8 0 0 0 ジンクス

著者
松村 正巳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.236, 2003-11-30

私が研修医の頃,当直するたびに重症の患者さんが搬送され,上級医から「おまえは,よくつく奴だ」と,言われた覚えがあります.看護師さんからは,「お祓いでも受けたらいいんじゃないの」と言われる始末でした.このコラムをお読みの方のなかにも,同じような経験のある方はいらっしゃいませんか? どの病院にも,患者さんを呼び込む医療スタッフがいるものです.当直中に,重症の患者さんが来院されなければ,ホッとする反面,研修にならず難しいところです. さて,このような,“つく”,“つかない”といった科学的な根拠がないと思われることについても,研究が行われることがあります.例えば,満月と救急患者の数などです.洋の東西を問わず,米国の医師たちも,いわゆるジンクスを気にするようです.Ahn A, et al:“We're jinxed”―Are residents' fears of being jinxed during an on-call day founded? Am J Med112:504,2002は,ちょっとおもしろい論文です.Dr. Ahnは,マサチューセッツ総合病院の医師です.これはシニアレジデントを対象に行われたrandomized controlled trialで,シニアレジデントをジンクス群 (n=33)と,非ジンクス群 (n=36)に分け,on-call dayの入院患者数,睡眠時間,主観的な仕事の困難度(1~5までのスケール)をon-call dayの終わりに報告させて,比較,検討しています.群分けはon-call dayの朝,“You will have a great call day”と書かれた紙が入っている封筒か,何も書いてない紙の入った封筒を選ばせています.もちろん,“You will have a great call day”と書かれた紙が入っている封筒を選んだレジデントは,ジンクス群です.そしてレジデントに対して“You will have a great call day”と,声に出して読み聞かせました.さて,結果や,いかに?
著者
上野 征夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.162-163, 2003-01-10

「寒冷あるいはストレス暴露で,指先が白くなる.これをレイノー現象(Raynaud's phenomenon)という(図1).正式には,白,青(紫),赤の3色の変化をいう.色調の変化はこの順で起こる.白は血管の攣縮,青(紫)は血液の毛細血管,小静脈へのうっ滞,赤は反応性の血管拡張をそれぞれ意味する. 3色変化のうち,2色以上みられることがレイノー現象の定義である.しかし白の1色変化でも,それが著明であればレイノーと呼んで構わない. レイノー現象は,何らかの基礎疾患に伴って起こってくることが少なくない(表1).20歳代の女性では全身性エリテマトーデス,40歳以上では,強皮症,Sjogren症候群,関節リウマチが多い疾患である.レイノー現象が一側性の場合,高安病などの血管炎,頚椎の疾患,肩・手症候群(shoulder-hand syndrome)なども考慮されねばならない.職業病として以前,電動チェーンソーを使って伐採に従事する人に起こり問題となった.薬剤ではβブロッカー,あるいは片頭痛治療薬のエルゴタミン服用者などにみられることがある.
著者
長野 広之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.709-718, 2021-04-10

総論 platypnea(扁平呼吸)が「坐位で増強する呼吸苦」を,orthodeoxiaが低酸素血症を意味することからplatypnea orthodeoxia syndrome(POS)は「臥位で改善し坐位で悪化する呼吸苦に低酸素血症を伴う状態」を指します.姿勢変化の病歴が目立たず胸部画像で異常を呈しない場合,原因不明の低酸素血症や呼吸苦の原因になります.また後述のようにシャントが原因のことが多く,その場合酸素投与を行っても酸素化の改善が乏しいのが特徴です. POSの機序としては心内シャントと心外シャント,換気血流比不均衡があります.坐位になることにより右→左シャント量や換気血流比不均等が増加し低酸素血症が起こります.坐位への姿勢変化がどのようにPOSにつながるかについては各疾患の項で述べます.
著者
越前屋 勝 三島 和夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1252-1256, 2007-07-10

ポイント ●睡眠覚醒リズム障害は生体時計の調節障害に基づく病態と考えられる. ●受診頻度が比較的高いのは睡眠相後退症候群と非24時間睡眠覚醒症候群である. ●頭痛・倦怠感・疲労感・食欲不振といった身体症状や抑うつ症状を伴うことが多い. ●睡眠覚醒のパターンを把握するためには睡眠日誌の記載が必要である. ●不登校や出社拒否といった社会心理的要因との鑑別が困難な場合も少なくない.
著者
比江嶋 一昌
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.64-67, 1976-01-10

reciprocal beat(回帰収縮)とは,心臓内のある場所(洞結節,心房,房室接合部または心室)に発生したインパルスが,短時間の間に房室伝導系,とくに房室結節のなかを往復して,もとの場所へ戻り,再びその場所の興奮をひき起こすという変わったタイプの不整脈で,reentryの一型とみなされる. reciprocal beatが心電図的に初めて記載されたのは,1915年,White1)によってであり,以後この種の報告例が文献上散見されてきた.その間,reciprocal beatはreturn extrasystole,return beator systole,reexcitation beatなどと呼ばれ,現在ではecho(beat)ともいわれている.このreciprocal beatが2個続く場合には,reciprocal rhythm,reciprocating rhythm,echoesなどと呼ばれる.また,最近では,発作性"上室性"頻拍例の多くは,reciprocal beatが早い頻度で連続したものに相当することがわかっており,reciprocating tachycardiaと呼ばれる.
著者
青木 眞
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2208-2209, 2021-12-10

症例の提示が始まる前に「正解はこの中にあります」と検討会を始めたUCSF内科教授のLawrence Tierney(以下LTと略)に度肝を抜かれたのは30年前になる.臨床診断の達人LTが言う「正解」の内実はVINDICATE(Vascular, Infectious, Neoplastic, …)といった基本的病態のリストであり,彼が鑑別診断を構成していくうえでの基本骨格(=フレームワーク)である.今思えばこのLTとの邂逅こそが本書の扱う「フレームワーク」という概念による洗礼であった.監訳者の田中先生も恐らく受洗者の1人であり,それが本書の翻訳を手がけることになった遠因と想像している. 本書では「下痢」,「心内膜炎」といった問題を整理するフレームワークを作るにあたり,その整理の軸の系統的な整合性にこだわらない.このある種の「軸の乱れ」こそがフレームワークの臨床的な使い勝手をよくし,ひいては教育上も診療上も有用なものとしている.監訳者の指摘を待つまでもなく「消化管出血」を上部消化管は食道・胃・十二指腸と「解剖的部位」の軸で分けて,下部消化管は器質性,血管性,炎症性と「機序」による軸で分類する.まったく同様に臨床の達人LTも「筋肉の問題」を,myopathy(=筋力低下),myalgia(±筋力低下),rhabdomyolysis(CKが上昇)の3つ項目でフレームワークを作るが各項目はそれぞれ「疾患概念・身体所見」「自覚症状」「検査結果」であり,ある意味,整理の軸は1本ではない.しかし鑑別診断を考えるうえでは秀逸である.
著者
原 正彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.864-867, 2021-05-10

Point◎仮想現実(VR)技術の医療応用は30年以上の歴史があるものの,その効果はきわめて限定的であった.◎われわれは大学での産学連携活動を通して,まったく新しいアプローチのVRリハビリテーション用医療機器の開発に成功した.◎このVR機器「mediVRカグラ®」は歩行(姿勢)・上肢・認知・内耳機能障害および疼痛の改善手段として応用が進んでいる.◎近年では病院などでのリハビリテーションにおける新型コロナウイルス感染症対策としても注目されており,また遠隔リハビリテーション機器としての応用も進められている. *本論文中、関連する動画を見ることができます(音声なし,2023年4月30日まで公開)。
著者
志水 太郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2133, 2020-11-10

生坂政臣先生門下の鈴木慎吾先生のご本が出たということで,とても楽しみに拝読させていただきました.千葉大学の総合診療科は「診断推論学」を屋号にされることからも,最近では同門の鋪野紀好先生も診断学の探求を中心に同分野の本を出版されるなど,日本の診断学シーンを牽引される総合診療科だと思います.読後,その伝統のエッセンスが本書に満ち満ちていることが実感できました. 本書が画期的であり,また多くの若手にとって希求の書である理由は何でしょうか.それは,外来診療の診断学の原則論に言及した本であることが第一と感じます.鈴木先生は本書を通して何を伝えられたかったのかを考えました.それは,多面において教育リソースの限られた日本の臨床教育現場において,最も難しいセッティングの1つである外来での診療における指導・学びの羅針盤を提示されたかったのではないか,と想像します.外来・救急・病棟という“3大臨床現場”のうち,キャリアの初期であまり立つことができないのが外来です.(おそらく)日本の多くの現場では,2年間の臨床研修を終え,3年目になれば外来の枠を持たされることが多いです.連続性のある病棟のケアとは異なり,リアルタイムでの即応性が求められ,かつ外来と外来の「ドット」同士をつなぐような非連続の時間軸で勝負していかなければならないのが外来におけるケアの難しさです.臨床実習の学生や臨床研修の初期臨床研修医は,制度上外来に立つことが多くなってきた現在,一方ではそこの訓練に必要な指南書は国内にほぼ存在しません.そこに登場したのが本書というわけです.そして,皆が潜在的に期待していた「型」が提示され,しかもそれが症状ごとにアレンジされた型であれば,これに比肩する書籍もそうないのではないかと感じます.
著者
池田 啓浩
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.441-442, 2020-03-10

患者 17歳,男性主訴 だるくて勉強ができない.
著者
土肥 豊
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1068-1069, 1976-08-10

脳卒中後の片麻痺患者に対して,失われた四肢の機能回復をはかるために各種の運動訓練を行わせることは,麻痺に陥った四肢に対してはもちろん,患者の全身的なコンディションをととのえるためにも極めて必要なことである.しかしながらその反面,本症患者は極めて多種のリスク要因をかかえていることもまた忘れてはならない重要な事柄である.動脈硬化症,高血圧,あるいはそれに由来する虚血性心疾患,顕性あるいは潜在性心不全,腎機能障害,老人性肺気腫による慢性呼吸機能不全など,いわゆる老年病とよばれるもののさまざまな病態が併有されていたり,あるいは若年者においては,心臓弁膜症その他の基礎疾患を有していることが,むしろ通例だからである.しかも,このような疾患を有する患者に対して,相当程度の身体的負荷を与えることを余儀なくされるところに,本症のリハビリテーションのむずかしさがあり,十分なリスク管理が必要とされる理由もここにある. さて,本症のリハ訓練に際して,リスク管理上注意をはらわねばならぬ病態生理学的な異常は,上述のように極めて多彩であり,そのすべてについて述べることは限られた誌面の中ではとても不可能であるので,本項では主として心臓に関連した問題のみをとりあげて述べることとする.

3 0 0 0 塵肺症

著者
藤村 直樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1196-1198, 1986-07-10

塵肺症は,佐渡金山では"山気",明治以後の鉱夫の間では"ヨロケ"として古くから知られた職業性疾患であったが,近年,免疫学の進歩に伴い,本症に種々の免疫異常が存在し,病変形成や病態生理に免疫学的機序が一定の役割を担っているという,免疫学的疾患としての側面が注目されるようになっている.本稿では,代表的な塵肺症である珪肺症と石綿肺につき,免疫病態生理の面から概説を試みたい.
著者
中村 展招 真柴 裕人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.36-37, 1979-01-10

はじめに 臨床上,古くからカテコラミン分泌腫瘍である褐色細胞腫,脳血管障害,とくにクモ膜下出血発作時,急性膵炎・胆石症発作時,あるいは体外的にカテコラミン(以下CA)過剰投与を行った際に心電図異常(とくにST.T波の変化)を多く認めてきた.これらの疾患時.体液性あるいは交感神経終末部を介して分泌されるCAが過剰に心筋に作用する場合,またはCAに対する感受性が増大したとき,CAにより心筋が障害を受ける,このように,続発性心筋症の中でCAにより心筋障害をきたした場合をカテコラミン心筋症(catecholaminecardiopathy)1,2)という.
著者
梅原 千治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.833-835, 1968-07-10

ACTHや副腎皮質ステロイド(以下CSと略す)を投与すると白血球増多が起こることは古くから知られており,この白血球増多の機序についても種々研究されているが,なお完全に解明されるにはいたっていない.またこの白血球増多は,CSの投与量や投与期間,さらには投与される患者の状態ならびに原疾患によっても左右されるといわれる.したがって臨床的にACTHやCSを使用したさいにみられる白血球増多が,投与薬剤によって惹起されたものか,あるいは原疾患の悪化によって起こったものかを区別することはかならずしも容易なことではない. そこでここにはCSを1回投与したさいの白血球の動きと,連続投与したさいの白血球変動を,私どもの経験に諸家の報告を加味して解説したい.
著者
堀 忠雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1363, 2007-07-10

なぜ夢を見るのかという根本的なことはよくわかっていません.しかし,夢は毎晩誰もが見ており,夢を見ることはごく自然な生理心理現象と考えられています. 夢はノンレム睡眠とレム睡眠のどちらでも見ていますが,記憶に残る夢はレム睡眠中に現れます.鮮明で情動性に富んでおり,印象的です.レム睡眠中に起こして夢を見ていたかを尋ねると,見ていたという報告は80%以上になります.ノンレム睡眠ではこれが30%程度です.夢を「よく見る人」と「見ない人」の違いは,どちらの眠りから目覚めるかによっていると考えられています.目覚める直前の睡眠段階を調べた研究では,若い人(19~28歳)はレム睡眠から目覚める割合が全体の47%であるのに対して,高齢者(60~82歳)では27%でした.「年をとると夢を見なくなる」というのは,このような朝の目覚め方に関係しているのかもしれません.
著者
伊東 貞三
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1609-1611, 1972-07-10

全身性疾患のひとつである白血病は本来心臓原発性の病気ではない.従って心起電力を外からとらえた心電図は必ずしも白血病特異なpatternを示すとは限らないのである.しかしながら肝臓病におけるmyokardose心電図を始め内分泌疾患,筋疾患,腎疾患の際に心電図に変化のくることは従来よりよく知られた事実であり,白血病の際にも貧血,栄養障害,心筋内出血,心筋内細胞浸潤,電解質変化などが心電図に変化をおよぼす。また心膜炎,心嚢内滲出液貯留による心電図変化,心筋細胞内浸潤による心筋興奮伝導障害の報告もあり,稀には白血球塊による心筋硬塞も考えられる.今回は白血病によるこれらの因子が実際にどのような心電図を示すかを自験例を通じて述べてみることにする.
著者
伊東 直哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.2307, 2020-12-10

私が岡先生を尊敬する理由の一つに岡先生が素晴らしい教育者であるということがあります.岡先生は,自身が長い修行期間を経たのだからといって,教え子にも同じ期間の修行を要求するタイプの医師ではありません. さて,感染症科にご相談いただく症例のなかには,発熱に対して必要な培養検査のみならずアセスメント不在で抗菌薬が処方されているケースがわんさかあります.少しでも臨床感染症を勉強したことのある人にとっては,こういったプラクティスが間違いであることは明白です.しかし,こういった症例に対して正論を相手にゴリ押しすれば,面倒なやつだとレッテルを貼られ,コンサルトが来なくなり,感染症科はいずれ沈没してしまうでしょう.私自身もそういったケースの主治医に対してネガティブな感情をぶつけてしまったことがありました.しかし,現在では長期間および頻回に同様のケースに曝露された結果,耐性機序を獲得しネガティブな感情は排泄ポンプですぐに排除され,日々の表情筋のトレーニングで感情を抑えた顔を保持することができるようになりました.とはいえ,私が“悟り”を開くまでにはある程度の期間が必要であったのは事実であり,そこに至るまでにいくつものトラブルがありました.
著者
森 茂郎
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.25, no.10, pp.2052-2053, 1988-09-30

■診断基準 1)免疫芽球性リンパ節症(IBL)ないし血管免疫芽球性リンパ節症(AILD)の確定は病理組織学的診断による.すなわち,T・B両系統のリンパ球および非リンパ系細胞である好酸球,好中球,類上皮細胞を含む組織球など多種類の細胞により構成された病変があり,かつ間質を構成する要素である血管や濾胞の樹状突起細胞などの顕著な関与があり,これによってきわめて特徴的組織像を呈するものをこう呼ぶ.他方,胚中心の消失ないし極端な萎縮は本病変のnegative側の重要な組織学的特徴である1). 2)臨床的には全身の系統的リンパ節腫大,発熱,皮疹,肝・脾腫,多クローン性高ガンマグロブリン血症などの症状をみることが多いが,これらの有無は本症の確定診断のための必要条件とはならない.
著者
長洲 光太郎
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.8, no.9, pp.1422-1424, 1971-08-10

病人の要求に答えられるか こういう種類の本を読むのはわたしたち医者にとってむしろ苦痛であるだろう.触れたくない創をかきまわすのであるから.しかし毎日「死んでゆく患者」をみているわたしたちこそ,この種の本を読む必要があり,またその意味を正しく理解できるのではあるまいか.
著者
平山 幹生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.326-329, 2008-02-10

ポイント ●見逃しやすいしびれをきたす代表的疾患がある. ●しびれをきたす稀な病気:急性間欠性ポルフィリン症,Lyme病などがある. ●日常的に遭遇する疾患:胸郭出口症候群,過換気症候群などがある. ●最近注目されている疾患:新変異型Creutzfeldt-Jacob病,線維筋痛症などがある. ●心因性しびれの特徴を理解しておくとよい.