著者
川嶋 太郎 当麻 美樹 高岡 諒 佐野 秀 高橋 晃 伊藤 岳 小野 雄一郎 小野 真義 馬越 健介
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.267-272, 2014-07-20 (Released:2014-07-20)
参考文献数
11

びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic hyperostosis:DISH)にともなう腰椎骨折が原因で腰動脈損傷を生じ,大量後腹膜出血より腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:ACS)をきたした1例を報告する. 症例は77歳男性,歩行中の転倒による腰痛で近医受診後転院となった.造影CTで第2腰椎椎体の水平骨折とDISHによる骨増殖部の直接損傷と思われる腰動脈損傷,大量後腹膜出血を認めた.直ちに経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)を施行したが,膀胱内圧の上昇(39mmHg)に加え呼吸循環障害も出現しACSを合併した.緊急減圧開腹術後にsilo+vacuum packing closureによるopen abdomen managementを施行しACSを解除した.その後,観血的腰椎後方固定術を行い,神経学的後遺症を残すことなく72病日に軽快転院となった.
著者
白川 洋一 前川 聡一 西山 隆 岡 宏保 馬越 健介 菊地 聡 大坪 里織
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.8, pp.288-296, 2004-08-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7
被引用文献数
2

病院常駐型ドクターヘリが全国7箇所に配備されたが,多くの地域は消防防災ヘリコプターを救急搬送に兼用している。しかし,防災ヘリを用いるピックアップ型ドクターヘリには運用上の問題点が多い。その解決策を模索するため,愛媛県の山間部を管轄する一消防本部(上浮穴消防本部)を対象に,ピックアップ型ドクターヘリの需要および運用条件を詳細に調査した。調査地域(人口15,849名)における2年間(2000~2001年)の搬送1,249件のうち,CPAを除く昼間帯の重症者229例(1年間1万人当り72.2例)を潜在的ヘリ適応とした。域内を44地区に分割し,各地区ごとに事案発生から松山市の高次病院までの陸上搬送時間(走行時間の合計)と,ピックアップ型ドクターヘリによる搬送の推定所要時間を比較した。そのさい,防災ヘリの遅い出足を考慮して,現地消防がヘリ出動を要請するタイミングを(1)覚知時点,(2)救急隊の現着時点,(3)地元医療機関への収容時点の三つと仮定し,それぞれにつき,各地区ごとに最適化された経路を設定した。ヘリ適応例のうち,陸上搬送とヘリ搬送の時間差が20分以上40分未満は,覚知時要請で17.0例(1年間1万人当り,以下同じ),現着時要請で6.3例あった。40分以上は,覚知時要請で9.5例,現着時要請で0.9例あった。地元医療機関収容後にヘリ出動を要請すると,陸上搬送より長くかかる場合が多かった。病院到着までの時間短縮だけが医師の搭乗した救急ヘリ搬送の利点ではないが,その効果を期待できなければ,防災ヘリをピックアップ型ドクターヘリとして利用する動機は弱まる。その解決策は早い要請(119番覚知時にヘリの準備を要請する第一報を送り,現場に到着した救急救命士が患者観察後に続報する)であり,メディカルコントロール体制を基盤にして,簡明なヘリ要請ガイドラインなどシステム整備が不可欠である。