著者
高林 武彦
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.F136-F144, 1991

'観測の問題'と'実在の問題'を含む量子力学の解釈についてはさまざまの立場があるが,以下観測の問題を中心として一つの立場を簡単にのべる。これはかつて筆者が文献1)の中の"観測の「物理的な」理論"の節でのべた所を敷衍・拡充したものである。観測の理論について,牧は「量子力学は確率規則でprescribeされるがこの規則自身を量子力学の他の仮定(重ね合わせの原理と運動方程式)の中から導くことはそもそもできず,ただそれらがconsistentであることを示しうるだけである」とする立場を'立場I'とよび,これを確率規則を量子力学の他の仮定から導き出せるものとする'立場II'に対立させている。このようなわけ方からすると我々は前者をとるのであるが,その場合観測の理論はいかにして理論が全体としてconsistentでありうるかを示す役割をする。ただし一般に量子力学における観測の問題はvariety^<**>とsituation^<***>に富み,かつ〓々informalな部分をのこすので,それらすべてを一様にあつかうことは困難である。さて上で'consistent'といったことは,確率規則を観測されるべき系にあてがった結果がそれを系プラス観測装置にあてがった結果からみちびけるという意味に解する。そして我々は問題を'物理的な'観測の理論という線で追求する。それは状態の収縮,測定の局所性,干渉項の実際上の消滅と状態ベクトルのtruncation,検出器の古典的性格と測定の不可逆性,等々のモチーフに沿って論じることを意味する。ここでとくに検出器の古典的性格の必要性をあげたのは,測定が検出器の古典的レベルにまでもたらされた段階ではそれは単なる読みとりを意味するにすぎず,対象に物理的なdisturbanceを及ぼすものでない点を保証することによって量子力学の確率規則をconsistentに閉じさせるためである。このような検出器の古典的性格は,量子力学が古典的な物体の'実在'を保証せねばならぬということの特殊な場合になっており,この意味で観測の問題は量子力学のもう一つの重要問題である'実在の問題'と結びついているのである。そして一般に後者は,トンネル障壁の介在その他を通じて働く対応原理,重ね合わせの原理を制約するものとしての近似的な超選択則,その働きを中心とする観測の理論自体,等々によって基礎づけられる。ただし以下では実在の問題の面に立ち入ることは割愛した。
著者
高林 武彦
出版者
物性研究・電子版 編集委員会
雑誌
物性論研究 (ISSN:18837808)
巻号頁・発行日
vol.1953, no.66, pp.48-72, 1953 (Released:2009-11-26)
参考文献数
7

The formulation of quantum mechanics in terms of the ensemble in phase space is investigated in some points. The subsidiary conditions for the phase space ensemble to represent a pure state are clarified, and the equivalence between this formulation and the alternative one in terms of quantum potential is verified.
著者
高林 武彦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.662-675, 1985-09-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
39

Niels Bohr は今世紀物理学の巨人として Einstein と並べられまた対比される. 彼は原子物理学の父であると同時に対応原理と相補性の提唱者でもある. これらの原理は Einstein の相対性原理の場合のようなスッパリとした明快さはなくいくらか曖昧さを許さねばならないようなものであるが, ミクロの物理学の方法論・認識論において指導的な役割を果たしてきた. Bohr の生涯の研究はその人間を刻印するような独自の連続性と coherence と深さをもっており, みだりに分断できない. 以下ではその径路をたどりながらその業績の意義と方法の特徴を具体的に考察し, その全体像にせまりたい. そこでは彼が幾多の英才たちとのきびしい討論の中で物理をおし進めていった経緯や, また彼の方法が成功しなかった局面などにもおのずからたち入ることになる. Bohr の論文はとかく長くなりがちであったが, この拙文もいきおい長くなる惧れがある. しかしなるべく簡単に書くよう心掛けよう.
著者
高林武彦著 吉田武監修
出版者
筑摩書房
巻号頁・発行日
2002