著者
高尾 将幸
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.71-82, 2010-03-20 (Released:2016-10-05)
参考文献数
23
被引用文献数
1

1990年代後半以降、日本における健康増進政策は、「生活習慣」の改善による疾病の「一次予防」を重視するそれへと大きくシフトしてきた。そして、改正を向かえた介護保険制度も、「予防重視型システムの確立」を明確に打ち出し、筋力トレーニングを含む「運動器の機能向上サービス」を介護費削減の目玉の一つに掲げた。 本稿では、こうした政策的動向に対しミシェル・フーコーによる「統治性論」の視角を援用することで、今日の私たちの身体と健康がどのような政治のただ中にあるのかを分析した。従来のスポーツ社会学領域において、身体の政治学をめぐるフーコーの「規律権力論」は大きな影響を及ぼしてきた。そこで主流をなしたのは、身体とその表象が既存の規範的な社会関係を維持するという枠組みであった。しかし、統治性論へのフーコーの展開は、集合的な身体である人口をめぐる安全性のメカニズムと、個別的身体への規律的介入との接点が、「正常性」の導出と「規範」の変化・生成に関わっているという新たな論点を含意するものであった。 この視角を援用することで、本稿では高齢者の身体活動施策を事例に、保険制度への保健事業の組み込みを分析した。そして、保険者機能の強化の一環とされた身体活動を含む予防的保健事業が、保険者の財政的ガバナンスを維持するツールとして、さらに財の負担と配分の公平性を担保する指標として機能している点を明らかにした。 私たちの健康をめぐるリスクと責任は、リスク・テクノロジーによる統計的数値が先行することで、個人だけではなく、健康保険組合や自治体といった組織的取り組みを介して解決されるべきものになりつつある。だが、果たして現在進んでいる保険制度下での予防的保健活動は、それに携わる専門職やサービスを受ける人びとが望む健康や福祉のあり方に資するものなのだろうか。最後に、この点について実証的に問い直していく作業を今後の課題として提示した。
著者
高尾 将幸
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.59-70,121, 2006

〈身体〉が権力の対象となることを、近代への転換のメルクマールとしたのは、他ならぬミシェル・フーコーの功績だった。体育・スポーツもまた、彼の指摘する規律=訓練権力の一端を、国家の制度的教育として担ってきたのだった。しかしフーコーが切り開いた〈身体〉の政治技術に関する議論は、抽象的なものに終始するのではなく、近年の政策的動向や人々の実践を踏まえたうえで再考される必要があるのではないだろうか。こうした問題意識から、本稿では「健康」とスポーツが交差する地点として高齢者の健康増進施策における事例調査を行った。健康増進施策から誕生したT会の人々は、単に健康不安に煽られ、メディアの提示する公準や理想的な「健康」観を追い求めているのではなかった。そこでは、参加者の暮らす地域の歴史性や構造的要因が存在し、それは同時に参加を規定する要因ともなっていた。また、〈身体〉に病や「老い」を生きる彼らは、同時に教室に「楽しみ」を見出していた。薄れていった共同性への郷愁、自らの〈身体〉をお互いに確認しあう場として運動教室が存在していたのである。しかし、それは同時に彼らの「隠す」という行為と表裏の関係にあった。そして、こうした人々の実践が、現在の政策的動向を支えていくことを示した。結論として、〈身体〉の政治についての視角として、フーコーの提示した「生-権力」論を敷衍させつつも、変動する政策的動向と、それを支えていく人々の歴史や関係性の記述から再考することの必要性を論じた。
著者
高尾 将幸
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は長野オリンピック開催地である白馬村および近隣自治体の事例からスポーツ・メガイベントが地域社会にもたらした固有のインパクトを解明することであった。調査の結果、(1)オリンピック関連インフラ整備が地域住民の生活圏に変化をもたらしたこと、(2)道路網整備によって宿泊を伴わない日帰り観光客が増加している一方、外国人観光客および移住者の増加をもたらしたが、そこでも固有の課題が生み出されていること、(3)地域社会におけるネットワークによって地域活性化の独自の試みが継続していること、が明らかになった。
著者
スティーブ・ ジャクソン 熊澤 拓也 高尾 将幸
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-18, 2019

この論文の目的は、ラグビーワールドカップ2019 日本大会の文化的モーメントと場を取り上げることで、スポーツ史上、最も成功しているチームであるラグビーのニュージーランド代表チーム、オールブラックスの状況について探究することである。より具体的には、(a)ニュージーランドラグビーとオールブラックスのプロ化と商業化の展開について、歴史的に概観し、(b)ニュージーランドラグビー協会(NZR)が直面した近年の課題とそれらに対する協会の反応について確認し、最後に、(c)ラグビーワールドカップ2019 という歴史的分岐点における、グローバルスポーツとしてのラグビーの状況について意見を述べる。
著者
高尾 将幸
出版者
東洋大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究は第5回国民大会(愛知国体)を事例に、スポーツが荒廃した都市空間にどのような影響を与え、同時にその関係がその後のスポーツのあり方にどのようなインパクトを与えたのか、その一端を解明する作業に取り組んだ。