著者
柳 有紀子 石川 幸伸 中村 一博 駒澤 大吾 渡邊 雄介
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.250-256, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
13
被引用文献数
4 7

女性から男性型の性同一性障害症例における,男性ホルモン投与前後の音声の経時的変化を追跡した.追跡は話声位,声域,声の使用感の聴取およびVHIにて投与前から143日間行った.投与前の話声位は187 Hzで,投与143日後に108 Hzとなった.声域は,投与48日後に一時的に拡大し,その後縮小した. 声の使用感の聴取では,投与48日後に会話時の翻転の訴えがあり,投与143日後に歌唱時の裏声の発声困難と会話時の緊張感も聞かれた.VHIは感情的側面で改善し,身体的側面で悪化した.本症例のホルモン療法の効果は話声位の低下であり,一時的に声域も拡大した.一方で翻転や裏声の発声困難,会話時の緊張感の訴えが聞かれ,声域も最終的に縮小した.本症例の各症状は,甲状披裂筋筋線維の肥大化による話声位の低下と,喉頭の器質的変化による喉頭筋群の調節障害であると推測された.これらの症状を予防するために,ホルモン投与の際には音声の変化を観察しながら投与量や投与期間の再考が必要である可能性が考えられた.
著者
二村 吉継 文珠 敏郎 東川 雅彦 南部 由加里 平野 彩 中村 一博 片平 信行 駒澤 大吾 渡邊 雄介
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.34-43, 2017 (Released:2017-02-18)
参考文献数
18
被引用文献数
1

Elite Vocal Performers(EVP)は職業歌手や舞台俳優など自身の声を芸術的に用いパフォーマンスを行う職業者である.EVPは声質改善にきわめて繊細な治療も希望する.そこで今回耳鼻咽喉科医,音声専門医に対してどのような意識をもって受診しどのような治療を希望しているのかを明らかにするため,EVPに対してアンケート調査を行った.選択形式の設問28問,自由記載式の設問3問の冊子を作成し,無記名の記入式アンケート調査を実施した.EVP 92名(男性41名,女性51名)から回答を得た.内容は「声の症状」「耳鼻咽喉科診察および歌唱指導について」「沈黙療法について」「ステロイド治療について」「声の悩みの解決方法」「診療に対する希望について」等である.沈黙療法を指示されたことがある者は64%であったが,適切な期間を指示することが重要であると思われた.ステロイド剤による治療を受けたことがある者は68%であり,投薬を緊急時にのみ望む者とできれば望まない者がほぼ半数ずつであった.
著者
駒澤 大吾 廣崎 真柚 長谷川 智宏 渡邊 雄介
出版者
日本喉頭科学会
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.32, no.02, pp.129-145, 2020-12-01 (Released:2021-05-11)
参考文献数
44

Although it is generally accepted that phonomicrosurgery may be indicated for vocal fold mass lesions even in professional singers, the specific indications for surgery on stroboscopic findings for microlesions of the vocal folds in professional singers are not clear. The present study included 88 patients (male, n=36; female, n=52) who presented to the AKASAKA Voice Health Center with clear complaints in singing and who underwent phonomicrosurgery to resect microlesions of the vocal folds. At three months postoperatively, 102 of the total 117 subjective complaints in singing were resolved (87%). We classified five vertical locations of lesions (determined based on surgical findings) on the medial surface of the vocal folds, and statistically analyzed the differences in verticality according to the various attributes of the cases. The results showed that lesions were significantly more prevalent in the upper part of the vocal folds when the singing or disordered voice was in a high pitch and light register, while lesions were significantly more prevalent in the lower part of the vocal folds when the voice was in a low pitch and heavy register. Considering laryngeal regulation during singing, we hypothesize that lesions in the lower part of the mucosal wave-generating area are more likely to cause a malfunction in singing. A lesion in such a location can also be identified by stroboscopy, as a prominence on the medial margin in the closing phase (lesion on lower crest: LLC). Although individualized treatment is necessary, stroboscopic findings that demonstrate the presence of an irreversible LLC in singing may be a good indication for phonomicrosurgery.
著者
國枝 千嘉子 金澤 丈治 駒澤 大吾 李 庸学 印藤 加奈子 赤木 祐介 中村 一博 松島 康二 鈴木 猛司 渡邊 雄介
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.10, pp.1212-1219, 2015
被引用文献数
6

声帯ポリープや声帯結節の診断・治療方針の決定には大きさなどの形態的特徴が関与することが多い. 初診時から音声治療を行った声帯ポリープ36例, 声帯結節35例について, 手術の効果および手術の際に測定した病変の大きさと術前音声検査値との相関, 病変の大きさとその術後改善率との相関を検討した. 手術後の音声機能は, 声帯ポリープ・声帯結節の両群で最長発声持続時間・声域・平均呼気流率・Jitter%値 (基本周期の変動性の相対的評価)・Shimmer%値 (ピーク振幅の変動性の相対的評価) のすべての項目で術前に比べ有意な改善を認めた. 病変の大きさとの相関では, ポリープ症例は術前の声域・Jitter%で相関を認め, 術後改善率では, 声域・平均呼気流率・Jitter%・Shimmer%で相関を認めた. 一方, 結節症例では術前の声域のみ相関を認めた. Elite vocal performer(EVP) (職業歌手や舞台俳優など自身の「声」が芸術的, 商業的価値を持ち, わずかな声の障害が職業に影響を与える) 群と EVP 以外群で検討を行い, 声帯ポリープ症例の EVP 群では EVP 以外群と比較して病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 結節では両群とも病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 両疾患において手術治療は有効で, 形態的評価は治療方針決定のために必要であり, 音声治療も両疾患の治療に不可欠であると思われた.