- 著者
-
首藤 恵
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.1, pp.55-70, 1994-04-25
この研究の目的は,1980年代後半に急成長を経験したアジアNIESおよびASEAN地域の主要な8株式市場を対象として,この時期に各国で進められた需給両面への市場育成政策が価格形成に与えた影響を,市場制度デザインと市場構造の適合性という視点から実証分析することにある。分析の方法は,日別株式収益率および週別株式収益率を用いた分散比テストによって短期株価形成の歪みを検出し,さらにその結果をもとに,市場構造要因と関連する証券市場政策が短期株価形成に与えた影響を,パネル・データを用いた重回帰分析によって検証する。主なファクト・ファインディングは次の3点である。(1)証券投資需要の活発化は,時価総額の増大と売買の集中をもたらし,短期的な株価変動を増幅した。積極的な株式公開政策が実質的な株式供給に必ずしも結びつかず,投資需要の拡大に十分に対応できなかったからである。(2)取引所売買システムの機械化は,取引の迅速化と売買量の増加に寄与したとしても,市場の厚みと広さなど流動性供給に寄与したとはいえない。これらの市場で短期的な株価変動が大きい一つの理由は,流動性供給とリスク負担を担う,情報力と資本力を装備した証券業者が十分に存在しないままに,売買システムの効率性と市場規模の拡大が追求された点にある。(3)NIES市場では日々の株価変動が高まるほど短期株価は過剰反応し,ASEAN市場では逆に価格調整が遅れる煩向かある。それぞれの市場の価格形成プロセスの課題が指摘される。