著者
多 里英 公文 富士夫 小林 舞子 酒井 潤一
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-13, 2000-02-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
26
被引用文献数
6 5

青木湖周辺には,後期更新世から完新世にかけての,おもに河成や湖成の堆積物が断片的に分布しており,下位より藪沢層,崩沢層,神城砂礫層,佐野坂崩壊堆積物,青木湖成段丘堆積物,青木湖底堆積物に分けられる.指標テフラと岩相対比によって,それらの相互関係を明らかにした.佐野坂崩壊堆積物の上位には,Dpm火山灰層がのるとされていたが,それを再堆積物と判断し,周辺の地史を次のように推定した.藪沢層は,比較的広い谷の中を南がら北へ流れる蛇行河川によって形成された.その時代は5万年前以前の寒冷な時期である.約5万年前,その河川は狭い谷の中を流れる網状河川に変化した.この堆積環境の変化は,DKP火山灰層を挾む崩沢層と神城砂礫層中部が礫を主体とすることにより示されている.約3万年前に,西方の仁科山地で大規模な地すべり崩壊が起こり,佐野坂丘陵が形成された.この崩壊堆積物は川をせき止め,丘陵の南側に深い湖(青木湖)を形成した.佐野坂丘陵の北側の凹地には支谷からの堆積物供給が多く,徐々に埋積されて,現在の神城盆地を形成するようになった.
著者
栁瀨 幸紀 石川 雄一 酒井 潤一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.329-332, 2014-05-15 (Released:2014-12-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1

本研究は保温材下模擬環境における炭素鋼の腐食に及ぼす金属表面温度と濡れ時間の影響を明らかにすることを目的として行った.試料には炭素鋼SS400を用いた.保温材下模擬腐食試験は40℃~200℃の種々の温度に加熱したプレートヒーター上に試料を乗せ,その上にケイ酸カルシウム保温材を乗せ,その保温材に水分を注水することで行った.また,ACMセンサーを用いて保温材下模擬環境における金属表面の濡れ時間の推定を行った.試験の結果,金属表面温度が100℃以上では発錆が認められなかった.また,40℃~90℃では局所的に発錆が見られ,その侵食深さは温度の低下に伴い深くなった.これは,ACMセンサーによる保温材下金属表面の濡れ時間測定結果およびアレニウスの式による温度と腐食速度の関係より,温度の増大に比して濡れ時間の影響が大きいためであることが明らかになった.
著者
竹下 欣宏 三宅 康幸 酒井 潤一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.417-433, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
60
被引用文献数
7 8 3

古期御岳火山起源のテフラと上総層群中のテフラの対比を角閃石の化学組成値を用いて検討した.その結果,上総層群中の白尾テフラ(BYK)とKs12テフラが古期御岳火山のHサブステージのYUT4もしくは5と溶岩ステージの上浦沢テフラにそれぞれ対比できることが明らかになった.BYKとKs12は内陸地域と海岸地域を結ぶ重要な鍵テフラとなるだけでなく,特にBYKは更新世の前・中期境界の直上に位置するために,中部~関東地方において重要な時間基準面を提供すると考えられる. 上総層群中の9枚のテフラ(Ku6E, Ku5C, BYK, Ka2.4B, Ka2.4A, Ch3, Ch1.5, Ks18, Ks12)に含まれる角閃石の化学組成値はそれぞれ異なることを示した.さらに,黒富士火山,古期御岳火山のテフラも角閃石の組成値により明瞭に区別することができた.それらの結果は,その組成値がテフラの同定,対比の有効な指標になることを示している.
著者
迫 良輔 酒井 潤一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.402-409, 2012-10-15 (Released:2013-04-05)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

クロメート代替原料としてフェノール樹脂の皮膜形成と耐食性について検討した.樹脂の示差熱分析,皮膜の表面エネルギー測定,XPS,FT-IRを用いた皮膜特性解析を実施して亜鉛めっき鋼板上での皮膜形成のメカニズムと耐食性に及ぼす焼付け温度とリン酸添加の影響を明確にした.また,皮膜の分極測定結果から耐食性のメカニズムを推定した.80℃では凝集状態の樹脂が,熱エネルギーによってほぐれながら130℃以上の温度で自己架橋して緻密な皮膜を形成し,形成された皮膜は良好な耐食性を示すことがわかった.また,樹脂水溶液にリン酸を添加すると自己架橋温度以下の120℃焼付けでも良好な耐食性を示した.リン酸は樹脂の架橋を促進しており,また皮膜中に不溶化して取り込まれていることが確認された.架橋反応によって形成された緻密な皮膜がアノード反応とカソード反応を抑制し,さらに皮膜に取り込まれたリン酸がさらなる腐食抑制に働いたと考えられる.
著者
多 里英 公文 富士夫 小林 舞子 酒井 潤一
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-13, 2000-02-01
参考文献数
26
被引用文献数
2 5

青木湖周辺には,後期更新世から完新世にかけての,おもに河成や湖成の堆積物が断片的に分布しており,下位より藪沢層,崩沢層,神城砂礫層,佐野坂崩壊堆積物,青木湖成段丘堆積物,青木湖底堆積物に分けられる.指標テフラと岩相対比によって,それらの相互関係を明らかにした.佐野坂崩壊堆積物の上位には,Dpm火山灰層がのるとされていたが,それを再堆積物と判断し,周辺の地史を次のように推定した.<br>藪沢層は,比較的広い谷の中を南がら北へ流れる蛇行河川によって形成された.その時代は5万年前以前の寒冷な時期である.約5万年前,その河川は狭い谷の中を流れる網状河川に変化した.この堆積環境の変化は,DKP火山灰層を挾む崩沢層と神城砂礫層中部が礫を主体とすることにより示されている.約3万年前に,西方の仁科山地で大規模な地すべり崩壊が起こり,佐野坂丘陵が形成された.この崩壊堆積物は川をせき止め,丘陵の南側に深い湖(青木湖)を形成した.佐野坂丘陵の北側の凹地には支谷からの堆積物供給が多く,徐々に埋積されて,現在の神城盆地を形成するようになった.
著者
面田 真孝 大鹿 泰造 酒井 潤一 石川 雄一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.358-365, 2008-08-15 (Released:2009-03-17)
参考文献数
24
被引用文献数
1 3

加硫ゴムから放出される硫黄ガス種による銀の微小硫化腐食に影響を与える腐食要因をQCM法,定電流カソード還元法を用いて調べた.同定できた腐食生成物は,Ag2Sのみであった.また,腐食は時間と共に線形で進行し,腐食速度は温度,ゴムの体積には依存するが,相対湿度には依存しなかった.さらに腐食速度は,ゴムの種類により異なる上,同一のクロロプレンゴム間で比較しても製品により異なることを明らかにした.これらから,加硫ゴムによる銀の腐食挙動は,ゴム中の遊離硫黄を発生源とする硫黄ガスにより決定されるものと考えられる.そして,硫黄ガスのアウトガスはゴム中の遊離硫黄分子Sx(x=2~8)の拡散が支配し,この拡散過程が銀の腐食速度を決定しているものと推察される.
著者
富樫 均 酒井 潤一 公文 富士夫
出版者
長野県自然保護研究所
雑誌
長野県自然保護研究所紀要 (ISSN:13440780)
巻号頁・発行日
no.2, pp.33-41, 1999
被引用文献数
1

飯綱火山南東麓に位置する逆谷地湿原において堆積物の採取と分析をおこなった.逆谷地湿原は標高約934メートル,面積約4ヘクタールのミズゴケ湿原である.湿原内でのボーリングにより,約13mの厚さの湿原堆積物を採取し,堆積物の記載をおこなった.堆積物は大部分が連続する泥炭層からなり,泥炭層中には多数の薄い火山灰層が狭在する.この試料について,14C年代測定と火山灰層の対比をおこなった.その結果,広域火山灰層である阿蘇4火山灰(Aso-4)ならびに大山倉吉火山灰(DKP)が確認され,泥灰層の堆積の開始は約10万年前にまでさかのぼることが明らかになった.10万年の寿命をもつ生きている湿原の存在は非常にめずらしいものであり,この湿原に記録されている環境変遷史と生態系の成り立ちを明らかにするために,さらに詳細な分析が予定されている.
著者
富樫 均 酒井 潤一 公文 富士夫
出版者
長野県自然保護研究所
巻号頁・発行日
vol.2, pp.33-41, 1999 (Released:2011-03-05)

飯綱火山南東麓に位置する逆谷地湿原において堆積物の採取と分析をおこなった.逆谷地湿原は標高約934メートル,面積約4ヘクタールのミズゴケ湿原である.湿原内でのボーリングにより,約13mの厚さの湿原堆積物を採取し,堆積物の記載をおこなった.堆積物は大部分が連続する泥炭層からなり,泥炭層中には多数の薄い火山灰層が狭在する.この試料について,14C年代測定と火山灰層の対比をおこなった.その結果,広域火山灰層である阿蘇4火山灰(Aso-4)ならびに大山倉吉火山灰(DKP)が確認され,泥灰層の堆積の開始は約10万年前にまでさかのぼることが明らかになった.10万年の寿命をもつ生きている湿原の存在は非常にめずらしいものであり,この湿原に記録されている環境変遷史と生態系の成り立ちを明らかにするために,さらに詳細な分析が予定されている.
著者
紀岡 秀征 古山 勝彦 三宅 康幸 酒井 潤一 長尾 敬介 池元 壮彦 野入 久幸 小田 貴代美
出版者
The Association for the Geological Collaboration in Japan
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.464-474, 1998-11-25 (Released:2017-07-11)
被引用文献数
2

御岳火山中部更新統樽沢累層の溶岩47試料のK-Ar年代を測定した結果,古期御岳火山の火山活動は0.78±0.14 Ma〜0.39±0.006 Maの間である.年代データのそれぞれは,野外で観察された溶岩やテフラの層序関係と調和している.火山活動は,ステージ1(0.78-0.59 Ma)と2(0.53-0.39 Ma)に分けられ,ステージ1はさらに1a(0.78-0.71 Ma),1b(0.71-0.66 Ma)及び1c(0.66-0.59 Ma)に細分される.サブステージ1a,1bには主として玄武岩や安山岩の活動があり,サブステージ1c以降には安山岩やデイサイトが主体となっている.サブステージ1a,1bにはサブステージ1c以降に比べて非常に多くの泥流堆積物が含まれる.この岩相変化は,おそらく火山体の成長と関連している.すなわち,火山成長の初期には,流出した溶岩が各所で流水を堰き止め,できた湖の水とマグマとの相互作用の結果,大量の火山砕屑物が生産された.後には地形の低所は埋め立てられて,さらに粘性の高い溶岩が傾斜の大きな山体を作った結果,火山砕屑物質の生産は終わり,たとえあったにしても急勾配の調査範囲内には堆積しにくくなった.火山体がほぼ円錐状に成長したため,上述した岩相変化のタイミングは円錐火山体の全方向でほぼ一敦する.溶岩に挟在される以下の指標テフラの年代も溶岩の年代から決定できた.それらは,寒原Pm.I:0.70-0.65 Ma,寒原Pm.II:0.67-0.65 Ma,白布沢Pm.:0.61-0.58 Maである.
著者
小川 登志男 小田 哲郎 酒井 潤一
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.855, pp.17-00005-17-00005, 2017 (Released:2017-11-25)
参考文献数
20

We investigated differences in the hydrogen thermal desorption mechanism for Ni-Ti superelastic alloys following hydrogen charging by cathodic charging in a 0.9% NaCl aqueous solution and by immersion testing in a 0.2% APF aqueous solution. For the immersed specimen, the presence of corrosion products on the surface resulted in an upward shift of the hydrogen desorption peak by approximately 100 °C. When the total amount of desorbed hydrogen was almost the same for both specimens, a higher fraction was desorbed at temperatures below 200 °C for the cathodically charged specimen. Furthermore, a larger amount of hydride was formed for the cathodically charged specimen. These results indicate that the hydrogen thermal desorption mechanism depends on the presence of corrosion products on the surface and the amount of hydride formed.
著者
岩井 四郎 木下 房男 木内 一巳 小松 ★ 仁科 良夫 大木 正夫 島田 安太郎 千村 重平 梅村 弘 阿高 康行 遠藤 輝 藤田 敬 郷原 保真 石橋 俊明 石田 聖 小坂 共栄 熊井 久雄 三上 進 三谷 豊 水野 学 岡部 孝次 酒井 潤一 沢村 寛 下野 正博 新海 正博 杉山 茂 田辺 芳宏 田中 俊広 渡辺 晃二 山下 昇 矢野 孝雄 吉野 博厚
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.7, pp.297-304, 1972-12-25
被引用文献数
8

The Matsumoto Basin Research Group was organized in March, 1971, to clarify the geological history of the Matsumoto Basin. The results of studies obtained during the last year are as follows. 1) A geological map on the Quaternary of the Matsumoto Basin was constructed for the first time. 2) The crystal ash beds in the Nashinoki Loam Formation are correlated to the so-called biotite pumice beds (B_1, B_2, B_3) around Yatsugatake Volcano, while the crystal ash may had been erupted from the volcano around Kumonotaira to the north of Mt. Mitsumatarenge in the midst of the granitic rock area of the Japanese Northern Alps. 5) The Nashinoki Gravel Formation is the products of the first, large scale deposits filling up of the Basin with gravel. It shows that the formation of the Basin set out first in that age. 4) Simultaneously with the accumulation of the Nashinoki Gravel (or the subsidence of the Basin), the Northern Alps began to rise and the peculiar volcano (with the crystal ash) started its activity.
著者
竹下 欣宏 三宅 康幸 酒井 潤一
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.417-433, 2005-07-15
被引用文献数
3 8

古期御岳火山起源のテフラと上総層群中のテフラの対比を角閃石の化学組成値を用いて検討した.その結果, 上総層群中の白尾テフラ(BYK)とKs12テフラが古期御岳火山のHサブステージのYUT4もしくは5と溶岩ステージの上浦沢テフラにそれぞれ対比できることが明らかになった.BYKとKs12は内陸地域と海岸地域を結ぶ重要な鍵テフラとなるだけでなく, 特にBYKは更新世の前・中期境界の直上に位置するために, 中部〜関東地方において重要な時間基準面を提供すると考えられる.上総層群中の9枚のテフラ(Ku6E, Ku5C, BYK, Ka2.4B, Ka2.4A, Ch3, Ch1.5, Ks18, Ks12)に含まれる角閃石の化学組成値はそれぞれ異なることを示した.さらに, 黒富士火山, 古期御岳火山のテフラも角閃石の組成値により明瞭に区別することができた.それらの結果は, その組成値がテフラの同定, 対比の有効な指標になることを示している.
著者
酒井 潤一 横山 賢一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、不働態皮膜により高耐食性を有する合金の腐食に伴う水素吸収から脆化に至るまでの全体像の特徴とメカニズムについて、電気化学的観点と材料強度学的観点を相互に関連させて複合的に調べ明らかにした。得られた種々の知見は、使用環境中における金属や合金の安全性・信頼性のさらなる向上のための材料評価法及び新しい合金開発のための指針の一つとして期待されることを示した。
著者
新井 健司 石井 久夫 伊藤 孝 内田 克 遠藤輝 岡部孝次 熊井 久雄 小菅 範昭 近藤 洋一 郷原 保真 酒井 潤一 斎藤 義則 塩野 敏昭 島田 安太郎 下野 正博 隅田 耕治 角谷 邦明 関口 尚志 田中 俊廣 趙 哲済 中西 一裕 中島 豊志 中村 由克 林田 守生 松本 俊幸 三谷 豊 柳沢 文孝 山本 裕之 吉野 博厚
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.14, pp.93-102, 1977-02-21
被引用文献数
11

A wide-spread lake assumed to be larger than the recent Matsumoto Basin had existed in Early Pleistocene, and the Enrei Formation and its equivalent formations had been deposited in the lake. An extensively even erosion surface formed on the sediments in the latest Early Pleistocene is called the Ohmine geomorphologic surface. After the formation of the Ohmine surface, the recent mountainous areas such as the Northern Japan Alps, Mt. Hachibuse, Mt. Utsukushigahara and so on had been upheaved, while the Matsumoto Basin area had been depressed and the Nashinoki Gravel Formation, the upper Middle Pleistocene, had been deposited. The base of the Enrei Formation is 1,800 m above sea level in Mt. Hachibuse, while 700 m above sea level in the southern part of the Basin. The amount of upheaval of the mountainous areas can be estimated to be more than 1,000 m. The Matsumoto Basin area had been depressed again in the middle part of the Upper Pleistocene (about 40,000 years B. P.) and the Hata Gravel Formation had been deposited. The amount of depression may be estimated to be about 150 m in the eastern periphery of the middle part of the Basin.
著者
青木 里紗 大坂 圭新 面田 真孝 酒井 潤一 石川 雄一
出版者
公益社団法人 腐食防食学会
雑誌
Zairyo-to-Kankyo (ISSN:09170480)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.56-63, 2009 (Released:2009-09-05)
参考文献数
29
被引用文献数
1 3

水晶振動子微小天秤(QCM)を,硫黄華から発生する硫黄蒸気による銀の非常に微少な腐食質量増加を温度,相対湿度,硫黄華-銀間距離の関数として,連続的に検出する手段として適用した.すべての試験において腐食は試験時間とともに直線的に進行した.腐食速度は温度の上昇につれて大きく増加したが,相対湿度にはほとんど依存しなかった.また腐食速度は硫黄華-銀間距離の増加につれて著しく減少した.これは硫黄蒸気の銀表面への拡散が銀の硫化物形成の初期過程を支配しているためと考えられる.これらの結果から本試験を電子機器に用いる銀の屋内腐食を模擬する簡単な腐食試験として提案するに至った.硫黄華を用いる本試験の二つの特徴は,第一に温度とともに硫黄の蒸気圧が大きく増加し,広範囲の硫黄蒸気濃度環境を創成できること,第二に銀の腐食速度を硫黄華と銀との距離で制御できることである.本試験での銀の腐食速度則(直線則)が実際のフィールドでの速度則と一致すること,そして生成する主要腐食生成物Ag2Sの化学組成,形態も一致することから,本試験がH2Sを含有する多成分流動混合ガス試験に比べて扱いやすく,再現性のよい,そして使いやすい試験であることを提案する.