著者
駒村 智史 草野 拳 爲沢 透 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0611, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに・目的】肩関節水平内転や内旋可動域の制限因子として挙げられる肩関節後方の軟部組織の伸張性低下は一般的に肩関節後方タイトネスと呼ばれている。肩関節後方タイトネスは,上腕骨頭の前方偏位が関わるインピンジメントや内旋可動域の制限と関連することが示唆されており,その一因として棘下筋の柔軟性低下が挙げられている。先行研究により,棘下筋のストレッチング方法として,肩甲骨を固定し肩関節を水平内転する方法(cross-body stretch)が推奨されている。筋硬度の低下や関節可動域の増加といったストレッチ効果は実証されているが,上肢挙上動作などの肩甲骨が関わる動作において棘下筋に対するストレッチングが肩甲骨運動に及ぼす影響は不明である。そこで本研究の目的は,棘下筋のスタティックストレッチング(SS)による棘下筋の柔軟性向上が上肢挙上時の肩甲骨運動に与える影響を明らかにすることとした。【方法】対象は健常若年男性15名(22.3±1.2歳)の非利き手側上肢とした。SSは上記のcross-body stretchとし,SS時間は3分間とした。SS前後において,6自由度電磁気式動作解析装置(Liberty;Polhemus社製)を用いて肩関節屈曲運動時の肩甲骨運動(外旋,上方回旋,後傾)を計測した。SSによる棘下筋柔軟性向上の指標には超音波診断装置(Aixplorer, Supersonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能より算出される弾性率を用いた。弾性率は低値を示すほど筋の柔軟性が高いことを意味する。棘下筋の弾性率がSS前(pre)に比べ,SS直後(post1)とSS後の肩甲骨運動計測後(post2)に低値を示すことを包含基準とし,計9名を解析対象とした。統計解析は,10度毎の各肩関節屈曲角度における肩甲骨角度より,時期(SS前,SS後),角度(30~120度)の2要因による反復測定二元配置分散分析を行った。主効果を認めた場合は事後検定としてBonferroni法による多重比較およびt検定を行った。有意水準は5%とした。【結果】各弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はpreが34.2±7.4,post1が28.6±7.3,post2が29.2±8.4であり,preに対し,post1,post2において有意に低値を示した。二元配置分散分析の結果,肩甲骨外旋において時期における主効果を認めた。事後検定の結果,SS前に対し,上肢挙上30-80°においてSS後に有意に外旋角度が増大した。また,肩甲骨上方回旋と後傾に関しては,交互作用および時期における主効果を認めなかった。【結論】Cross-body stretchにより棘下筋の弾性率が低下すると,上肢挙上動作時の肩甲骨外旋角度が増大することが明らかとなった。これより,cross-body stretchが,上肢挙上運動時の肩甲骨運動の改善に有効である可能性が示唆された。
著者
駒村 智史 梅原 潤 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-107_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】肩甲骨は、投球動作を行う上で重要な役割を担っている。投球動作時の肩関節最大外旋位(MER)では肩や肘の関節にかかる力が大きくなるとされており、その力を軽減させるためにも、MERにおける肩甲骨運動は重要である。野球選手の肩関節機能において、安静時の肩甲骨肢位の評価や、肩関節90°外転位(肩2nd)での外旋可動域の評価は一般的に用いられているが、それらの肢位における肩甲骨の角度と、実際の投球時の肩甲骨角度との関連を明らかにしたものはない。本研究の目的は、安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と投球動作のMERにおける肩甲骨角度との関連を明らかにすることとした。【方法】大学生野球選手21名を対象とした(年齢20.7±0.9歳、身長169.8±6.2cm、体重65.6±9.7kg)。安静時および肩2nd外旋時、投球動作時の肩甲骨角度を計測した。肩甲骨角度は、6自由度電磁気式動作解析装置(Liberty;Polhemus社製)を使用し、肩甲骨の外旋、上方回旋、後傾の各角度を計測した。安静時の計測は、座位にて上肢下垂位で5秒間姿勢保持した。肩2nd外旋時の計測は、肩90°外転位にて他動的に外旋し、伸張感が疼痛に変わる直前の強度で5秒間静止した。安静時、肩2nd外旋時ともに、解析には中間の3秒間の平均値を使用した。投球動作時の肩甲骨角度の計測については、全力投球を行い、投球中に上腕骨が最大外旋位となった時点をMERと定義し、MERでの肩甲骨角度を用いた。投球動作は3回行い、MERでの肩甲骨角度の3回の平均値を解析に使用した。統計解析には、Peasonの相関分析を用いて、肩甲骨外旋、上方回旋、後傾それぞれについて、安静時の肩甲骨角度とMERでの肩甲骨角度との相関および肩2nd外旋時の肩甲骨角度とMERでの肩甲骨角度との相関を分析した。有意水準は5%未満とした。【結果】安静時とMERでの肩甲骨角度の相関は、上方回旋(r=0.632, p=0.002)、後傾(r=0.670, p=0.001)はそれぞれ有意な相関がみられた。肩甲骨外旋角度については有意な相関がみられなかった(p=0.907)。また、肩2nd外旋時とMERでの肩甲骨角度の相関は、外旋(r=0.543, p=0.011)、上方回旋(r=0.894, p=0.000)、後傾(r=0.718, p=0.000)全てに有意な相関がみられた。【考察】MERにおける肩甲骨角度は、安静時の肩甲骨外旋角度を除き、安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と関連があることが明らかとなった。安静時の肩甲骨外旋角度に相関がみられなかった原因として、肩甲骨外旋角度は上肢の挙上面の影響を受けやすく、MERの上肢挙上面が安静肢位の肩甲骨面と異なると考えられる。本研究の結果から、MERでの肩甲骨角度は、肩2nd外旋時の肩甲骨角度とより強い関連があり、MERにおける肩甲骨角度の評価には肩2nd外旋肢位での肩甲骨角度の評価がより有効である可能性が示唆された。【結論】安静時および肩2nd外旋時の肩甲骨角度と投球動作時のMERにおける肩甲骨角度に相関がみられることが明らかとなった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、本学の医の倫理委員会の承認(C1247-1)を得て実施した。対象者には紙面および口頭にて研究の趣旨を説明し、同意を得た。
著者
駒村 智史 草野 拳 爲沢 透 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに・目的】</p><p></p><p>肩関節水平内転や内旋可動域の制限因子として挙げられる肩関節後方の軟部組織の伸張性低下は一般的に肩関節後方タイトネスと呼ばれている。肩関節後方タイトネスは,上腕骨頭の前方偏位が関わるインピンジメントや内旋可動域の制限と関連することが示唆されており,その一因として棘下筋の柔軟性低下が挙げられている。先行研究により,棘下筋のストレッチング方法として,肩甲骨を固定し肩関節を水平内転する方法(cross-body stretch)が推奨されている。筋硬度の低下や関節可動域の増加といったストレッチ効果は実証されているが,上肢挙上動作などの肩甲骨が関わる動作において棘下筋に対するストレッチングが肩甲骨運動に及ぼす影響は不明である。そこで本研究の目的は,棘下筋のスタティックストレッチング(SS)による棘下筋の柔軟性向上が上肢挙上時の肩甲骨運動に与える影響を明らかにすることとした。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は健常若年男性15名(22.3±1.2歳)の非利き手側上肢とした。SSは上記のcross-body stretchとし,SS時間は3分間とした。SS前後において,6自由度電磁気式動作解析装置(Liberty;Polhemus社製)を用いて肩関節屈曲運動時の肩甲骨運動(外旋,上方回旋,後傾)を計測した。</p><p></p><p>SSによる棘下筋柔軟性向上の指標には超音波診断装置(Aixplorer, Supersonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能より算出される弾性率を用いた。弾性率は低値を示すほど筋の柔軟性が高いことを意味する。棘下筋の弾性率がSS前(pre)に比べ,SS直後(post1)とSS後の肩甲骨運動計測後(post2)に低値を示すことを包含基準とし,計9名を解析対象とした。</p><p></p><p>統計解析は,10度毎の各肩関節屈曲角度における肩甲骨角度より,時期(SS前,SS後),角度(30~120度)の2要因による反復測定二元配置分散分析を行った。主効果を認めた場合は事後検定としてBonferroni法による多重比較およびt検定を行った。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はpreが34.2±7.4,post1が28.6±7.3,post2が29.2±8.4であり,preに対し,post1,post2において有意に低値を示した。二元配置分散分析の結果,肩甲骨外旋において時期における主効果を認めた。事後検定の結果,SS前に対し,上肢挙上30-80°においてSS後に有意に外旋角度が増大した。また,肩甲骨上方回旋と後傾に関しては,交互作用および時期における主効果を認めなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>Cross-body stretchにより棘下筋の弾性率が低下すると,上肢挙上動作時の肩甲骨外旋角度が増大することが明らかとなった。これより,cross-body stretchが,上肢挙上運動時の肩甲骨運動の改善に有効である可能性が示唆された。</p>
著者
簗瀬 康 中尾 彩佳 本村 芳樹 梅原 潤 駒村 智史 宮腰 晃輔 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-99_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】単一筋の伸縮によって周囲の筋膜が引き伸ばされ、隣接している筋が変形すること(筋膜張力伝達)が先行研究で報告されている。単に筋の走行を考慮すると、大腿四頭筋を構成する筋のうち、二関節筋である大腿直筋は股関節伸展かつ膝関節屈曲により伸張される。一方で、単関節筋である内側広筋や外側広筋は膝関節屈曲により伸張され、股関節肢位の影響は受けない。しかし、筋膜張力伝達の観点から考えると、大腿直筋が伸張される股関節肢位では内側広筋や外側広筋も同様に伸張される可能性がある。本研究の目的は、股関節肢位の違いが内側広筋と外側広筋の伸張の程度に与える影響を検証することとした。【方法】健常男性14名を対象とし、次の4種類の股関節肢位をランダムに行った:股関節90度屈曲位(屈曲条件)、股関節5度伸展位(伸展条件)、股関節5度伸展位かつ10度内転位(伸展内転条件)、股関節5度伸展位かつ40度外転位(伸展外転条件)。各肢位とも背臥位かつ膝関節90度屈曲位で実施した。これら4肢位および安静位で、超音波診断装置せん断波エラストグラフィ機能を用いて内側広筋と外側広筋、大腿直筋の弾性率を測定した。弾性率は高値であるほど筋が硬いことを示し、筋伸張位ほど高値となることが先行研究により示されている。各筋の弾性率について、肢位間の比較のために反復測定一元配置分散分析を行い、事後検定としてBonferroni法による多重比較を行った。有意水準は0.05とした。【結果】反復測定一元配置分散分析の結果、内側広筋と外側広筋、大腿直筋の全てにおいて主効果を認めた。各筋とも、伸展・伸展内転・伸展外転条件が安静・屈曲条件より有意に高値を示し、さらに伸展・伸展内転条件が伸展外転条件より有意に高値を示した。【考察】内側広筋と外側広筋は膝関節伸展の単関節筋であるが、股関節伸展位、あるいは股関節伸展内転位でより伸張された。これらの肢位で大腿直筋が伸張されたことにより、大腿直筋に付着する筋膜が移動し、大腿直筋に隣接している内側広筋と外側広筋も同様に伸張されたと考えられる。また、股関節伸展外転位では各筋とも、股関節伸展位や股関節伸展内転位に比べて伸張されなかった。大腿直筋は股関節外転モーメントアームを持つため、股関節外転位では短縮位になったと考えられる。さらに大腿直筋が短縮位となったことで大腿四頭筋間の筋膜による機械的相互作用が生じにくくなり、内側広筋と外側広筋は十分な伸張が得られなかったと考える。【結論】大腿直筋の伸張位である股関節伸展位、または股関節伸展かつ内転位において、膝関節伸展の単関節筋である内側広筋・外側広筋も同様に伸張されることが明らかになった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学における医の倫理委員会の承認を得た後に実施した。ヘルシンキ宣言に基づいて、被験者には実験の内容について十分に説明し、書面にて同意を得た上で研究を実施した。