著者
須崎 成二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.72-87, 2019 (Released:2022-09-28)
参考文献数
30
被引用文献数
4 1

本研究は,日本の地理学では実証研究が乏しいセクシュアリティに着目し,ゲイ男性の新宿二丁目に対する場所イメージを,彼らの実践および経験に基づいて検討したものである.首都圏に居住するゲイ男性24名への聞取り調査を行った結果,オンラインツールなどによるゲイ男性同士の新たなつながりの創出は,新宿二丁目のゲイバー利用を妨げるわけではないことがわかった.また,新宿二丁目ではマスメディアなどの影響によって異性愛者の流入もみられるが,それに対してゲイ男性は拒絶と受容の相反する認識を持っている.ゲイ男性の多くは,安心してセクシュアリティを解放できる特別な場所として新宿二丁目を肯定的にとらえているとはいえ,その特殊性の認識には人間関係の構築や自己の確立に伴う変化がみられた.
著者
須崎 成二
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.16-27, 2019-03-15 (Released:2020-04-22)
参考文献数
15
被引用文献数
3

本稿は,日本最大のゲイバー集積地である新宿二丁目を対象として,ゲイ・ディストリクトの発達モデルを参照しながら,ゲイ・ディストリクトの空間的特徴と存続条件を検討した.ゲイバーの立地傾向の分析,ゲイバー経営者やテナント供給者への聞き取り調査の結果,新宿二丁目では,ゲイバーの経営方針によって店舗の立地に差異がみられ,コストを抑えるリース店舗の存在やカミングアウトの軽減,物件供給に携わるキーパーソンの存在によって維持されている一方で,ゲイ・ディストリクトの消失につながる地域住民との緊張関係も潜在的に存在していることが明らかになった.ゲイ・ディストリクトとしての新宿二丁目は,発達モデルおよびそのモデルに対する批判的論文において示された特徴を部分的に有しており,このことは各都市のゲイ・ディストリクトをより広い枠組みで解釈する必要があることを示唆している.
著者
須崎 成二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.46, 2019 (Released:2019-09-24)

レズビアンの地理学的研究は,レズビアンが空間的領域を求めないというCastellsの主張に対する批判をめぐって展開してきた.Browne(2017)は,レズビアンの地理学がセクシュアリティだけでなく権力の問題にも着目する必要性を指摘しており,Pritchard et al.(2002)はゲイ・ディストリクトにおけるレズビアンの排除を議論している.本報告では,ゲイバーが集積する新宿二丁目のゲイ・ディストリクトにおいてレズビアンがいかにゲイと共存しているのか,いかに彼女らが排除もしくは危険性にさらされているかを明らかにすることを目的とする.首都圏に居住するレズビアン24名にスノーボールサンプリングによる半構造化面接を行った結果、英語圏で報告されるゲイ・ディストリクトにおけるレズビアンおよびレズビアンバーの排除は,新宿二丁目で得た本研究の知見との間で共通点もあるが限定的であり,レズビアンバー同士もしくはゲイバーとのつながりは,レズビアンバーの集積を維持し共存していくうえで重要な要素であると考えられる.一方で,ゲイ・ディストリクトにおける異性愛男性の存在は,空間を異性愛化させ,レズビアンにとっての安心感,安全性を低下させている.