著者
深谷 芽吏 鈴木 綾香 船津 太一朗 松島 友二 八島 章博 長野 孝俊 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.27-37, 2020-03-31 (Released:2020-03-28)
参考文献数
28

歯科用CT装置(CBCT)は,診断に必要な部位とその周囲組織の3次元的形態を評価できるだけでなく,指定した部位からの距離や角度の計測も可能である。デンタルX線写真などから推測した骨欠損形態は,実際の骨欠損状態とは異なる場合がある。特に歯周組織再生療法を行う場合,事前に正確な骨欠損状態を把握しておくことは手術の成功に大きく係わる。そこで当講座では,歯周組織再生療法を予定する患者に対しCBCTの撮影を行い,さらに3Dプリンターで模型を作製し,事前に歯周組織再生療法のカンファレンスを行うことを義務づけている。本症例報告は,当講座における歯周組織再生療法のカンファレンスの流れと,実際に行った2症例について報告する。本症例は,検査所見にて垂直性骨欠損を確認した。その後,手術予定部位のCBCT画像,3次元模型,臨床データを基に術前カンファレンスを行った。歯周組織再生療法時に比較したところ,3次元模型は実際の骨欠損形態をほぼ再現していた。歯周組織再生療法を予定している患者に対して,CBCT撮影及び3次元模型を作成することにより,手術部位の骨欠損形態を事前に把握することができ,手術前の十分な討論が可能となった。我々の取り組みにより,手術をより安全かつ効果的に行うことができると示された。また手術前に十分なカンファレンスを行うことは,若手歯科医師の育成,および患者への説明のツールとしても有用であった。
著者
五味 由季子 長﨑 満里子 三澤 絵理 梶山 創太郎 斉藤 まり 長野 孝俊 井上 孝二 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.49-56, 2014-04-11 (Released:2015-02-18)
参考文献数
27
被引用文献数
2

インプラントは広く臨床に応用され,インプラントを有する患者数も増加している。インプラントには生体安定性に優れたチタンが用いられているが、最近になりフッ素イオンの存在下ではチタンの耐食性が低下し腐食することが報告されている。特に食物やプラークによる pH の変化が生じる口腔においてフッ素が存在するとチタンの腐食が進行すると考えられる。しかし,市販の歯磨剤の多くはう蝕の予防を目的にフッ化物が添加されている。本研究ではフッ素の存在に伴うリスクを排除し長期間に渡って使用できるインプラント専用の歯磨剤の開発を目的とし,試作フッ化物未含有歯磨剤および洗口剤のチタン合金および純チタンに対する影響を共焦点レーザー顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いて市販のフッ素含有歯磨剤およびフッ素塗布剤と比較検討した。その結果,9000 ppm を超えるフッ素を含有するフッ素塗布剤では著しいチタンの腐食が認められた。1000 ppm 以下のフッ素含有歯磨剤においてもコントロールと比較して有意に表面が荒れることが示された。さらに酸性環境下でフッ素が存在すると腐食が進み表面粗さが進行すると考えられた。また,純チタンはチタン合金より腐食傾向が強かった。一方,フッ素未含有の試作歯磨剤および洗口剤ではチタン表面の腐食はほとんど認められなかった。 以上より試作歯磨剤および洗口剤はインプラントを口腔に保有する患者に対して有用であり安全性が高いと考えられた。 日本歯周病学会会誌(日歯周誌)56(1):49-56,2014
著者
海老沢 政人 大島 朋子 長野 孝俊 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.386-394, 2007-06-30

現在,歯周組織再生療法の一つにエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を利用した方法がある.EMDを含むEmdogain^[○!R]-Gel(Emd^[○!R]-Gel)を用いた処置は,通法の歯周外科処置と比較して術後の治癒が良好であり,炎症反応の抑制が知られている.その理由の一つに,EMDが抗菌作用を有することが考えられているが,先行研究において一定した評価は得られていない.この理由として,EMDはアメロゲニン(AMEL),エナメリン,シースリンといった複数のタンパク質やタンパク質分解酵素を含む粗精製物であることが考えられる.このうち,AMELは最も豊富な構成物質で,EMDの約90%以上を占め,さまざまな分子量のAMELが会合して存在している.本研究の目的は,EMDの主要成分であるAMELの口腔内微生物に対する抗菌効果を評価することである.EMDは,ブタ下顎骨の幼若ブタ歯胚エナメル質から抽出し,Sephadex G-100を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより精製された25kDaとその誘導体である20kDa,13kDa,6kDa AMELを用い, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Candida albicansに対する抗菌効果を判定した,また,Emd^[○!R]-Gel,PGA,BSA,histatin 5との効果の比較を行った.Emd^[○!R]-Gelはすべての菌に抗菌効果を示し,Emd^[○!R]-Gelの溶媒であるPGAは歯周病関連細菌に強い抗菌作用を示したが,C. albicanには効果を示さなかった.250μg/ml濃度の25kDa,20kDa,6kDa AMELはP. gingivalisに対して抗菌効果を示したがその効果は低かった,P. intermediaおよびA. actinomycetemcomitansに対して,AMELは抗菌作用を示さなかった.したがって,Emd^[○!R]-Gelの歯周病関連細菌に対する抗菌効果はPGAがその主体であることが示唆された.一方,C. albicansに対してすべてのAMEL画分は,濃度依存的に強い抗菌効果を示した.したがって,Emd^[○!R]-GelのC. albicansに対する抗菌効果はAMELによるが,EMDにはAMEL以外にエナメリンやシースリンといったタンパクが含まれるため,これらの非AMELタンパクが抗菌作用を有する可能性も考えられる.今後,EMDに含まれるAMELおよび非AMELタンパクの特性の解明は,抗菌ペプチドの開発や臨床応用の可能性を検索するうえできわめて重要であると考える.