著者
駒津 順子 田母神 礼美 大矢 勝
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.643-652, 2019 (Released:2019-11-02)
参考文献数
23
被引用文献数
1

カルシウムを含む水垢汚れの酸洗浄に関する消費者情報を調査し, その科学的根拠の実験的検証を行った. 消費者情報を分析した結果, クエン酸利用を肯定し推奨する記述が多くみられた. またクエン酸とカルシウムの反応による沈殿について言及している消費者情報はほとんど見当たらなかった. 炭酸カルシウムの溶解実験によりクエン酸の洗浄力は塩酸や酢酸と同様に高いが, クエン酸は時間が経過すると大量の沈殿を生成することがわかった. pH測定, XRFによるCa定量及びHPLCによるクエン酸の定量の結果, 沈殿は炭酸カルシウムの再結晶化から始まり, 12時間後から炭酸とクエン酸の置換に進むことが分かった. また未溶解の炭酸カルシウムの存在が沈殿生成速度を大幅に増大することも分かった. 更にCaは炭酸塩よりもケイ酸塩や硫酸塩の方が除去困難であることも明らかになった. 以上の実験結果より, 消費者情報に多く見られるクエン酸による水垢の除去メカニズムに関する中和説が, 科学的なロジックとして問題があることが明らかになった.
著者
駒津 順子 大矢 勝
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.197-205, 2021 (Released:2021-05-07)
参考文献数
8

「洗浄における酸・塩基中和説」とは, ①汚れは酸性汚れとアルカリ性汚れに分類できる, ②酸性汚れとアルカリ性汚れは各々アルカリと酸で中和して除去できる, とする説である. その説は日本の消費者の中で広まっているが, 科学的な誤りが含まれている. そこで本研究では関連情報をインターネット上から収集して分析し, 誤情報が生まれて拡散していく過程を調べた. その結果, 酸性汚れ・アルカリ性汚れに分類する方法に問題のあること, 過度の酸性化やアルカリ化を中和と表現するなどの問題が確認できた. その情報が広まった原因は, もともと中和に関して種々の定義が存在していたことと, 酸・塩基に関連する用語を厳密に理解するのが難しいことである. 日本語の用語としての酸と酸化が混同しやすいことも関与している. 酸とアルカリの中和という表現は, 単純で分かりやすいため多くの人に受け入れられたのであろう.
著者
駒津 順子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.543-550, 2021

<p> COVID-19の感染が拡大していた2020年4月に, 布製マスクを製作する中学校家庭科の授業実践を行った. 授業は1週間で行い, 中学校の2・3年生の283名の生徒がマスクを500枚製作した. 危機に対応する力を育成するため, 家庭科の布を用いた製作実習で学んだ知識・技能を活用したマスク製作の授業を実践し, その教育効果を検討した. 生徒の自由記述では, 学んだ技能を生かし生徒同士が協力して分業で製作を行い, 短期間で目標を達成した実感をあげる生徒が多かった. 知識・技能を活用し, 役割分担を行い短期間に生徒同士で協力する力が, COVID-19のような予期せぬ状況に対応できる力として効果的であった. 今回の実践を通して, より高い技能の習得への意欲をあげる生徒が多かったことも明らかになった. また教科の枠組みを超えた専門知識を有する他教科の教員との連携が, 今回の実践で大変に効果的であった. 実践を通した課題としては, 連続使用によるミシンの金属疲労や布地の補修を行うコンピュータミシンの整備など, 道具について補完が望ましい状況であることがあげられた.</p>
著者
駒津 順子 小松 恵美子 森田 みゆき
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.76, 2008

<B><目的></B> 高等学校家庭科で実施する「染色」教材の開発研究を行ってきた。高等学校家庭科において「染色」の辿ってきた歴史を知るために、高等学校学習指導要領・教科書等における「染色」取り扱い科目及び領域の変遷について調査したところ、家庭科における「染色」は、「更正染」「手芸染色」「生活文化の伝承」の順に変遷し位置づけられていることがわかった。今の時代を反映した「染色」教材を開発するための視点を検討した結果、高等学校家庭科における「染色」の授業は、「生活スキルの向上により生徒に自信を持たせ、自己理解を深めさせることができる」と考えられた。今回は、実践的な教材開発のために、「染色」教材や「染色」研究についての論文検索を行い、先行研究を抽出して内容を比較検討した。それらを元に教材化のための予備実験を行った。<BR> <B><方法></B> 論文検索は学会誌5誌と商業誌7誌を対象とした。学会誌は、繊維学会誌、日本家政学会誌、日本家庭科教育学会誌、日本蚕糸学会誌、化学と教育、であった。また商業誌は、染色研究、染料と薬品、染色工業、色材、月刊染織α、京染と精練染色、考古学と自然科学、であった。論文検索には、国立情報学研究所(NII)のポータルサイトであるCiNii(NII論文情報ナビゲータ)を使用した。論文は発表年が2005年までのものを対象とした。論文の抽出および分類は13のキーワード(染色法、色素の合成、分解、洗浄、環境、廃液、堅牢度、拡散、天然染料、染色教材、染色領域、顔料、その他)を設定し、論文タイトルから読み取り該当するものを抽出した。なお、「繊維学会誌」と「日本家政学会誌」の2誌に関しては、CiNii掲載以前の論文についても検索対象とした。<BR> <B><結果></B> 学会誌の検索論文総数は18,087件であり、染色教材に関するものは日本家庭科教育学会誌が1件、化学と教育が43件であった。一方、商業誌の検索論文総数は4,901件であり、染色教材に関するものは月刊染織αが8件であった。日本家庭科教育学会誌から抽出された論文は生野ら<SUP>(1)</SUP>によるものであった(以下論文1とする)。この他に、大学紀要等で発表されている論文2<SUP>(2)</SUP>、論文3<SUP>(3)</SUP>、論文4<SUP>(4)</SUP>を加えた4件の論文を検討対象とした。論文1は玉葱、紅茶、紅花、藍の染色条件を検討し堅牢性も調べた上で標本を作成しており、実践的な教材を検討するには最も参考になると考えられた。論文1の染色材料の中で手に入りやすいものは玉葱と紅茶であった。教材としては媒染剤による色相の変化が大きい方が望ましく、また被服だけでなく家庭科の様々な科目で実践が想定できることから、玉葱を染色材料に選び、論文1の実験条件をもとに予備実験を行った。実験はすべて水道水を使用して行った。のり無し白布を試料布として、同一染液で布を換えて2回染色を行い、色の濃さを比較した結果、目視では1回目染液染色布と2回目染液染色布の差は見られなかった。媒染剤は5種類を検討した。鉄明礬と硫酸第一鉄アンモニウムは暗緑色、カリウム明礬は山吹色、塩化カリウムとリン酸水素二カリウム、及び未媒染は薄茶色となった。<BR> <B><引用文献></B>(1)染色教材への天然植物染料の適用-主として玉葱・紅茶の場合-、生野晴美、堀内かおる、岩崎芳枝、日本家庭科教育学会誌、34、31-36(1990)、(2)地域素材を用いた染色教材の開発-さくらの葉を用いた場合-、日景弥生、三國咲子、弘前大学教育学部紀要、80、71-78(1998)、(3)小学校家庭科と関連させた「総合的な学習の時間」の構築-草木染めの教材化-、後藤景子、橘高純子、京都教育大学紀要、107、115-122(2005)、(4)天然藍の染色教材への適用、浦野栄子、萩原應至、信州大学教育学部附属教育実践研究指導センター紀要、7、181-188(1999)
著者
駒津 順子 田母神 礼美 大矢 勝
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.643-652, 2019

<p> カルシウムを含む水垢汚れの酸洗浄に関する消費者情報を調査し, その科学的根拠の実験的検証を行った. 消費者情報を分析した結果, クエン酸利用を肯定し推奨する記述が多くみられた. またクエン酸とカルシウムの反応による沈殿について言及している消費者情報はほとんど見当たらなかった. 炭酸カルシウムの溶解実験によりクエン酸の洗浄力は塩酸や酢酸と同様に高いが, クエン酸は時間が経過すると大量の沈殿を生成することがわかった. pH測定, XRFによるCa定量及びHPLCによるクエン酸の定量の結果, 沈殿は炭酸カルシウムの再結晶化から始まり, 12時間後から炭酸とクエン酸の置換に進むことが分かった. また未溶解の炭酸カルシウムの存在が沈殿生成速度を大幅に増大することも分かった. 更にCaは炭酸塩よりもケイ酸塩や硫酸塩の方が除去困難であることも明らかになった. 以上の実験結果より, 消費者情報に多く見られるクエン酸による水垢の除去メカニズムに関する中和説が, 科学的なロジックとして問題があることが明らかになった.</p>