著者
増井 志津代 大塚 寿郎 高柳 俊一 飯野 友幸 金山 勉 石井 紀子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、17世紀植民地時代から21世紀に至るまでのアメリカ史におけるキリスト教の果たした歴史的、社会的、文化的役割を特に土着化(Contextuahzation;Americanization)の視点から通史的かつトピカルに分析研究することを目指した。従来の神学的キリスト教研究や教派研究というよりも、キリスト教の果たした役割を宗教史の狭い領域的研究の枠組みから解放し、より広い歴史的、地理的、社会的状況におけるダイナミズムの中で検証し、アメリカ的キリスト教の特性、さらにアメリカ化の過程を詳細に検討することとした。さらに、アメリカ人宣教師による日本における宣教活動を追うことにより、アメリカニズムとキリスト教との関係にも注目した。タイムスパンを長期に設定することで、通事的な研究を目指し、日米から多様な研究者を集めた。初年度には、初期アメリカ研究者David D.Hall教授を招聘し、植民地時代ピューリタニズムについての研究会を開催した。平成18年度は、Richard W.Fox教授を迎え、アメリカ文化とキリスト教についての研究会を開いた。両教授とも、専門研究者との交流だけでなく、ひろく一般、学生に向けた講演も行ない、本領域における学的関心を広く喚起できた。Mark A.Noll教授は来日は果たせなかったが、福音主義とアメリカ政治の関係についての論文を最終報告書に寄稿した。研究代表者、分担者共に、日本とアメリカを往復し、国内外での研究交流をはかると共に、リサーチを勢力的に行ない、学会発表、論文出版により成果を発表した。報告書は今後、研究書としてまとめ、出版を予定している。
著者
高柳 俊一
出版者
上智大学
雑誌
アメリカ・カナダ研究 (ISSN:09148035)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.53-77, 1991-03-31

本論文はポール・ケネディーの『大国の興亡』, アラン・ブルームの『アメリカン・マインドの終焉』(以上は日本語訳で広く知られている), E・D・ハーシュの『文化的読解力』(Cultural Literacy)を1987〜88年の自国の影響力衰退についての米国内の反応として捉え, そのいくつかの側面を指摘したものである。ケネディーは他の彼の著書においても記述のパラダイムとして, 「興亡」を使っているが, それはアウグスティヌス, ギボン, シュペングラーが用いたものであり, トインビーが使った「挑戦と対応」は「興亡」の根拠を捉えるためのパラダイムであると思われる。この背景には世界史の中心となったヨーロッパ文明がローマ帝国の後継者として次々に登場し, 米国は西ローマ帝国, ソ連は東ローマ帝国の後継者として世界を分割し, 現在その枠組が崩壊しつつあるという事実がある。以上の三つの書物が出版された時, ソ連の東欧帝国の崩壊はまだはじまっていなかった。それがロシア正教会一千年記念と同時に顕現化したことは興味ある事実である。二つの帝国はそれぞれ拡張の限界に達し, かつてのローマ帝国と同じ様に, 時代の経緯とともに起こってくる内部からの挑戦に対応することができなくなったのである。歴史学の危機は米国で脱構築(解体)の理論による建国神話の非神話化において顕著に見られる。帝国とは他民族を含むものでありながら, 一つの共通言語・文化をもち, その優位性への絶対的信頼の上に平和と秩序を維持する政治・経済・文明形態である。かつてのローマ帝国の衰退も多数民族の民族主義と支配民族の優位性についての懐疑主義によって推進された。ブルームの著書はいわゆる世俗的ヒューマニズムの立場から, 70年代の学生紛争の体験をもとにしながら, 世界における「アメリカ的現在」の回復を求めたものであり, ハーシュの著書も同様のテーマを, 「文化的理解力」の社会における目立った衰退とそれにに対する懐疑がいかに経済的な衰退の原因になっているかの観点から論じている。本論文は, 以上のような議論自体を「興亡」のテーマ以上に, 「挑戦と応答」をめぐる議論として捉え, 植民地時代, 建国時代からのアメリカ思想史と1950年代中葉以後の大学教育をめぐる議論のコンテクストのなかに位置づけ, あわせて特にブルームの著書が巻き起し, 今日まで続けられている論争を加味しながら, 取り扱ったものである。