著者
飯室 勇
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.183-189, 1956
被引用文献数
1

1.サトウダニは各種の品質の市販砂糖のうち精製度のすぐれたグラニュー糖, 上白などには全く繁殖をみず, 水分, 窒素分, 灰分などの不純物含量の高い粗製品, 即ち, 三温, 中白, 黒砂糖などには至適温度(25〜28℃)及び至適湿度(ほゞ75%R.H.)においてはおびたゞしく繁殖し, 約1カ月後には1gにつき500疋以上時には900疋も見出されるほどの密度に達する.2.25℃の至適温度において三温砂糖における繁殖と湿度の関係を各種の過飽和塩類溶液による調湿装置により検討した結果, 純水(100%R.H.), KNO_3(ほゞ92%R.H.), KCl(ほゞ84%R.H.)の環境においては砂糖がすみやかに醗酵してダニの増殖をみず, NaCl(ほゞ75%R.H.)の環境ではおびたゞしい増殖がみられたが, K_2CO_3(ほゞ42%R.H.)の環境にあつては乾燥が甚しくダニは忽ち死滅し, 醗酵も起らず, 長く砂糖が良好な状態に保存されることを知つた.3.三温を至適湿度, 即ち過飽和食塩水で調湿した容器に入れ, 色々な段階の温度に調節した恒温器内に保存してサトウダニの繁殖状況をしらべた結果, 37℃では速に死滅するが, 28℃においては凡そ40日後に1gあたり約900疋の最高密度に達して以後次第に減少し, 25℃, 20℃, と温度が下るにつれてその増殖はおそく, 最高密度も低くなるが長期にわたり繁殖がつづき, 10℃以下ではほとんど増殖を認めないことが見出された.4.砂糖の品質, 湿度及び温度が好適な条件においてサトウダニが増殖を始めると, その発育期別の構成(幼虫, 前若虫, 後若虫, 成虫)が逐次変遷してゆき, 先ず幼虫が高い比率を占める"若い集団"の時期が現れるが, 繁殖が限度に達し, やがて総個体数が減少し始めると"集団の老化"が起つて幼虫が少く比較的後若虫の多い集団に変つてゆく.
著者
飯室 勇
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.27-37, 1956
被引用文献数
1

1.チョコレート, チーズ, 米などで繁殖と温度, 湿度の関係を検討した.繁殖の適温, 適湿は概ね25℃, 75〜84%R.H.である.これは餌料の性状や保水量による差異を考慮にいれても, 許容範囲は極く狭いものと考えられる.2.高温の影響を顕微鏡用加温装置及び熱電堆を用い実験した.高温に対する抵抗は従来想像されていたより甚だ弱く, 35℃以上は致死高温帯であり, 50℃, 47℃では瞬間的に死滅する.3.低温の影響はその繁殖度, 生存期間などによつて観察した.1〜5℃, 76%R.H.の低温環境では繁殖は認められず活動も停止する.5週間後の生存率は25%で, その67.6%は後若虫である.後若虫は耐寒性が著しく強く, この時期が主な越冬形態かと考えられる.4.硝子管の両端に各種の過飽和塩類溶液を使用して異つた湿度を与えた実験では, ケナガコナダニは21〜22℃で75〜84%R.H.を最も選好する.5.20℃, 75%R.H.でチーズにより行つた繁殖と発育期別調査では, 新しい環境におかれた集団は3週間で若返りの現象を呈し, 25日後には成虫を主とした集団となつた.1カ月後には平衡状態となり以後は繁殖力の微弱となる傾向をみせ, 漸次集団は老衰してゆくのが認められた.6.ダニの重量を計量し, 這い出し個体の成虫集団では1gに104, 947のダニを算えた.本論文の一部要旨は1955年4月京都に於ける第14回日本医学会総会第7回日本衛生動物学会で発表した.本研究を指導された佐々学助教授, 実験に協力をえた田中寛, 林滋生, 緒方一喜, 鈴木猛, 三浦昭子氏らに深謝する.
著者
嶌原 康行 飯室 勇二 河田 則文 山岡 義生
出版者
京都大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

【目的・方法】PDGFシグナルは肝星細胞の増殖に関与するが、NACによる肝線維化の防止効果とその機序について検討した。ラット肝から星細胞を分離し、PDGF刺激下の細胞内シグナル伝達をWestern blotで、RNAをNorthern blotで解析した。蛋白分解酵素阻害剤;E64、leupeptin、pepstatin A、CA074にて、蛋白分解の機序を解析した。チオアセトアミド肝線維症ラット、胆管結紮ラットに対して、NAC(100mg/body)を毎日6週間投与した。また、6週間TAA投与後、NACを投与した。【結果】NACのチオール基によってPDGFレセプターのヂスルフィド結合を解離し、星細胞から細胞外へ分泌しているカテプシンBによってPDGFレセプターを分解することが明らかとなった。また、このNACの分解作用は、TGF-betaレセプターIIやN-CAMなどのIgGタイプの細胞表面タンパクにも認められた。さらに、PDGFレセプターの分解により、それ以降の細胞内シグナルを抑制し、星細胞の増殖を抑える。また、これは血管平滑筋細胞でも認められた。さらに、チオアセトアミド誘導肝線維化モデル、胆管結札ラットでNACが抗線維化効果を発揮することを確認した。【考察】NACのレセプター分解という新たな作用を発見し、それによってシグナルを抑えることが明らかになった。通常は、細胞外は酸化状態であり、カテプシンBは不活化しているが、NACの投与により、細胞外を還元することにより、カテプシンBを活性化させると考える。また、NACの抗線維化作用は、カテプシンBのコラーゲン分解作用も加味していると考えられる。以上より、我々はNACが分泌カテプシンBを利用してPDGFレセプター、TGF-betaレセプターIIの細胞外分解を誘起することを確立し、その作用が肝線維化治療に効を奏することを発見した。