著者
辻 洋志 臼田 寛 高橋 由香 河野 公一 玉置 淳子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.63-71, 2016-03-20 (Released:2016-06-07)
参考文献数
40

目的:現在,日本では少子化に伴う労働力不足を補うために外国人を採用する企業が増加している.米国では移民労働者の労働衛生に関する研究が進んでいるが,日本においてはほとんど報告がない.本調査は,米国における移民労働者の労働衛生の現状と課題,および取り組みを明らかにすることを目的とする.方法:米国誌に掲載された移民労働者の労働衛生に関する先行研究論文をレビューし,米国での移民労働者に対する労働衛生の現状と課題,および取り組み事例の調査を行った.結果:米国では移民労働者の労働衛生は主に健康格差という側面で研究されていた.先行研究レビューにより,健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類された.カッコ内は各因子に対するキーワードを示す.1.職業選択(有害業務,業務上負傷,休業,ブルーカラー,低出生体重児)2.教育(学歴,ヘルスリテラシー,衛生教育),3.文化(配慮,コミュニティー人材),4.環境(劣悪環境,地域差,環境変化)5.アクセス(言語,統計,労災補償,医療保険,受診自粛),6.感染症(結核,エイズ,フォローアップ),7.差別(人種,暴行,ハラスメント).また,共通した課題として移民労働者のデータ不足が指摘された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われていることがわかった.考察:米国では移民労働者の労働衛生研究が多く行われている.しかし,調査対象である移民労働者のデータが不足していることが課題となっている.先行研究レビューの結果,多くの論文が健康格差を取り上げていた.健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類する事ができ,各因子のキーワードに関連した取り組みが求められていると推察された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われており,社内外の労働衛生従事者は,7つの因子すべてに着目した柔軟な対応が求められている.日本でも健康格差の原因となりうる因子に関するデータの蓄積および研究の推進と共に,企業や地域の取り組みが喫緊の課題である.
著者
高橋 由香 津野 陽子 大森 純子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2021-029-B, (Released:2021-12-05)
被引用文献数
1

目的:健康リスクを改善し生産性維持・向上に寄与することを促進するのは,単に介入プログラムの内容によるのではなく,「職場における健康文化(Workplace culture of health)」の醸成が重要であるというエビデンスが蓄積され始めている.先行研究において,従業員の主観的評価による組織の健康へのサポートに関する認識が高いほど,健康リスクやプレゼンティーイズム損失が小さいといったエビデンスが蓄積され始めており,健康経営においても従業員視点による評価が重要と考えられる.本研究では,従業員視点による職場における健康文化の指標を作成し,健康経営における従業員による主観的評価指標としての有用性を検討することを目的とした.方法:従業員の健康や生産性に関する職場における健康文化の文献レビューにより作成した指標20項目を用いてアンケート調査を実施した.対象はA県内の健康経営優良法人2019に認定された50組織の従業員を対象とした.協力の得られた25組織の従業員886名に調査票を配布し,分析対象者は435名となった.結果:大規模法人部門(ホワイト500)の43件,中小規模法人部門の263件,自社の認定部門が分からない群の123件の3群で分析を行った.大規模法人部門と中小規模法人部門の2群比較では,「健康保持・増進に関する全社方針の内容」,「健康問題が起きた時の対処手順」,「復職に向けた制度や支援」,「心をサポートする体制や支援」,「安全と健康に関する協議の場」は大規模法人部門で有意に良い結果であり,「上司による体調に関する声がけ」,「健康づくりに役立つ情報の提供」は中小規模法人部門で有意に良い結果であり,組織規模による特徴がみられた.一方,自社の健康経営優良法人の認定部門が分かる群と分からない群との比較では,全ての項目で認定部門が分からない群が有意に悪い結果であった.また,本指標は20項目全てで,職場における健康文化が良い結果である者の方が健康リスク数やプレゼンティーイズム損失が小さいことが確認された.考察と結論:従業員視点による職場における健康文化の程度を捉えられること,職場における健康文化は従業員の健康リスクや生産性に関連することが検証され,健康経営における従業員視点での評価指標として有用であることが示唆された.
著者
加藤 総夫 杉村 弥恵 高橋 由香里
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.123-127, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
30

痛みは「不快な感覚的かつ情動的な体験」である.侵害受容の直接的結果として生じる痛みや慢性痛として原傷害の治癒後に訴えられる痛みのいずれも「情動」に関与する脳部位群(扁桃体,側坐核,島皮質,帯状回,前頭前皮質など)の活性化をともなう.さまざまな情動に関わる扁桃体は,慢性痛が改善しない腰痛患者での自発痛に伴う活動亢進,および,慢性痛モデル動物での腕傍核-扁桃体路を介した活性化とシナプス増強を示す.扁桃体は「身体の状態をモニターし,それに応じて脳活動を制御し,感覚・行動・内環境を最適化するハブ」であり,それが「情動」の生物学的機能であるという仮説を提唱する.