著者
山城 大 相原 正男 小野 智佳子 金村 英秋 青柳 閣郎 後藤 裕介 岩垂 喜貴 中澤 眞平
出版者
The Japanese Society of Child Neurology
雑誌
脳と発達 (ISSN:18847668)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.372-377, 2004

交感神経皮膚反応 (sympathetic skin response; SSR) は情動表出反応として出現することが報告されている.情動機能を評価する画像をオリジナルに作製し, これらを視覚刺激として呈示した際に出現するSSRについて健常小児と健常成人で比較検討した.小児では成人に比し高いSSR出現率を認めた.さらに, 不快な画像におけるSSR出現率は, 成人では生理的に不快な画像に比し暴力行為などの非社会的画像で有意に高かったが, 小児においては両者に明らかな差異を認めなかった.このことから, 小児期から成人にいたる情動的評価・意義の相違と変化は, 情動発達に伴う推移を示すものと思われる.情動の客観的評価に視覚刺激によるSSRが有用であると考えられる.
著者
青柳 閣郎 相原 正男
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.109, 2013 (Released:2017-04-12)

前頭葉、とくに前頭前野の社会生活における重要性が指摘されている。今回、発達途上の小児と、社会生活の困難さを示すことの多い発達障害児における前頭葉機能の評価を、これまでの我々の研究を中心に紹介する。進化の過程で、前頭前野の大きさはその種の群れの大きさ、すなわち社会の規模に比例しているとされている。また、個体発生は系統発生の過程を再現するといわれている。我々は、ヒトの前頭前野が前頭葉に占める体積の割合が、10歳前頃から急増しはじめ、20歳頃まで増加し続けることを報告した。それはあたかも、家庭から学校、社会へと、人間関係がより複雑になってゆくヒトの社会生活に前頭前野の成長が対応しているかのようである。社会生活に重要な前頭葉機能は、行動抑制、作業記憶、実行機能の順に萌芽してくる。行動抑制とは、将来のより大きな報酬を得るために、目前の刺激に対する反応を抑制する能力である。ヒトは、2 歳頃から行動抑制による動機づけが可能となるが、このとき行動抑制を喚起する生体内信号が情動性自律反応であり、その評価により行動抑制能力の発達や障害の推測が予想できると思われる。我々は、交感神経皮膚反応を用いて健常小児、情動回路損傷症例、発達障害児の情動性自律反応を評価し、健常小児で認めた反応が、情動回路損傷症例や発達障害児で低下していたことを明らかにした。発達障害児における情動性自律反応による行動抑制機能低下の可能性が示唆された。さらに我々は、成人、健常小児、発達障害児、情動回路損傷症例に、強化学習課題遂行中の交感神経皮膚反応を計測し、情動の意思決定への関与を検討した。その結果、健常小児は成人に比し、学習効果が有意に低く、情動反応も未分化であった。また、発達障害児、情動回路損傷症例はともに、学習効果、情動反応が健常小児よりも低かった。これは、情動による意思決定への関与の発達的変化と、発達障害児の情動反応低下による強化学習への影響を示すものと思われた。作業記憶は、必要な情報を必要な間だけ保持し必要なくなったら消去する機能であり、5 歳頃までに獲得し始める。その評価に衝動性眼球運動が有効とされる。我々は、衝動性眼球運動を用いて健常小児、発達障害児を評価し、作業記憶の発達的変化と、干渉制御失敗と衝動性による発達障害児の作業記憶障害を報告した。実行機能は、既に学習された知識・経験、新たに知覚された様々な情報を統合して、目標に向けた思考や行動を組み立てて意思決定する能力であり、7歳頃より芽生える。我々は、前頭葉における実行機能の左右差を評価する神経心理学検査を健常成人、健常小児に施行し、機能的脳画像や脳波周波数解析も交えながら、実行機能に関与する脳部位の時間・空間的変化と、発達的変化を報告した。さらに、発達障害児における実行機能の障害を考察した。