著者
肥後 順一 高野 光則 菊池 誠
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

天然変性蛋白質の「折れたたみとカップルした結合」の機構を、計算機実験によって解明した。計算対象(天然変性蛋白質とパートナー分子、およびそれを取り囲む多数の溶媒分子)を全原子モデルで表現し、効率的構造探索法であるマルチカノニカル分子動力学を行った。それにより、折れたたみとカップルした結合過程の詳細な自由エネルギー地形を可視化した。実験的に決定された複合体構造以外にも、短い寿命の多様な複合体構造の存在を示した。得られた自由エネルギー地形をより大きな観点から理解するために、粗視化モデルでのサンプリングを行った。複数の準安定な複合体の間の構造遷移を、競合性と協調性の概念から表現した。
著者
高野 光則
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

アクチンフィラメントに沿ったミオシン分子の1方向的な滑り運動は,ミオシンとアクチンフィラメントとの間の相互作用エネルギー地形の特徴によって説明されることが示された(名古屋大・寺田,笹井氏との共同研究)。エネルギー地形はフィラメントに沿って非対称的であり,さらに,大局的にはファネル状になっていることがわかった。アクトミオシンの分子モーターとしての機能それ自体とカップルした,いわゆる"機能ファネル"がエネルギー地形に形成されているようである。また,分子間相互作用に関与すると推測されている一群のアミノ酸について置換の影響を調べたところ,過去のin vitro motility assayの実験結果と符合した。アクトミオシンの分子間相互作用の詳細に探りを入れるため,水分子をexplicitに取り入れたアクチン,ミオシンの全原子MD計算も本格的に開始した。まず,アクチン,ミオシンそれぞれ単体のアロステリーに注目した。現在のところ,結晶構造で示唆されているようなヌクレオチド結合状態の変化にともなう顕著な立体構造変化はみられない。また,アクチンの重合・脱重合過程の分子機構の解明にも取り組んだ。フィラメント構造の安定性には分子間の2種類の静電相互作用,および分子間の接触面の柔らかさが重要であることが分かった。関連研究として,プリオンの重合・脱重合過程についてMD計算による研究を行い,プリオンの脱重合過程のシミュレーション結果をもとに,プリオン重合の新たなメカニズムを議論した(岐阜大・中村,桑田氏との共同研究)。またアクトミオシンの滑り運動機構の研究成果をふまえ,キネシンー微小管系におけるキネシンの1方向的な滑り運動の計算機実験と理論解析を行った。