著者
田島 聖士 小野寺 勉 阿部 公喜 海老沢 政人 飯塚 浩道
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.344-350, 2013
参考文献数
12

2011年3月11日,東日本大震災が発生し甚大な災害となったが,海上自衛隊(海自)は災害派遣命令により宮城県沖に多数の自衛艦を派出した.被災地では歯科医療機関の被害もあったため,海自移動歯科班を歯科診療支援要請に基づき,3月26日から4月21日まで宮城県本吉郡南三陸町および気仙沼市大島において歯科診療支援を実施した.一方,現地歯科医師会歯科班は3月20日から4月25日まで各避難所を往診車にて巡回診療を行った.現地歯科班と海自歯科班は協働して歯科診療支援を行い,避難所等における診療実績および質問紙調査から,震災直後の歯科診療ニーズ,口腔清掃状況ならびに現地歯科班と海自歯科班の診療連携について調査した.調査対象は初診患者数455名,延べ患者数584名,疾患内訳はう蝕31%,歯周疾患23%,脱離17%,義歯不適10%,根尖性歯周炎9%,義歯紛失2%であった.災害対策本部があった志津川ベイサイドアリーナにおける経時的な受診調査では,震災直後から最多疾患であったう蝕は調査期間中増加傾向を示し,歯周疾患は2〜3週以降減少傾向を示した.主訴発現に関する調査では震災直後から震災後1週の主訴発現は全体の12%であったが,その内75%は急性症状を伴っていた.本調査から震災直後における歯科診療ニーズが確認できたが,現地歯科班による避難所等の情報収集能力と海自歯科班の機動性や装備を生かすことにより相互補完的な支援が可能であることが示唆された.
著者
海老沢 政人 大島 朋子 長野 孝俊 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.386-394, 2007-06-30

現在,歯周組織再生療法の一つにエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を利用した方法がある.EMDを含むEmdogain^[○!R]-Gel(Emd^[○!R]-Gel)を用いた処置は,通法の歯周外科処置と比較して術後の治癒が良好であり,炎症反応の抑制が知られている.その理由の一つに,EMDが抗菌作用を有することが考えられているが,先行研究において一定した評価は得られていない.この理由として,EMDはアメロゲニン(AMEL),エナメリン,シースリンといった複数のタンパク質やタンパク質分解酵素を含む粗精製物であることが考えられる.このうち,AMELは最も豊富な構成物質で,EMDの約90%以上を占め,さまざまな分子量のAMELが会合して存在している.本研究の目的は,EMDの主要成分であるAMELの口腔内微生物に対する抗菌効果を評価することである.EMDは,ブタ下顎骨の幼若ブタ歯胚エナメル質から抽出し,Sephadex G-100を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより精製された25kDaとその誘導体である20kDa,13kDa,6kDa AMELを用い, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Candida albicansに対する抗菌効果を判定した,また,Emd^[○!R]-Gel,PGA,BSA,histatin 5との効果の比較を行った.Emd^[○!R]-Gelはすべての菌に抗菌効果を示し,Emd^[○!R]-Gelの溶媒であるPGAは歯周病関連細菌に強い抗菌作用を示したが,C. albicanには効果を示さなかった.250μg/ml濃度の25kDa,20kDa,6kDa AMELはP. gingivalisに対して抗菌効果を示したがその効果は低かった,P. intermediaおよびA. actinomycetemcomitansに対して,AMELは抗菌作用を示さなかった.したがって,Emd^[○!R]-Gelの歯周病関連細菌に対する抗菌効果はPGAがその主体であることが示唆された.一方,C. albicansに対してすべてのAMEL画分は,濃度依存的に強い抗菌効果を示した.したがって,Emd^[○!R]-GelのC. albicansに対する抗菌効果はAMELによるが,EMDにはAMEL以外にエナメリンやシースリンといったタンパクが含まれるため,これらの非AMELタンパクが抗菌作用を有する可能性も考えられる.今後,EMDに含まれるAMELおよび非AMELタンパクの特性の解明は,抗菌ペプチドの開発や臨床応用の可能性を検索するうえできわめて重要であると考える.