著者
青木 里紗 大坂 圭新 面田 真孝 酒井 潤一 石川 雄一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.56-63, 2009 (Released:2009-09-05)
参考文献数
29
被引用文献数
1 3

水晶振動子微小天秤(QCM)を,硫黄華から発生する硫黄蒸気による銀の非常に微少な腐食質量増加を温度,相対湿度,硫黄華-銀間距離の関数として,連続的に検出する手段として適用した.すべての試験において腐食は試験時間とともに直線的に進行した.腐食速度は温度の上昇につれて大きく増加したが,相対湿度にはほとんど依存しなかった.また腐食速度は硫黄華-銀間距離の増加につれて著しく減少した.これは硫黄蒸気の銀表面への拡散が銀の硫化物形成の初期過程を支配しているためと考えられる.これらの結果から本試験を電子機器に用いる銀の屋内腐食を模擬する簡単な腐食試験として提案するに至った.硫黄華を用いる本試験の二つの特徴は,第一に温度とともに硫黄の蒸気圧が大きく増加し,広範囲の硫黄蒸気濃度環境を創成できること,第二に銀の腐食速度を硫黄華と銀との距離で制御できることである.本試験での銀の腐食速度則(直線則)が実際のフィールドでの速度則と一致すること,そして生成する主要腐食生成物Ag2Sの化学組成,形態も一致することから,本試験がH2Sを含有する多成分流動混合ガス試験に比べて扱いやすく,再現性のよい,そして使いやすい試験であることを提案する.