- 著者
-
高村 宏子
- 出版者
- 東洋学園大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究の主要テーマは、歴史的、文化的に多くの共通点をもつ米国、カナダにおける日系人、女性、先住民の第一次大戦参加と大戦後の市民権獲得との関係を検証することである。日系人は第一次大戦を市民権獲得のための絶好の機会ととらえ、カナダでは、196名の日系人がカナダ遠征軍に志願してヨーロッパ戦線で戦った。ハワイおよび米国本土からも約500名の日系人がアメリカ軍に志願した。しかし、大戦後、日系人復員兵の米国における帰化権、カナダにおける参政権は人種を理由に認められなかった。日系人たちは法廷闘争を通じて市民権獲得を試みたが、人種の壁に阻まれて挫折した。そこで、日系人復員兵らが、米国、カナダの在郷軍人会にそれぞれ働きかけた。その結果、カナダでは1931年にブリティッシュ・コロンビア州の州選挙法の改正によって、日系人大戦帰還兵の参政権が実現した。また米国では、日系人で大戦帰還兵のトクタロウ・スローカムのロビー活動によって、1935年にナイ・リー法が米国議会で可決され、アジア系の復員兵に帰化権が認められた。女性の場合、参政権の障害となったのは、女性は銃を担いで国を守ることができないという考え方であったが、第一次大戦で女性が正規軍に採用され、さらに軍事貢献以外でも女性の活躍が評価された。米国、カナダにおける議会の審議過程は、戦時中の女性の活躍が高く評価されたことを示している。これらの事例から、軍隊参加が一級市民としての資格を得るための重要な鍵であることが実証された。一方、先住民の市民権問題の複雑さも判明した。アメリカ軍、カナダ軍に志願した先住民は多いが、彼らの動機は必ずしも市民権獲得ではなかった。そして、市民権付与に関する基準もまた、日系人、女性、先住民の間で異なり、さまざまであることが明らかになった。