCR法を確立し、脳下垂体における両遺伝子の測定を可能とした。その結果、LHが本種の生殖腺発達に深く関わることが分かった。3)バイオテレメトリー法により満月大潮前後の産卵関連行動を沖縄県瀬底島と西表島のフィールドを用いて観察したところ、いずれの地域でも産卵に適した場所に移動することが分かった。また、この移動は産卵期にのみ起こることが分かった。4)飼育環境下の個体を用いて月周期と同調した卵成熟の過程を観察し、成熟のタイミングを明らかにすることができた。本研究の成果はカンモンハタの生殖腺発達を理解するだけでなく、種苗生産対象魚として注目されている他のハタ科魚類の生殖腺発達を理解する上でも貴重な情報となる。また、南方系海産魚に多く見られる月周産卵の機構解明にも役立つことが期待される。