著者
津村 一美 渡邊 裕之 橋本 昌美 嘉治 一樹 高橋 美沙 重田 暁 千葉 一裕 月村 泰規 見目 智紀 高平 尚伸
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0965, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】棘上筋の筋活動を高める方法として,従来からEmpty can training(ECT)が実施されている。ECTは棘上筋が働きやすい肢位で実施されるため,棘上筋に対して効果的なトレーニング方法であり,他の棘上筋トレーニングと比較しても,棘上筋のより高い筋活動が得られると報告されている。しかし,これらの報告の多くは横断的研究に基づいており,ECTの介入効果を検証した縦断的研究は少ない。そのため臨床現場では,経験則に基づいた治療方法として対象者に施行しているのが現状である。従来,棘上筋の機能評価として肩甲骨面挙上筋力の測定が実施されてきたが,近年では棘上筋の正確な評価が困難であると報告されている。一方で高橋らの報告より,棘上筋筋活動と棘上筋筋厚との間に相関関係があり,筋厚測定が筋活動を反映することが明らかになっている。そこで,本研究は筋厚を測定することにより,ECTが棘上筋筋活動に及ぼす影響を検証し,介入効果を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は肩関節疾患の既往がない成人男性15名(年齢20.8±0.9歳)の30肩とした。対象者の年齢,身長,体重,利き手,スポーツ歴を聴取した。トレーニング介入前に棘上筋筋厚,最大等尺性肩甲骨面挙上筋力を測定した。対象者は週5日,6週間にわたりECTを実施した。トレーニング介入後にトレーニング介入前と同様の項目を測定した。棘上筋筋厚測定は超音波画像診断装置(SSD-4000,ALOKA)を用いて行った。肩甲棘長を100%とし,肩甲棘基部から外側へ10%の部位を測定位置とした。測定位置において,プローブを肩甲棘に対して垂直に固定し,棘上筋の短軸画像を描出した。浅層筋膜と深層筋膜との最大距離を棘上筋筋厚として測定した。棘上筋筋厚は各2回測定し,平均値を採用した。測定肢位は座位とした。測定条件は肩関節内旋位,肩甲骨面挙上30°にて他動保持時とセラバンド負荷時の2条件とした。なお,2kg負荷はセラバンドを用いて手関節近位部に負荷した。最大等尺性肩甲骨面挙上筋力測定は肩関節内旋位,肩甲骨面挙上30°での肢位にて測定した。検者はHand-held dynamometer(μ-tas F-1,ANIMA)のセンサーを手関節近位部に固定し,対象者は3秒間の最大等尺性収縮を肩甲骨面上で2回発揮し,平均値を採用した。ECTは,手関節近位部にセラバンドを固定し,肩関節内旋位にて肩甲骨面0°~30°挙上位までの反復運動を実施した。1回の運動を2秒で完遂し,20回を1セット,インターバルを1分として,1日に3セットを実施した。検者は週2日,代償動作が生じずに適切な肢位でトレーニングを実施できているかを確認した。統計学的解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,棘上筋筋厚および最大等尺性肩甲骨面挙上筋力をトレーニング介入前後で比較した。なお,すべての解析において有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は同学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2012-014)。なお,対象者には書面にて同意を得た。【結果】棘上筋筋厚は他動保持時,セラバンド負荷時の条件において,トレーニング介入前と比較し,トレーニング介入後に有意に増大した(p<0.01)。最大等尺性肩甲骨面挙上筋力はトレーニング介入前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05)。【考察】先行研究より,筋厚は筋活動を反映すると報告されていることから,トレーニングによる棘上筋筋厚の増大は棘上筋筋活動の増加を示唆していると考えられた。しかし,最大等尺性肩甲骨面挙上筋力に変化は認められなかった。最大等尺性肩甲骨面挙上は,運動時に三角筋による張力加重が生じるため棘上筋の筋張力に対する寄与は少ないと報告されている。そのため,最大等尺性肩甲骨面挙上筋力測定は,棘上筋の機能向上を反映する指標としては不十分であり,トレーニング介入前後で変化が認められなかったと考えられた。今回の研究では,対象者を健常成人男性とし,ECTの介入効果を検証した。しかし,実際に臨床で棘上筋トレーニングを実施する対象は,腱板断裂や反復性脱臼等の疾患を有する者である。そのため,今後は,実際に棘上筋の機能を高める必要のある対象者に対しトレーニングの効果を検証していく必要がある。また,ECTと同様に,従来から実施されてきたFull can trainingとの比較を検討し,臨床現場において,それぞれのトレーニングをどのような特徴のある患者に適応させるのかを検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】ECTによる治療介入に対して,棘上筋筋活動量の向上が認められ,理学療法としてのエビデンスを構築する一助となった。
著者
高橋 美沙 渡邊 裕之 嘉治 一樹 津村 一美 橋本 昌美 高平 尚伸
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102030, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節の安定性には,inner musclesである腱板とouter musclesである浅層筋群との力のバランスが重要であり,このバランスが破綻すると肩関節の不安定性を生じさせ,肩峰下インピンジメント症候群などの種々の障害を引き起こす(筒井ら,1992).特に,棘上筋は上腕骨頭を求心位に保つ機能を有しており,動揺性肩関節患者では棘上筋が正常な機能を果たしていないことが報告されている(河野,1986).したがって,棘上筋を強化すること(棘上筋トレーニング)は肩関節安定性の向上を目的とした肩関節障害予防として重要である.従来,棘上筋トレーニングの効果判定法として肩甲骨面挙上筋力測定が行われてきた.しかし,肩甲骨面挙上筋力測定は三角筋の影響を受けやすく,棘上筋単独で筋力を評価することは困難である(Reinold et al,2007).一方,超音波画像診断装置を用いた筋厚測定は技術的に簡便かつ非侵襲性であるため棘上筋トレーニングを評価する方法として着目されている(二木ら,2001).棘上筋筋厚はMRIで測定された棘上筋断面積と相関することが報告されている(Yi et al,2012).また,我々が事前に実施した実験の未報告データにおいて,棘上筋筋厚と筋活動との相関が認められ,筋厚測定によって筋活動を推定することが可能である.棘上筋トレーニングの実施効果を縦断的に検討した報告は少なく,棘上筋トレーニングの効果については不明な点が多い.本研究の目的は,超音波画像診断装置を用いて棘上筋筋厚を測定することにより,棘上筋トレーニングが棘上筋筋活動に及ぼす影響について検討することである.【方法】対象は健常成人男性9 名の18 肩とした.肩関節疾患および外傷の既往歴,肩関節に疼痛を有する者は対象から除外した.棘上筋トレーニングの方法は,イエローセラバンド(2kg負荷)を使用し,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0°〜30°までの反復運動とした.回数は20 回× 3 セットとした.棘上筋筋厚は超音波画像診断装置(ProSound,SSD-4000,ALOKA)を使用して測定された.超音波画像の撮像位置は,肩甲棘長を100%とし,肩甲棘基部から10%,50%の部位に15MHzのリニアプローブを肩甲棘に対して垂直にあてた.筋厚は,棘上筋浅層筋膜と深層筋膜との間の距離とした.試行動作は,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上30°の肢位にて,他動保持時,セラバンド2kg負荷時,最大等尺性収縮時の3 条件とした.実験手順を以下に示す.トレーニング開始前に棘上筋筋厚を測定しベースライン値とした.その後,対象者は棘上筋トレーニングを週に5 回の頻度で6 週間実施した.トレーニング終了後,再度棘上筋筋厚を測定した.統計学的解析として,各条件における棘上筋筋厚をWilcoxonの符号付順位和検定を用いてトレーニング前後で比較した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:2012-014).本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た.【結果】肩甲棘長の10%部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前0.28 ± 0.16cm,介入後0.41 ± 0.14cm)およびセラバンド2kg 負荷時(介入前0.61 ± 0.26cm,介入後0.80 ± 0.22cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).50% 部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前1.76 ± 0.19cm,介入後1.89 ± 0.12cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).【考察】肩甲棘長の10%および50%の部位における棘上筋筋厚は,6 週間の棘上筋トレーニング後の他動保持時,セラバンド2kg負荷時において増加した.Yiらは,棘上筋筋厚と筋断面積が相関することを報告している.また,我々が実施した実験の未報告のデータによると,棘上筋筋厚と筋活動との間に相関が認められたことから,筋厚の増加は筋活動の増加を反映している可能性がある.したがって,6 週間の棘上筋トレーニングは筋活動を増加させる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】6 週間の棘上筋トレーニングは棘上筋筋厚を増加させた.したがって,本研究で実施した棘上筋トレーニングは肩関節障害予防を目的とした棘上筋強化法として有用である可能性がある.また,超音波画像診断装置を用いた棘上筋筋厚測定は,棘上筋筋活動を非侵襲的に評価でき,棘上筋トレーニングの効果判定法として有用である可能性が示唆された.