著者
西川 星也 高松 敦子
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.155-158, 2016-04-15

細胞競合は主に上皮組織でみられる現象で,組織の一部に変異細胞が誘導されると,正常細胞との境界で競合が起こり,最終的に変異細胞が組織から排除される(図1A-図1C)。変異細胞が正常細胞に取り囲まれると,細胞死や排出が引き起こされることが観察されている。排除の結果,空いた空間には正常細胞が増殖し,それによって正常な組織サイズを維持すると言われている。このことから細胞競合現象は,正常な発生,組織の維持などに重要な役割を果たすと考えられている。 細胞競合は最初,ショウジョウバエ翅成虫原基にMinute変異細胞クローンを誘導した系で発見された1)。Minuteはリボソームタンパク質関連の遺伝子であり,そのヘテロ変異個体は単独でも生存可能で,正常サイズの翅を形成する(図1B)。しかし,成長の速さが正常個体に比較して遅いことから,細胞競合の結果,どちらの細胞群が生き残るかという勝敗の運命は,成長速度の相対値によって決まると考えられた。
著者
高松 敦子
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.28, no.11, pp.653-658, 2007-11-10 (Released:2007-11-18)
参考文献数
21

Plasmodium of true slime mold, Physarum polycephalum, is an amoeba-like unicellular organism. It crawls in environment with oscillating the cell thickness. The oscillating parts of the plasmodium are connected through tube structures where the protoplasm (intracellular substance) streams. Thus the plasmodium can be modeled as a network consisting of oscillating nodes (or vertices) and links (or edges). In this paper, the network geometries in various environments were analyzed with considering the relation with the spatio-temporal oscillating pattern in the each network. We show the geometry of the networks depends on environmental condition:It forms lattice networks in pleasant environment, tree-graph networks in unpleasant environment, and intermixture of them in neutral environment. The relation between the morphology and the biological function of the plasmodia is discussed in the context of spatio-temporal structure.
著者
高松 敦子
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

運動性シアノバクテリア細胞は集団化することで、円盤形の回転型運動や彗星型運動など様々なマクロ構造をとる。H23年度は、標準環境下において、束状、円盤状、彗星状のそれぞれの集団形態の運動解析を行った。その結果、コロニー形態に係わらずバクテリア密度が高いほど運動生が優れていることを見いだした。そこで、H24年度はコロニー形態毎の運動速度の解析と、バクテリアが分泌する粘液を想定した理論モデルの構築に取り組んだ。並進運動を行うコロニー重心の運動速度は、一本鎖、束状、彗星状の順に大きいことが分かった。また、同じコロニー形態でもコロニーサイズ(設置面積)にわずかに依存して速度が大きくなる傾向が見られた。さらにコロニー速度は培地表面にバクテリア自身が分泌した粘液の有無に大きく左右されることがわかった。以上のことを纏めると、バクテリアが集合することで粘液分泌総量が増加し、それが培地から受ける抗力を低減するものと思われる。これを基に、彗星状の積層コロニーについて、底面細胞のみが駆動力を生成し、側面および底面細胞が全面、底面の水(または培地)からの抗力を受け、その他の細胞は粘液を分泌するという運動モデルを構築した。その結果、上述に見られたコロニー毎の運動特性の定性的な性質を説明することができた。しかしながら、バクテリアが自発的に集合し、それによって多様な運動が生成するメカニズムは解明されていない。鍵となる粘液の定量化、1本鎖同士の相互作用の定量的観察を通して、より現実的な数理モデル構築を行うことが今後の課題である。