著者
高橋 友明 畑 幸彦 石垣 範雄 雫田 研輔 田島 泰裕 三村 遼子 前田 翔子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.804-808, 2016 (Released:2017-01-13)
参考文献数
5

我々は,先行研究で腱板機能不全患者は僧帽筋上部線維の過剰な収縮と下部線維の活動低下が肩甲帯筋のアンバランスを生み,それによって腱板の機能不全を引き起こすと述べた。本研究の目的は,我々が行なっている肩甲骨周囲筋のアンバランスを矯正するための『肩甲帯筋トレーニング』の効果を明らかにすることである。対象は肩関節に愁訴のない健常人50例100肩で,下垂位最大外旋位(棘下筋テストの肢位)で男性は5kg負荷,女性は3kg負荷で3秒間保持を3回実施し,同時に僧帽筋の筋活動を計測した。次に肩甲帯筋トレーニングを5秒間2回実施後に前述と同様の方法で筋活動を計測し,トレーニング前後での筋活動量と利き手・非利き手側間での筋活動量を比較した。なお,測定筋は僧帽筋上部・中部および下部線維であり,表面筋電計Noraxon 社製MyoSystem 1400Aを用いて得られた波形を筋活動量として,3秒間の筋活動量積分値を最大随意収縮で正規化した活動量%MVCを算出した.僧帽筋上部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に抑制されており(p<0.05),僧帽筋中部・下部線維の筋活動量はトレーニング後が前より有意に多かった(p<0.05)。今回の結果から,我々が行なっている肩甲帯筋トレーニングは,肩甲骨周囲筋のアンバランスを改善し,肩甲骨の安定化に寄与している可能性が示唆された。
著者
山室 慎太郎 田島 泰裕 雫田 研輔 荻無里 亜希 高橋 友明 畑 幸彦(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.22, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】腱板断裂手術例において肩関節周囲筋群の筋スパズムが原因で術後早期の後療法がスムーズに進まない例をしばしば経験する.しかし筋スパズムの臨床成績に及ぼす影響について言及した報告はほとんど無い.今回,われわれは術後に筋スパズムが出現しやすい大胸筋に注目し,大胸筋のスパズムが臨床成績及ぼす影響について調査したので報告する.【対象と方法】対象は腱板修復術後に大胸筋のスパズムを認めた22 例22肩とした.術前と術後2週で大胸筋の筋活動量と筋硬度および肩関節の運動時痛と可動域を測定した.大胸筋の筋活動量は背臥位で術側手関節を前額部にのせた状態で表面筋電計Noraxon社製Myosystem1400Aを用いて10秒間測定し,積分値(μV×秒)を算出した.大胸筋の筋硬度は前述の測定肢位でTRY ALL社製NEUTONE TDM-NI/NAIを用いて同一点を3回計測し,平均値を求めた.肩関節の運動時痛はVisual Analog Scaleを用いて測定した.肩関節可動域は屈曲,外転,水平屈曲,水平伸展および90°外転位外旋方向の各角度を測定した.なお、大胸筋の筋活動量と筋硬度の術前と術後2週との間の比較はウィルコクソン符号順位和検定を用いて行い,大胸筋の筋硬度と肩関節の運動時痛または可動域の間の相関はスピアマン順位相関係数を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした. 【説明と同意】本研究の趣旨を十分に説明して同意を得られた患者を対象とした.【結果】大胸筋の筋活動量と筋硬度はともに術後2週時が術前より有意に高かった(P<0.01,P<0.01).また,術後2週においてのみ,大胸筋の筋硬度と肩関節の運動時痛との間に中等度の正の相関を認め(r=0.43,P<0.05),大胸筋の筋硬度と屈曲角度との間に強い負の相関を認め(r=-0.63,P<0.05),大胸筋の筋硬度と90°外転位外旋角度との間にとの間に中等度の負の相関を認めた(r=-0.48,P<0.05). 【考察】大胸筋の筋活動量と筋硬度は術後早期に高くなっており,筋硬度と運動時痛は正の相関をしており,さらに筋硬度と屈曲角度および筋硬度と90°外転位外旋角度は負の相関をしていた.したがって,術後早期の運動時痛が肩関節周囲筋群のスパズムを引き起こし、結果的に関節可動域制限につながると考えられるので,腱板断裂術後早期の後療法は疼痛を誘発しないように軟部組織の伸張を図ることが重要であると思われた.【まとめ】術後2週の運動時痛が大胸筋の筋スパズムを引き起こし筋活動量や筋硬度を増加させ,結果として関節可動域を制限すると思われた.
著者
小口 美奈 雫田 研輔 青木 幹昌 畑 幸彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI1241, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 人工股関節全置換術(以下THA)は近年,術式の変化やクリニカルパスの短縮などにより入院期間の短縮が勧められているが,十分な運動機能が獲得されないまま退院に至っているという報告もある.しかし術後経過に伴った,歩行能力やバランス能力,筋力など運動機能の回復に関する報告は少ない.今回THAを施行された患者の術後6ヵ月までの運動機能の変化を明らかにする目的で,下肢筋力の中でも手術侵襲により影響を受けやすい股関節外転筋力と,術後活動性に影響するといわれる膝関節伸展筋力に着目し,歩行能力やバランス能力に及ぼす影響について調査したので報告する.【方法】 対象は,当院において2009年4月から2010年3月の間に,変形性股関節症に対しTHAを施行した症例のうち,術後6ヵ月間の評価が可能であった17例17股(平均年齢67.1歳,男性8名,女性9名)とした.術式は全例殿筋貫通侵入法(以下 Bauer法)であり,全例術後約3週で松葉杖歩行にて自宅退院となった.術前と術後2ヵ月,3ヵ月および6ヵ月において,歩行能力とバランス能力,股関節外転筋力および膝関節伸展筋力の経時的変化を評価した.歩行能力として最大歩行速度(以下MWS)を,機能的バランスとしてFunctional Balance Scale(以下FBS)を測定した.股関節外転筋力と膝関節伸展筋力は等尺性筋力計μTasF-1(アニマ社製)を使用し,最大等尺性筋力を3回測定し平均値を体重で除して標準化(Kgf/Kg)した.また,歩行能力およびバランス能力と,股関節外転筋力および膝関節伸展筋力との関連性を調査した.統計学的検討は, MWSとFBS,股関節外転筋および膝関節伸展筋の術前と術後各時期における比較にMann-Whitney’s U検定を行い,また各時期におけるMWSおよびFBSと股関節外転筋力,膝関節伸展筋力に対して単回帰分析を行った.【説明と同意】 対象者に本研究の趣旨と目的を詳細に説明し,参加の同意を得た.【結果】 MWSの平均値(m/min)は術前67.1,術後2ヵ月60.8,術後3ヵ月77.3,術後6ヵ月81.8であり,術後3カ月以降で術前と比較して有意に高値を示した.FBS(点)の平均値は術前51.0,術後2ヵ月50.7,術後3ヵ月55.7,術後6ヵ月55.9であり,術後3ヵ月以降で術前と比較して有意に高値を示した.また,股関節外転筋力の平均値(Kgf/Kg)は,術前7.4,術後2ヵ月9.1,術後3ヵ月8.3,術後6ヵ月8.9であり,術前に対し術後どの時期でも有意差は認められなかった.一方,膝関節伸展筋力の平均値(Kgf/Kg)は,術前22.1,術後2ヵ月21.3,術後3ヵ月24.5,術後6ヵ月26.8であり,術後3ヵ月で向上傾向を示し,術後6ヵ月で術前と比較して有意に高値を示した.MWSと股関節外転筋力の関係は術前にのみ有意な相関を示し(r=0.5),膝関節伸展筋力とは術後2ヵ月以降で有意な相関を示した(r=0.4). FBSと股関節外転筋力,膝関節伸展筋力の関係は術前にのみ有意な相関を示した(r=0.4,r=0.7).【考察】 今回の研究から,歩行能力とバランス能力は術前と比較して術後2ヵ月で下がる傾向を示し,術後3ヵ月から有意に回復することがわかった.術後2ヵ月の時点は,退院し自宅にて生活している時期であり,松葉杖歩行から杖なし歩行に移行する時期でもある.転倒等に対しての環境設定,患者教育も特にこの時期で必要と考えられた.また術後2ヵ月において,歩行能力と有意な正の相関関係を認めたのは,膝関節伸展筋力のみであった.Bohannon RWによると膝関節伸展筋力は股関節周囲筋力や足関節背屈筋力よりも歩行能力と関連が強いとされている.また塚越らは下肢荷重の低下による筋萎縮や筋力低下は殿筋群やハムストリングスに比べて大腿四頭筋のほうが遥かに大きいと報告している.当院クリニカルパスでは術後2ヵ月までは,部分荷重の時期であるため,膝関節伸展筋力の低下が危惧される.したがって,術後2ヵ月までは,特に膝関節伸展筋力を向上させることで,この時期の歩行能力低下を抑えることができると思われた.それにより,入院期間の短縮化が図られている現在,退院時の歩行能力低下によるリスクを避けられる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 入院期間の短縮化が図られている現在,術後早期から膝関節伸展筋力に対する積極的なトレーニングが必要であると思われた.また今後,股関節疾患に対して股関節周囲筋力に焦点を当てるのみならず,膝関節伸展筋力の評価も重点的に行っていくことが必要であると思われた.
著者
雫田 研輔 畑 幸彦 石垣 範雄 高橋 友明 田島 泰裕 三村 遼子 前田 翔子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.940-945, 2017-01-31 (Released:2017-03-18)
参考文献数
8

腱板断裂術後に肩関節可動域や腱板の修復状態は良好だが,肩すくめ動作が改善せず肩関節挙上が困難な症例をしばしば経験する。今回,肩すくめ動作が肩関節周囲筋の筋活動パターンに及ぼす影響を明らかにする目的で調査したので報告する。対象は肩関節に愁訴のない若年健常者50例50肩(男性27例,女性23例,平均年齢26.3歳)である。被験者を利き腕が上になるような側臥位にしてスリングで上肢を吊るし,特に指示を与えず自由に行なわせた前方挙上(N 群)と肩をすくめながら行なわせた前方挙上(S 群)の2 種類の運動を行なわせた。同時に,表面筋電計を用いて利き腕の三角筋前部線維,中部線維および後部線維,僧帽筋上部線維,中部線維および下部線維の活動量を測定し, 2 群間で比較検定した。僧帽筋において,S 群はN 群より上部線維の活動量は促進され,下部線維の筋活動量は抑制されていた。また三角筋においてS 群はN 群より前部線維と中部線維の活動量が抑制されていた。したがって,肩すくめ様の挙上パターンが挙上筋力の低下を引き起こすことが分かった。