- 著者
-
高島 裕美
- 出版者
- 北海道社会学会
- 雑誌
- 現代社会学研究 (ISSN:09151214)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, pp.1-18, 2023-05-31 (Released:2023-08-01)
- 参考文献数
- 14
本稿の課題は,教員の長時間過密労働が社会問題化するなか,ミドルリーダー
の導入・配置という形で定着しつつある学校組織改革が実際の学校現場に受け
とめられる過程で生じる教員たちによる意味付けを追うことをとおして,教員
文化の現在の姿を明らかにすることにある。
聞き取りの分析から示されたのは,以下の点である。
まず,ミドルリーダーである教務主任には,学校の組織編制上は管理職の補
佐としての役割が求められる。しかし,実際の役割としては,授業の「補欠」
や学級担任への寄り添い,特別な支援が必要な子どもへのサポートなど,フレ
キシブルな動きやケア的役割を担うことが求められてもいることが明らかに
なった。
次に,こうした役割期待に対し,調査に応じた2人の教務主任のうち1人は
それを受けとめ,ケア的役割に徹することで,教員集団の関係性がハイアラー
キカルにならないように工夫しつつ教務主任としての役割を負うことに成功し
ていた。一方,もう1人は,教務主任という役割に含まれる権威的な性質や,個々
の教員のやり方には干渉するべきではないという自身の教員像との葛藤から,
その役割を受けとめきれずにいる姿が確認された。
1990 年代後半以降急速に進行した学校組織改革は,教員の多忙をはじめと
するさまざまな学校課題に機動的に取り組むために,学校組織をハイアラーキ
カルに再編することが企図されているものの,実際には,いわば意図せざる結
果として,現場においては,教員文化の機能不全をカバーする役割をも担いつ
つあるといえる。