著者
門田 裕一
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.51-61, 1990

国立科学博物館が実施した, 「日本列島の自然史科学的総合調査」に参加して, 1990年2月に奄美大島にてアザミ属の調査を実施した。本論文では, この現地調査と標本調査の結果をもとにして, 日本列島のアザミ属の分類学的再検討の一環としつつ, 南西諸島と小笠原諸島を中心としたシマアザミ群に関する分類学的解析の結果を報告する。これまで奄美大島にはアマミシマアザミCirisium brevicaule A. GRAY var. oshimense KITAMURA (1937)が認識されてきた。アマミシマアザミは, 基本変種のシマアザミに対して, 茎と葉の背軸面脈上が有毛である点で区別されてきた。この毛は多細胞の開出毛である。奄美大島の現地調査では, (1)アマミシマアザミはほぼ全島の沿岸に普通に見出され, (2)この茎や葉の有毛性には著しい集団内変異のあることが明らかとなった。すなわち, 1つの集団においても, 茎や葉に上述の開出毛があるアマミシマアザミの形, 無毛のシマアザミの形, そして葉の背軸面の全面が有毛のイリオモテアザミの形が混在するのである。これらの3種類は, 茎や葉の有毛性以外では有意に異ならない。したがって, 茎や葉の有毛性の違いにもとづいて記載されたアマミシマアザミやイリオモテアザミはシマアザミの異名として扱うのが適当と考えられる。また, 台湾南端の鷲巒鼻<鵝鑾鼻, がらんびOluanpi>産の個体にもとづいて記載されたガランビアザミC. albescens KITAMURA (1932)もシマアザミの異名として取り扱うのが正しい。シマアザミの分布域はFig.2に示した。分布域の北限は奄美大島で, 琉球諸島や先島諸島を経て, 台湾南部に分布する。シマアザミ群には, シマアザミの他に, オガサワラアザミ, オイランアザミ, ハマアザミの3種が認められる。これらの区別点については本文中に検索表として記した。
著者
門田 裕一
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.77-90, 1984

東北地方のトリカブト属トリカブト亜属植物(キンポウゲ科)は4種2亜種から成ることが明らかになった。これらは, 垂直分布の点で高山性と低山性に, 水平分布の点で日本海型と太平洋型に, 染色体数の点では2倍種(2n=16)と4倍種 (2n=32) に区分される。 1. オンタケブシ Aconitum meta-japonicum NAKAI 2n=16(Fig.5-A)。 飯豊山地梶川峰(山形県)の山地帯においてのみ発見されている (Fig.4)。 これまで「オンタケブシ」と呼ばれていたものは, このオンタケブシそのものとウゼントリカブト及びセンウズモドキを含むことが明らかになった。その結果本種の分布上, 飯豊山地は基準産地の木曽御岳に次ぐ第2の産地となる。 上記の3種類は形態的特徴, 分布域そして染色体数によって明瞭に区別される。オンタケブシは, 概形が円く5-7-浅・中裂する葉をつけ, 花梗に滑面開出毛が生え, 枝が斜上して伸長し, 円筒状で短い嘴をもつ上萼片をつけることなどで特徴付けられる (Fig.2-A)。本種は2倍種で, 著しい隔離分布を示し, 形態的形質の変異性が低いことから, 遺存的な種と推定される。 2. ウゼントリカブト Aconitum okuyamae NAKAI 2n=32(Fig.5-C)。 山形・福島・秋田・宮城・岩手・東京の各都県に分布する (Fig.4) が, 奥羽山脈南部の山地帯(とくに山形県側)に多く見られる。本種は上述のように, これまで「オンタケブシ」とされていたものの一部である。オンタケブシによく似ているが, 本種は分枝した枝があまり伸長せず, 花梗が花と等長かより短く, そしてそのために花序に花がより密集すること, 上萼片がより浅い円錐形で, 花弁(密腺)の距が短く屈曲する点で区別される (Fig.2-D)。 福島県・谷地平と山形県・奥山寺では本種とオクトリカブトとの同所的生育が確認された。とりわけ奥山寺では, この2種とともに両者の自然交雑の結果生み出されたと推定される多数の中間形が発見されている。 3. シヤマトリカブト Aconitum nipponicum NAKAI 2n=32(Fig.5-D)。 本州日本海側山地に分布する高山性種で, 石川県・白山と山形県・月山がそれぞれ南限と北限である(Fig.3)。東北地方の高山性種は本種のみであり, 鳥海山以北の出羽山地, 白神山地, 奥羽山脈, 北上高地には高山性種は見出されていない。本種の現在の分布の中心は, その個体数の豊富さから, 飯豊山地にあるといえる。飯豊山地の東方約40km に位置し, その主稜線の延長上にある吾妻連峰では本種が全くみられないのは興味深い。 シヤマトリカブトはこれまで「ハクサントリカブト」と呼ばれていたものの大部分にあたる。ハクサントリカブトのタイプ標本(本文参照)はミヤマトリカブトと未記載のトリカブトとの自然交雑に由来する個体と推定された。実際に白山ではこれらの3種類が同所的に生育している。白山における自然交雑の実態については改めて詳述する予定である。 4. オクトリカブト Aconitum subcuneatum NAKAI 2n=32 (Fig.5-B)。 東北地方の内陸地域から日本海側地域にかけての低山に最も普通に生育するトリカブトで (Fig.4), 概形が円く5-7-浅・中裂する葉, 粗面屈毛が密生する花梗, 背の高い三角錐状〜僧帽状の上萼片をもつことなどで特徴付けられる (Fig.2-C)。 奥羽山脈北部の秋田駒ケ岳では本種の高山帯における生育が認められている。この山岳では, 低山性のオクトリカブトが高山帯へと垂直方向に分布域を拡大したものと考えられる。オクトリカブトの学名としては従来 A.japonicum THUNB. が用いられることが多かった。しかし A.japonicum THUNB. のタイプ標本はいわゆるヤマトリカブトとみなすのが最も適当であるので, オクトリカブトの学名は上記のように A.subcunetuam NAKAI となる。 5. ヤンウズモドキ Aconitum jaluense KOM. subsp. iwatekense(NAKAI) KADOTA 2n=32(Fig.5-E)。 前述のように本亜種もオンタケブシと混同されてきたものであるが, 葉は概形が五角形状で三全裂あるいは三深裂する点などで明瞭に区別される (Fig.1; Fig.2)。 東北地方では岩手・宮城・福島各県の太平洋側沿海地域に生育し, 北限は岩手県・種市である。分布状況と形態的形質の変異性が低いことから, センウズモドキは遺存的な分類群とみなされている。 6. ツクバトリカブト Aconitum japonicum THUNB. subsp. maritimum (KAKAI ex TAMURA & NAMBA) KADOTA 2n=32(Fig.5-F)。 東北地方では岩手・福島両県の太平洋沿岸地域に普通に生えるが, とくに北上高地に多い。本亜種の分布域は上記センウズモドキのそれに似るが, 温帯落葉広葉樹林の林縁や林内から草原までのさまざまな生育地に生え, したがって形態的形態的形質の変異性がより高く, かつ個体数がより多い。