著者
青木 眞
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2208-2209, 2021-12-10

症例の提示が始まる前に「正解はこの中にあります」と検討会を始めたUCSF内科教授のLawrence Tierney(以下LTと略)に度肝を抜かれたのは30年前になる.臨床診断の達人LTが言う「正解」の内実はVINDICATE(Vascular, Infectious, Neoplastic, …)といった基本的病態のリストであり,彼が鑑別診断を構成していくうえでの基本骨格(=フレームワーク)である.今思えばこのLTとの邂逅こそが本書の扱う「フレームワーク」という概念による洗礼であった.監訳者の田中先生も恐らく受洗者の1人であり,それが本書の翻訳を手がけることになった遠因と想像している. 本書では「下痢」,「心内膜炎」といった問題を整理するフレームワークを作るにあたり,その整理の軸の系統的な整合性にこだわらない.このある種の「軸の乱れ」こそがフレームワークの臨床的な使い勝手をよくし,ひいては教育上も診療上も有用なものとしている.監訳者の指摘を待つまでもなく「消化管出血」を上部消化管は食道・胃・十二指腸と「解剖的部位」の軸で分けて,下部消化管は器質性,血管性,炎症性と「機序」による軸で分類する.まったく同様に臨床の達人LTも「筋肉の問題」を,myopathy(=筋力低下),myalgia(±筋力低下),rhabdomyolysis(CKが上昇)の3つ項目でフレームワークを作るが各項目はそれぞれ「疾患概念・身体所見」「自覚症状」「検査結果」であり,ある意味,整理の軸は1本ではない.しかし鑑別診断を考えるうえでは秀逸である.
著者
青木 眞澄
出版者
上智大学哲学会
雑誌
哲学論集 (ISSN:09113509)
巻号頁・発行日
no.50, pp.71-89, 2021
著者
青木 眞
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.1939, 2010-11-10

本書は『感染症外来の帰還』と文学的なタイトルがついているが,優れた内科・小児科領域の感染症に関する外来診療マニュアルである. 自分が80年代前半に渡米し,内科専門のプログラムでインターンとして働き始めたとき,仲間が「メドゥピーズ」(英語でMed-Pedsと書く)という聞き慣れないプログラムの研修医であると聞いた.Med-Pedsとは,内科と小児科の両者の訓練を受け,2つの領域の専門医資格を4年間で取得するというプログラムである.都市部における外来診療の核となるべき2つの専門性を一度に短期間で取得できるということで,特に将来開業をめざす医師たちに人気が高い競争の激しいプログラムであった.内科と小児科,両専門領域の感染症をカバーする本書も外来の実態に即した,現場のニードにマッチした本である.
著者
小和田 暁子 浜田 有希江 青木 眞里子 郡山 洋一郎 坂野 晶司 寺西 新 黒岩 京子 森 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.434-439, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
10

目的 QuantiFERON® TB 検査(以下,QFT 検査)は,ツベルクリン反応検査とは違って,過去の BCG 接種の影響を受けずに結核感染を診断できる新しい検査方法である。この QFT 検査を,2005年 6 月より足立保健所衛生試験所に直営導入し,保健所結核接触者健診における行政検査として実施している。本報告は,その後2006年 3 月までの実施状況を分析し,検討するものである。方法 QFT 検査対象者は,2005年 6 月から2006年 3 月にかけて,肺結核症患者と接触して接触者健診の対象者となった足立保健所管内に住む区民のうち,QFT 検査を受けることについて同意した者67人である。QFT 検査実施時期は,接触者が感染源である肺結核患者との最終接触後 2 か月以降である。すべての QFT 検査は足立保健所衛生試験所細菌検査部門で実施した。また,ツベルクリン反応検査もできる限り同時に実施した。結果 QFT 検査を実施できた接触者総数は67人であった。QFT 検査結果は,陽性が 9 人,判定保留が 5 人,陰性が53人であった。このうち,QFT 検査と同時にツベルクリン反応検査を実施できた接触者は48人,そのうち発赤長径が30 mm 以上の者は22人であった。ツベルクリン反応で発赤長径が30 mm 以上の者で QFT 検査が陽性となった者は 4 人,発赤長径が30 mm 未満であった26人の中で QFT 検査が陽性となった者は 5 人であった。QFT 検査が陽性となった 9 人については化学予防を指示した。このように QFT 検査の導入によって,従来のツベルクリン反応検査に比してより精度の高い潜在結核感染の診断が可能になった。結論 足立保健所では,既存の設備・検査技術を生かして衛生試験所細菌検査部門に QFT 検査を直営導入した。このことにより,QFT 検査の持つ「採血後12時間以内でできるだけすみやかに培養を開始する」という検査制限事項を容易に克服できた。さらに接触者健診の成果としてより精度の高い化学予防対象者の選別が可能になり,保健所の対人保健サービス部門と検査部門の密な連携による保健所機能強化につながった。